瞳SS

瞳SS



・恋愛未満の距離バグ親友ぺパアオ







「ジニア先生が言ってたんだけど、暗いところだと瞳孔が大きくなるんだって!」


そんなふうにアオイがペパーに教えてくれたのは昨日の放課後のこと。試してみたい、と言われて真っ暗になった部屋の中で見つめ合って確かめた記憶は新しい。


「おはよう、ペパー!」


その翌朝、エントランスで会ったアオイは、元気いっぱいにペパーにせがんだきた。


「あのね、ペパー、あのあと調べたんだけど、暗いところだけじゃなくて、ウインクすると開いている方の瞳孔が大きくなるんだって。見てみたいな!」

「へえ」


きらきらと好奇心で目を輝かせるアオイのまなざしがくすぐったくてペパーはふっと笑った。


「まだ授業まで時間あるし、試してみるか?」

「ありがとう、ペパー!」


ぱあっとアオイの顔がほころぶ。

人の行き来の激しいエントランスをぐるりと見回し、書架の裏だがちょうど照明の真下の部分を見つける。


「さすがにここじゃ邪魔だろうから、あっち行こうぜ」

「うん」


アオイがするりと手を握ってくる。そのちいさな手を握りかえして、ひと気のない場所へと移動する。


「よし、ここならいいだろ。ウインクか。したことねえから上手にできるかわかんねえけど……」


言いながら、片目をつむっていることがわかるよう、前髪をかき上げて片目を閉じる。

目と口を丸くしたアオイがペパーの頬に手を伸ばしてくる。


「もっと近くで見せて」

「おう」


こうか? と首を傾ける。じいっと見つめてくるアオイの目は、きのうみたいに暗がりの中でなくとも、きらきらと輝いてきれいだった。


「わ、……たしかに、大きくなってる」


すりっとアオイの細い指が頬を撫でるのがくすぐったい。


「もういいよ、ありがとう、ペパー」

「もういいのか?」


アオイの指が離れるのも、近づいていた顔が離れるのも名残惜しい気がした。

前髪を下ろせば、いつもの視界が戻ってくる。


「うん、よくわかったから。ありがとう、ペパー。今度はペパーの番だね」

「オレの?」


うん、とアオイがうなずく。


「よく見ててね!」


えいっとアオイが目をつむった。

――両方とも。


「どうかな? 大きくなってる?」


アオイは真剣そのものといった様子なのがおかしい。

くすりと笑ってペパーはアオイのまろい頬を両手で包み込んだ。


「両方とも目を閉じちまってる」

「え!?」


アオイがしたように、ペパーも人差し指でアオイの顔を撫でた。すりっと目じりを撫でれば、まぶたと長いまつ毛がぴくりと震えた。


「こう?」


さらにぎゅっとアオイの目もとに力がこもる。以前と両方ともまぶたは下ろされたままだ。

ふ、と笑いの発作がこみ上げてきた。くつくつと肩を揺らせば、アオイが彼女の頬を包むペパーの手の甲をちいさなてのひらで覆って「難しいなあ」とふにゃりと笑った。


「ねえペパー、もう一回お手本見せて」


上目づかいにアオイにねだられ、ペパーは「もちろんいいぜ」と二つ返事で頷いた。





――ペパーとアオイは気づいていなかったが、始業前の人の多いエントランスで、チャンピオンと有名な博士の息子とのやりとりはかなりの衆目を集めていた。

放課後までに、エントランスの書架の陰でしていたことに多大な誤解を含んだうわさがアカデミー内に瞬く間に広がっていくとは、当然のことながら、ふたりともちらりとも考えていなかった。


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