砂漠のキルケー 延
何かにつけて「猫の相手をしてやってる」といったふうな言い方をする。もちろん、そうやって揶揄うのが好きだということはわかっているが、主導権はこちらにあるという態度を常にとられていると時には噛みつきたくなるものだ。今回も「これだから猫は……」だか何だかそんなようなことを言われ、そんなに猫の相手がしたいならとこっちもムキになってしまった。
正しくは猫ではなく豹だ。猫を相手にするのとは全く違うし、以前はここまで猫扱いをしてはいなかった。しかし、おれが豹の姿になっても借りてきた猫のようにおとなしくしているから調子に乗っているんだろう。もしくは、最近はあまり豹の姿を見せていないので、この猛獣好きは物足りなさを感じているのかもしれない。それなら一度存分に豹の相手をさせてやるのもいいだろう。
砂漠の城がおれ達の密会の場所だ。猛獣の棲むこの城には人が寄りつかず、人目を気にせず逢瀬を重ねることができる。猛獣といっても元は人間で、それもここの主とおれだけの、誰も知らない秘密だ。
おれが豹の姿になったのを見て少し呆気に取られた顔をしたが、すぐにいつもの調子に戻った。裸で豹と臥所をともにすることになっても、何食わぬ顔で寄り添っていられるのが砂漠のキルケーだ。毛皮が肌をこするとくすぐったそうに身を捩った。
相手が音を上げるまでおれはとことんやるつもりだ。顔を舐めていた舌を徐々に首元へ進ませる。唾液に濡れた無防備な首に牙を当ててやっても動じない。おれを信じているのではなく、おれが心底惚れぬいているのを知っているからだ。あるいは、おれになら何をされてもいいと振る舞うことで、ますます惚れさせる作戦かもしれない。首に舌を這わせるおれの頭を左手で優しく撫でる。随分と余裕だな。お返しにゆるく爪を出して胸の先を刺激してやった。息を止め、身を硬くしたのがわかる。音を上げさせるどころか悦ばせてしまったか。
今度は舌先をさっき刺激した場所に移して執拗に舐める。頭を撫でていた手のひらは今度は腰のあたりを撫で回し、興奮を煽る。おれが我慢できずに元の姿に戻ると思っているんだろう。それだけ相手も追い詰められているわけだ。そのことに満足しながら舐めていた先を音を立てて吸い上げる。快感をこらえられずに息を吐くのが聞こえる。
ここらが限界だろうか。豹のままではできることがお互い限られていて、お預けをくらっている気分だ。いつまでも撫でられているだけというのはもどかしすぎる。それにしても、ここまで全く拒否する素振りを見せないというのはどういうわけだ? まさか経験があるのではないかとまた邪推してしまう。他の獣と肌を寄せ合っているのは想像しただけで激しい嫉妬に駆られる。自分でもよくわからないが、獣に負けるのは人間に負ける以上に我慢ならない。
再び顔まで近づいて元の姿に戻り、改めて口付けした。獣でも人間でもおれに敵う相手がいるものか。誰も入り込めなくなるまで深く深くつながって、誰のことも思い出せなくなるほど甘い毒を流し込んでやる。