真新しい手記・55

真新しい手記・55


新作だー!\太陽万歳!/

執筆お疲れ様です…!


『凪の夢』


前回のあらすじ


・コルボ山三兄弟with狩人兄上、この夜の元凶たる悪夢に赴く


・『黒幕』と『造られた赤子』との戦闘


・その男、海賊王になる男につき


・『HUNTED NIGHTMARE』


今回は視点が移り、現実世界にて奔走するローにスポットライトが当たります。

勿論語り部もロー。

参りましょう。



【この夜の悪夢は狩られた】

・全ての患者の血を抜き戻ったロー達を迎えたのは、無事に悪夢を狩ったらしいルフィ達だった。


それぞれ街を守るために散っていたメンバーも、あの捨てられた古工房に集っている。


海賊に海兵、

革命軍に狩人、

天竜人まで、考えれば考えるほど奇妙な取り合わせの集まりで。


「君達は…これからどうする」


赤い月の下で獣にもならず、血にも酔わずに生き残った天竜人…ミョスガルド聖は、ローとドフィに問いかけた。


「コラさんは永遠の対処療法を望んだわけじゃない」

「助言者としての役目にも、終わりを見ていたはずなんだ」


じゃなけりゃ、夢の果てを目指すルフィの背を押すものか。


ローは内心に語る。


月の狩人となる前のドフィがその気になったのも、この世界を呪う赤子の夢の終わりを見ていたからだ。


どうせルフィは果てを目指す。

それが軛を壊すのなら、ちょっとばかし早く役目を終えたってバチは当たらねえだろう。


「だが、コラさんと同じ方法を選べば、今度はドフィが夢に囚われる」

「そうなりゃ意味がねえ」


「……三本の三本目を回収できなかった以上、狩人の夢の魔物を呼び出すには赤子が必要だろうな」


赤子なら、この血に宿っている。

遥か過去から血に継がれた、Dの赤子が。


「ローはその赤子ってやつなんだろ?」

「一緒に夢に行きゃいいじゃねえか!」


「…無理だ」

「少なくとも、今はまだ」


ローはかつて、コラさんに『狩人の夢』にて"介錯"されている。

今のおれ…ローには『夢』に侵入する手立てはない。


そして、姉様を『夢』から連れ出す方法も、同じように存在していない。


「エース」

「凪の夢には、上位者としてのコラさんがいるんだな?」


「ああ」

「"お前"もちゃんと、そっちにいる」


ローの問いに、エースが応える。

お前、と言ったエースは、ローの心臓を指差した。


おれの血に宿るDの赤子は、眠るコラさんの片割れと共にいる。

大聖堂に眠る竜の血を、白く染めながら。


「あの人に会いに行く」


それと、血の中から産声を上げる時を待っている、産まれなき"おれ"にも。

その果てに、今のおれ自身を手放す結果になったとしても。


「問題は…どうやって凪の夢に侵入するか、だが……」



【きっと『それ』は、この時の為の】

・不意に、ある男が口を開いた。


「…おれは、お前達の探求する神秘とやらを深く理解してはいない」


狩長を探しながら上層の教会関係者を守り、聖堂街まで戻った骨屋と共にようやく古工房に辿り着いた男…グラディウスが、マスクの下で口を開いた。


「おれは"王下七武海"、ドンキホーテ・ドフラミンゴの影だ」

「だからこそ、この街に在るおれは夢から最も遠かった」


狩長、必要であるのならば、お持ちください。


グラディウスからドフラミンゴへ、恭しく差し出された古い封筒。

それは青い封蝋が施された招待状だった。


「…これは?」


「貴方がかつて、望んで遠ざけられたものです」


古びて黄ばんだ紙きれには、報告書に見たコラさんの字でドフィとローの名が記されていた。



【馬車は揺れる。目的地は…】

・招待状を手にした二人…ドフラミンゴとローは、静かになったヘムウィックの辻から『夢』の『カインハースト』へ向かう馬車へと乗り込む。


どこにも存在しない大橋を越えた先には、廃城そっくりそのままの景色が広がっていた。


「よう、やっと来たな」


小さく開かれた門の前には、10歳ほどの子供がひとり。

上等だが雪には耐えようもねえ薄さのシャツを纏ってロー達を待っていた。


「……ドフィ?」


「ああ」


短く切り揃えられた金の髪に、赤い瞳。

年齢には見合わねえ落ち着いた笑みを湛える姿は、ローのよく知るあの人に似ている。


「……エースの言う『アテ』ってのはお前か」


「フッフ!そうだ」

「おれは"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"の捧げた血から産まれ……ずっとロシーの傍にいた」


弟を躊躇いなく愛称で呼んだ子供は、不遜に口の端を吊り上げ腕を広げた。


「お前の記憶も、ロシーの13年もここにある」

「持って行け!月の狩人!!」


子供の首に、聖剣の刃が食い込んだ。



【継がれた『遺志』と『血』】

・まるで夢から覚めるような呆気なさで、ことりと子供の小さな首が落ちた。

血溜まりだけを遺して、幼い体が雪の中に消えてゆく。


「ああ…そうか」


刃から熱い血を滴らせたまま、遺志を継いだドフィは長く長く息を吐いた。

おれを、ローを見降ろすその瞳には、この人が家族へ抱いた慈愛がたしかに戻っている。


「ロー」


「…ドフィ」


「お前がその"繋がり"をなんと呼ぶかは知らねェが…」

「人間はそれにひとつの名前を与えた」


とん、とドフィの長い指がローの胸に触れた。


「ロー、お前には、伝えるべきことがあるだろう?」

「行けよ。ロシーが待ってる」


あの人を、夢に縛り付けたもの。

違う、そうだ、あれはコラさんの選択だった。


コラさんは、おれを。


おれは、コラさんを。


声の響く大広間の階段を駆け上がり、主なき石像の並んだ渡り廊下を走り抜ける。

娯楽本が開かれたままの大書庫の隠し梯子を登り、後から建付けられたんだろう粗末な木の階段から屋根の上を渡って歌声を追う。


それは、コラさんが寝物語の終わりにいつも歌った子守歌だった。


母から子に、継がれた心の歌だった。


「コラさん」


幻のように揺らぎ現れた謁見の間で、おれはまた、知らないコラさんと出会った。



【こころから、つたえたかったこと】

・ローの知らぬ『コラさん』は、ぬめりを帯びた青白い皮膚に覆われた身体に、背中からは翼のような触手が生え、長い首には赤い瞳が何対も並んでいた。

人のものに近い手には四本の指が備わり、尖った鳥の爪のような指先を揃えている。


ローの心は語り、走り出す。


人が異形と呼ぶだろう姿も、もう何も気にならなかった。


あんたが何でも、もういいんだ。


ピンク色の雪が降るあの夜に、おれは心からそう思った。


感動が奇跡の呼び水となるのなら、きっと、おれだって。


「愛してるぜ」


冷たい肌を抱きしめた心臓は、暗く静かに閉じてゆく世界に、ようやく小さな産声を上げていた。



――なんて、冷たくて、温かい。



…素敵な物語を…ありがとうございます…!


あぁ…感無量とは…このことなのでしょうか…?

心が…満ちていくような感覚を覚えます…


成すべき事を成したロー達。

成すべき事を成したルフィ達。

皆が皆、そう。


語られるは『これから』の話。

ローにはまだ『やるべき事』『成し遂げたい事』が残ってる。

その手かがりを運んでくれたのは、グラディウスで。

それを遺してくれてたのは、紛れもなくローの恩人達で。


古びた招待状は、凪の夢への入国切符。


夢の最中に出会ったのは、夢の管理者たる小さなドフィ。

その幼げな身体に封じられていたのは『ドフィの記憶』と『ロシーの13年』で。

「持って行け!月の狩人!!」の台詞がロジャーの「欲しけりゃくれてやる!探せ!この世の全てをそこに置いてきた」をふと思い起こさせたり。

作者様との想定は違うかもですが…


ドフィとローのやり取りも、

廃城の中を駆け続けるローの描写も、

響く子守唄も。

全ての描写が、ローの見聞きし思った全てが、心を震わせる目尻を滲ませてきます…


「愛してるぜ」


やっと…やっと伝えられたんだなって…


これから先の展開は全く予想もつきませんが、今はこの心の震えと余韻に浸っていようと思います…

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