砂漠の女王-2
首都アルバーナ───
「おお、ペル様だ」
「ペル様、そちらの方達は?」
「ビビ様の大切な方たちです。身分の保証は私がしますのでご安心ください」
超カルガモ(とマツゲ)によって大変な道のりとなるはずだった砂漠を超えた麦わらの一味。
今はアラバスタの首都アルバーナをお尋ね者であるためフードを被り顔を隠しながら歩いている。
そんな格好をしていれば疑われるのは当然だが、ペルの保証があるとわかると一気に空気は弛緩し歓迎のムードに早変わりした。
「やっぱり随分と信頼されてんだな」
「ええ、嬉しい限りです。こんな私をここまで信頼してくださるなんて」
そんな他愛のない話をしながらあの戦いから復興した街を歩いているうちにビビの待つ宮殿の入口へとたどり着いた。
「む?これはペル様、随分と早かったですね」
「超カルガモ部隊のみんなが頑張ってくれましたから」
「後ろの方々は?」
「彼らはビビ様の大切なご友人たちです。彼らがビビ様に危害を加えないことは私が保証します」
「はぁ・・・ペル様がそうおっしゃるのなら・・・」
そう言い、門番は門を開く。
ペルの後に続いて麦わらの一味が入ったところで門が再び閉じられる。
「・・・さて、もうフードは外してもいいですよ。ここまで来たらあなた方を知っている人ばかりなので」
「そうか?そりゃあ助かるな」
ペルの声を皮切りにフードを外す麦わらの一味。
通りがかった何人かが思わず目を見開き、声をかけようとしていたがすんでのところで口を塞ぐ。一番会いたがっているであろう人がいるのにそれの邪魔になるような行動はしてはいけないと判断したからだ。
「ふぅ・・・流石にずっと被ってるのは暑かったわね」
「申し訳ありません。我々としては大手を振って歩いていただいても構わないのですが・・・」
「まあ仕方ねェよな。おれたちは他のやつからしたらとんでもない極悪人だからな」
自分達のことは自分達がよく知ってると言わんばかりにペルに仕方がないと笑いかける。
たとえこの国を救った英雄といえど、何も知らない人から見たら最悪の海賊に過ぎない。
だからこそ彼らに救われたことを知っている人間は最大の敬意を払い、彼らをもてなす。
「到着しました。この先でビビ様たちはお待ちしております」
ペルが扉に手をかけゆっくりと開いていく。
扉が開き内部の様子が目に入ってくる。
その部屋には複数の兵士たち、護衛隊長であるイガラム、その副官であるチャカ。
そして────
「ビビ・・・よね・・・?」
「これはまた大変お美しい・・・」
あの頃の面影を残しながらより美しく成長したビビが玉座に腰掛けていた。
「ビビ様、彼らがご到着なされました」
「ありがとう、ペル・・・・・・ようこそいらっしゃいました、麦わらの一味のみなさま」
「ビ、ビビちゃん・・・?」
あの頃のような砕けた口調ではなく、他人行儀な口調のビビにあの頃を知っているサンジたちは困惑を隠せずにいる。
「この国の女王としてあなた方を歓迎します」
「じょ、女王!?」
情報の洪水を浴び、さらに困惑する麦わらの一味。
それを見て、一瞬ビビがプルプルと震えたのに気づいたのは誰もいない。
「あなた方と共にこの国を救うために戦ったことは昨日のことのように思い出せます。歓迎の宴を開きたいと思いますのでどうかご存分にお楽しみください・・・さて」
そこで言葉を区切り、周りに待機する兵士に指示を出す。
「イガラム、ペル、チャカ、今言った人たち以外はこの部屋から離れるように」
「はっ!」
護衛の兵士は隊長や副官を残しているとはいえ、他の兵士を下げるという女王としてあり得ない行動。
それに一切の疑問を持たずに兵士たちはこの部屋から出て行く。
すれ違いざまに何人かが麦わらの一味に笑みを向けたのは女王たちは見なかったことにした。
「・・・・・・どうやら皆離れたようです、ビビ様」
「そう、それなら!」
座っていた玉座から立ち上がり一気に麦わらの一味の前へと降り立つ。
そして満面の笑みを浮かべ───
「みんな!久しぶり!会いたかったわ!!」
女王としての仮面を外し、公の前では隠していた麦わらの一味としてのビビが姿を見せた。
「ビビー!!!!」
感極まった様子のナミとチョッパーがビビに抱きつく。
他の面子もほっとしたような表情を見せている。
「びっくりさせないでよ!」
「ふふっ、ごめんなさい」
「びっくりしたぞこのやろー!!」
「ちょっと悪戯したいと思っちゃってね。どう?似合ってたかしら?」
「似合ってたけど今のビビがいい!!」
ナミとチョッパーに泣かれて少し困ったような表情を見せる。
思ったよりもこの二人を驚かせてしまったようだ。
「喋り方もそうだが、女王ってのも驚いたな・・・」
「あのおっさんがいなくなっちまったんだ。もうビビしかいねェだろ」
今のところは再会を大いに喜んでいるビビを見つめるゾロとサンジ。
その若い身でどれほどの苦労を重ねてきたのかは想像がつかない。
「・・・ルフィさん」
「ん?なんだ?」
ナミとチョッパーに抱きつかれたままビビがルフィに話しかける。
言葉を探しているような表情をしているがやがてその口を開く。
「えっと、おめでとう・・・でいいのかしら?海賊王になったルフィさんにお祝いしたかったのだけどいい言葉が見つからなくて・・・」
「ししし!そうやって言ってくれるだけで嬉しいぞ!ありがとな!」
「!・・・ええ、本当におめでとう、ルフィさん、みんな・・・」
美しい微笑みを浮かべながら仲間たちに祝いの言葉を述べる。
そのまま各々で会話を始める。
ビビたちについてあまり知らないフランキーにブルック、ジンベエも混ざり和気藹々とした様子でしばらく過ごした。
ロビンに関しては緊迫した空気が流れたがビビの
「あなたのしたことは今でも忘れないわ・・・けどルフィさんたちの仲間なら私にとっての仲間でもあるの・・・だからあなたの話を聞かせてくれないかしら?」
という言葉でその空気は霧散し、話を聞いているうちにぎこちなくはあるが互いに笑みを浮かべることのできる関係へと発展した。
そうやって過ごしているうちにあっという間に夜が近づいてきた。
持ってきた荷物は一旦泊まる部屋に置いておき、麦わらの一味は宴の席へと案内された。