眠れる虹の翼

眠れる虹の翼


シンはレジスタンスの案内でアジトの地下に到達した。男性は近くの端末を操作すると、次々とライトアップされていく。格納庫ぐらいの大きさはあろうかという広さの空間の奥に、鋼色の機体が一つ聳え立っていた。

「なんで、何でここにデスティニーが?」

その姿を見たシンは目を見開いていた。なぜならば、そこに存在したのは紛れもなく自分の愛機であったZGMF-X42S:デスティニーに他ならなかった。何故ファウンデーションの地下に存在しているのか、という疑問に答えるかの如く、男性は口を開く。

「この国はデスティニープランを導入した国家だ。その旗頭としてコイツが運ばれて、ブラックナイツの連中によって様々なアップデートが施されている。尤も、この機体は用済みとして解体される予定だったみたいだが」

ここに佇むデスティニーはザフトで開発された一機で、メサイア攻防戦後にファウンデーションへ譲渡。モビルスーツの実証実験に使用されており、この機体の稼働データを以てブラックナイトスコードは設計・開発された。
この男性がここまで詳しいのは、彼は元ザフト合同設計局の技術者で、ファウンデーションに引き抜かれてここで色んな実験に関わった。その過程で技術者としてのプライドが彼をレジスタンスへの道に駆り立てた。

「俺は技術者だ。俺が関わったものをどう使おうがその人の勝手だと思っていた。だが、連中は俺みたいな奴らを人間と見ていなかった。それがとても許せなかったんだ」
「レジスタンスのおっさん……」
「おっさんって言うな。解体される予定だったコイツが忍びなくて、俺はここに運び込んで整備を続けていた。いつか、コイツがお前さんの扱っていたデスティニーのように空高く舞い上がってくれることを願ってた。そして―――お前さんがここに来た」

デスティニーの活躍は嫌というほど耳にしていた。そして、当然パイロットのシンのことも聞き及んでいた。その時点でデスティニーのスペックをフルに使っているとは言い難い印象だったが、男性はそれでも心なしか嬉しかった。

「俺にとっちゃ、コイツは息子同然の存在。だからこそ……シン・アスカ、お前にコイツを託す。宇宙に上がって、世間知らずのガキどもに一発見舞ってやってこい。その為のお膳立てぐらいなら出来るからな」
「その、機体を失った俺にとってはありがたいことなのですが……本当にいいんですか?」
「それだけのことをしたって自覚を持て。お前は俺たちの英雄なんだから。ほら、さっさと準備してこい」

まるでシンを追い出すかのように背中を押す男性。彼の視線の先にいるデスティニーは、まるで望んでいた主が来てくれたのかのように、カメラアイが微かに光った。格納庫のライトに反射してのものかもしれないが、それでも男性の目にはそう思えてならなかった。

「なあ、ハインライン。お前は確かに天才だよ。けど、俺にとっちゃデスティニーは胸を誇れる自信作だ。後は任せたぜ、俺が認めたお前にな」

男性の呟きに対して帰ってくる言葉はない。
それでも、どこか満足げにデスティニーを見上げていたのだった。

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