真新しい手記・57
新作だー!\太陽万歳!/
執筆お疲れ様です…!
『人の夢』
前回のあらすじ
・エースとの別れ
・ロー達の帰還
・人形ちゃん、現実世界へ
・コラさん起こしに行くぞ!
今回もまた前回のお話の続き。
コラさんを起こすべく『狩人の夢』に乗り込んだルフィ、ロー、ドフラミンゴが目にするものとは…?
語り部は狩人の夢の助言者である彼。
参りましょう。
【無音、一閃。激突する刃】
・それは、刹那の如く飛来した。
「――」
降って湧いた気配に、すんでの所で千景を突き出す。
月の狩人となった兄の居ぬ間にと地底に潜っていたせいで、助言者らしからぬ懐かしい装備のままだ。
「音と気配を消した上で気付かれるとは…どういう感覚してやがる」
「殺気に気付けねえんじゃ、いくら命があっても足りなかったからな」
「世知辛ェ話だ」
もう獣の宿らぬ瞳を細めて、記憶を失ったはずのその人…兄が、笑う。
確実におれの首を落とすつもりだった攻撃とは裏腹に、眼差しにはひどく柔らかな色があった。
「帰るぞ、”ロシー”」
「なんで……」
「ちょいと裏技を使ったのさ」
全くこの人はいつも、おれには見えないものばかり見えて、聞こえないものばかり聞いて信じられない答えを出してくる。
そもそもいったいどんな裏技を使えば、この短期間でそれだけの遺志を集められるというのだろう。
カレル文字を切り替えてメンシスの豚でも狩っていたんだろうか。
なんてことを考えている間に、ローの墓石があったあたりがぽっと光っていつの間にか人影に変わっていた。
「あんまり起きねえから、迎えに来ちまった」
「……ロー」
ああ、昔と変わらない、甘さを溶かしこんだ海の匂い。
消えた泣き声の代わりに、ローは再び夢に立っていた。
地獄のような街を見て、全てを知ったはずのお前がどうして、懐かしい狩り武器を背負ってここにいるんだ。
「コラさん!!」
「ルフィ君…」
どうして、どうして皆、おれを。
「"鬼哭"!!!」
「おまっ!いきなり…!!!」
「"ゴムゴムのォ"…」
「…!!」
「"蛇銃"!!!」
「"弾糸"」
「"月歩"!!」
神秘を纏う斬撃を躱せば、波打ち伸びる腕とイトの弾丸とがおれを追ってくる。
空中で動く術を持ってなけりゃ避けられねえとこだ。
「…逃したか」
「そういや海兵だったんだよな、あんた」
「やっぱ強ェな」
「容赦ねえ!」
やけくそ気味で叫んでも、ローもルフィもどこ吹く風で。
「」こうなりゃ…!?」
ようやくまともに構えたおれの足元で、遺志を糧に咲く白い死血花が揺らぐ。
吹き込んできた風は、温かな狩人の夢を枯らす冷たさを帯びていた。
「……来たな」
兄の言葉に月を振り向けば、冷気に押し出されるようにして居た。
あの夜、おれを願った魔物が。
神秘の最奥にありながら、血を求める哀しい赤子が。
「"あれ"の相手は狩人の仕事だ」
慣れた手つきで聖剣を構えた姿は、紛れもなく狩人のものだった。
「ぬかるなよ」「ロー、ルフィ」
いつか見た空を駆ける技で、兄は二人を残して花畑へと向かって行く。
見て分かるほどに二人とも、強くなった。
もしかすると、あの兄を凌ぐほど。
それでも、まだ終わるわけにはいかない。
「おれにはこの夢で…為すべきことがある」
ようやく本当の意味で、ローはおれから自由になれた。
"神の天敵"と呼ばれる血を全うして。
「なんだ…!?」
「コラさん、覇王色を…」
「ごめんな」
墓所の神秘を数え切れぬほど斬ってきた刃は、ルフィの胸を違わず貫いた。
「ルフィ!!!」
至近距離から繰り出された突きを避け、剃で再び距離を取る。
いつだったろうか。
王の才とも呼ばれるこれを、己が扱えることに気付いたのは。
敵の中にひとり、ただ斬って斬って斬り続け、"纏える"ようにまでなっていたのは。
かつての悪夢の主、ミコラーシュの声が血の底から響く。
赤子を抱く者は、すなわち王であるのだと。
「くそ…!!!」
「ロー…お前もできるだけ痛くねえように…」
口から吐き出した言葉は、しかしその途中でかき消された。
ドラムの音が、聞こえる。
「これは…」
悪夢の底に響き渡った解放の音色が、再びおれの思考を焼いていく。
「"ギア5"」
狩人の夢に白がたなびく。
その姿は老いた赤子にひどく似ていて、だが決定的に異なっていた。
黒い意志を継ぎ纏うのは、悪夢の血のなき者たちではなく、いつだって血を流す生き物だ。
「まだこっからだ!!コラさん」
立ち上がったルフィも、その隣に並んだローも、退く気配はなかった。
【たなびくは白。響くは解放の音色】
・なんで、どうしてそこまで。
ロシナンテの心は、彼らにずっと問い続けていた。
「おれのことなんて、忘れてくれりゃあよかったんだ」
ローもルフィ君も、どんな未来だって選ぶことができたのに。
「一夜の夢みたいに、全部忘れて自由に…幸せになってくれりゃあおれはそれでよかった」
ほんの一夜の悪夢のために、わざわざこんな場所に戻ってくる必要なんて、どこにもない。
なのにルフィは、真っ直ぐな目でロシナンテを射抜く。
「夢から覚めて、なくなるようなもんじゃねえ」
それは海を渡る男の、信念の旗を掲げる男の瞳だった。
「忘れたくねェもんがあるからおれ達は、ドクロの旗を掲げたんだ!!!!」
覇気が体を満たしていく。
海賊王になると言った子供は、いつの間にかひとりの誇り高い男になっていた。
「そういうわけだ、コラさん」
形を変えたまだら模様の帽子の下で、ローが笑う。
「おれも預かってるものがたんまりある」
指先の動きで広がっていく光のサークルは、まさか。
「利子付きで返させてもらうぞ」
身構えた瞬間、視界が切り替わる。
ロシナンテはルフィの代わりにローのすぐそばに立っていた。
「"切断"!!!」
「ローお前、オペオペを…」
「"ゴムゴムのォ"…」
「"雷"!!!」
残った片足を無痛でちょん切られ、青い雷光が身を焼いた。
静かだった夢の空を、今は雷雲が覆っている。
「"血刃"…!!」
「"抗菌武装"」
人を焼くはずの劇毒の血は能力に遮られ、刃は鬼哭に受け止められる。
義足を軸に飛び退り、覇気で能力を解除し足を戻した。
「あんた結局、おれから礼のひとつも受け取らなかったろ」
「まだ覚えてたのか…」
「あんたに世話になった人間はごまんといるんだ」
「いい加減観念してくれ」
あの半年ぽっちの旅の最後。
礼を受け取れねえおれに、ローが言った言葉を思い出す。
――あんたが受け取っても大丈夫だって思えるまで、おれが全部預かっとくよ。
「"K・ROOM"!」「…"衝撃波動"!!」
体内に叩きつけられた衝撃で血が燃える。
そのまま振りぬいた血炎は、ルフィの腕に防がれた。
「…っ~!!!」
「"ゴムゴムの"……!!!」
じりじりと焼き熔かされ焦げ付くゴムの臭いの向こうで、巨大な拳が振りかぶられるのが見える。
「"猿神銃"…!!!!」
二度目の血炎が、拳とぶつかり黒い稲妻が散る。
血に染まる蛇を養うための温かな夢が、遺志が焼かれて彼方へ還る。
月の下に、懐かしい血の香りを纏った赤い月光が煌いた。
夢が、壊れていく。
「時間切れだな」
「へへ…ケンカは終わりだ!コラさん」
魔物が、狩られた。
【ゆめのおわり くずれゆくつき】
・呆然と立つロシナンテの視界の隅で、ローがルフィを助け起こし肩を貸している。
あの派手な色を翻した兄が、ドフラミンゴが血に侵された赤い月光を背負い笑っている。
「ドフィ、聖剣が…」
「月の導きなんぞ、有難がるほどのモンじゃあねえだろう?」
「……そうだな」
「…なあ、なんか寒くねえか?」
空を見上げたルフィの言葉に、二人はどこにも繋がらない道の先を見た。
死血花は枯れ、吹き込む冷気が雪を纏うほどに強まっていく。
「コラさん…!!?」
「…ロシナンテ」
歪んだ夜空から現れたのは、"おれ"だった。
【なぎのおわり あしたのはじまり】
・夜空の彼方からやってきた者。
もう一人の自分…凪の上位者の姿を前に、ロシナンテは悟る。
そうか、まだ、終わりじゃない。
「下がってくれ」
もう一度、冷たく優しげな夢を失った上位者に居合の構えで対峙する。
赤い瞳の奥には、かつての月の狩人が取りこぼした遺志の全てが遺っていた。
その首を落とすのに、夢にあるおれが培った一撃以上のものは、必要ない。
『ありがとう』
狩りの夜、眠りについた男の声で、熱い血が満ちてゆく。
神秘の血を宿しながらも遺志を継ぎ、明けぬ夜に意志を握りしめる。
消えゆく夢の最後におれは、そんな己の影を見た。
――夢の終わりは、穏やかな目覚めと相場は決まっている。彼らもまた、きっと。
素敵な物語をありがとうございます…!
しょっぱなからの熱いバトルに手に汗を握りしめたお話でした…!
3 VS 1、また2 VS 1を課せられても尚全く崩れぬコラさんの圧倒的強さ…!
しかしローもルフィも負けてはいない。
オペオペの強さを最大限引き出したローの全力に、解放の白を纏いて勝負を下したルフィ…!
なにより、月の魔物をソロ撃破してる狩人兄上…!兄上のレベルアップが早速役立ってる…!
そりゃ兄上は13年分の貯めに溜め込んだ遺志をレベルアップに使ったんだもんな…コラさんもびっくりなレベルアップでしょう。
バトルの描写は、素晴らしいの一言に尽きます。
それ以上に、ルフィの「夢から覚めて、なくなるようなもんじゃねえ」「忘れたくねェもんがあるからおれ達は、ドクロの旗を掲げたんだ!!!!」って台詞が胸に来ましたね…それが、それこそが『夢』ってものなのだろうなって。
加えてローの「あんた結局、おれから礼のひとつも受け取らなかったろ」からの「いい加減観念してくれ」も大好きです。
いいぞロー!もっと言ってやれ!って気持ちになりました。
しかしコラさんもまた覇王色の覇気の使い手とは…兄上の血を見ればさもありなんではありますが。夢とロマンが詰まった描写に拍手喝采でございます。
こういうのが見たかった…!
最後の凪の上位者たるロシナンテと、月の狩人たるロシナンテの邂逅とその顛末は…あれもまた継承か。或いは統合と言ったほうが正しいか。
…月の魔物は狩られた。狩人の夢の主は途絶えた。
『世界』を守る楔が、軛が外された。
この先の世界は、どうなってしまうのだろうか…?
楽しみでもあり、怖くもありますね…
でもまぁ、今は置いておきましょう。
次回はきっと、宴でしょうから!…多分。コラさん帰って来るし。