砂上の砦
駄目だ、これは。
ドフィが長らく血眼になって探していた例の弟と目が合ったおれの感想は、概ねそのようなものだった。
その男は、ロシナンテは実兄に驚くほど似ていなかった。
これはおれだけの意見じゃない。本質と呼ばれるナニかを見つけ出すことに長けた、そして王を得てから長く経ち、驕りという覆いすら徐々に剥がされたあのトレーボルのお墨付きだ。つまり、逆さに振っても似た所など見目くらいしか出てこないという意味になる。
おれは自分のことを、それなりに警戒心の強い方だと思っている。
ドフィも、他の最高幹部も皆、他人を恐ろしいとは微塵も考えていないだろう。
おれは恐ろしい。己の居場所が、ほんの些細なことで足元から崩れていくあの思いをするのがたまらなく。
だからずっと、警戒を保つのだ。相手に自分ほどの力があるかどうかなど、実の所おれにとってさほど重要なことではない。
それでも、これほどでは決してないだろう。
おれには、絶対におれを嗤わないと断言できる仲間がいる。同時に、おれが彼らを裏切ることもあり得ない。
だが、こいつはどうだ。
兄に似た金の髪からのぞく赤い瞳には、へばりついた不信が影を落としていた。
こういう手合いが他人を裏切るのに、特別な理由などただの一つも必要ないとおれはよく知っている。
一般的に言われるような、悪意の有無ではない。金に目が眩むとか、あるいは快楽のためにでも勿論ない。ただ恐れから、どうしようもなくそれを選ぶ瞬間がいつか訪れるのだと。
しかし弟をその手に取り戻した我らが王は、14年もの空白について訊ねることをしなかった。
正しくは、その耳に目に、弟の半生に関する一切の情報を入れることを禁じた。
困ったことだが、どうしようもない。
そうでなくては、きっとドフィはおれ達など放り出して、弟すらも放り出して世界を壊しに行ってしまうだろう。そしてその時になればきっと、必ずコラソンが己の全てを以て立ち塞がるのだ。二人の間にあるものをおれは知らないが、何か重要な決定の際、唯一ドフィに異を唱えるのはいつもあいつだった。
そうなればもう、おれ達は決して戻れない。
王が見せてくれるこの夢の中には。いや、おれ達がドフィと出会うその前にすら。
弟は、取り戻した。
ならば今度は病を治す手立てが揃うその日まで、全てを焼き尽くすほどの激情には蓋をしておかなければならないのだ。ドフィのために。おれ達のために。
しかし、しかしだ。
最高幹部の揃う会合も終わり、まとわりついてくる子供達をおれに押し付けた男の背を見やる。
定位置らしいソファに腰掛けながらも、その目は未だこちらを窺っていた。
子供嫌いなど、とんでもない。
あれは恐れだ。注意深く振るわれる暴力とも呼べないような行為は、己に近付くなと線を引くだけの哀れな威嚇だ。
これほどまでに人を恐れて、一体どこに向かうというのか。
恐怖心と手を取り合ってしまったような男はその日も、ディアマンテが羨むほどによく切れるナイフを、己の殺した男の得物を丁寧に丁寧に磨き上げていた。