真新しい手記・51

真新しい手記・51


新作だー!\太陽万歳!/

執筆お疲れ様です…!


『歯車を壊す男』


前回のあらすじ


・狩人兄上の旅路、遺志を拾い集める旅路


・大聖堂から上層、聖堂街へ


・出会いと別れ


・トラファルガー・ローを探しに一路禁域の湖へ


今回は前回の続きから。

どうやら時間軸が現在に戻って来るようで…?

語り部はローが務めます。

参りましょう。



【合流。覚めなき赤子達と狩人達】

・時間軸は現在に戻り、ロー達がエース達と再開した場面へ。


「エース…?」


「ああ、正真正銘の本人だ」

「もう生きてはいねえが…それでもお前と一緒に戦える」


カインハーストの狩り装束に身を包んだエースは、唖然とするルフィの背を叩いてそう言った。


「頂上戦争の後、おれは凪の夢に招かれた」

「そこでロシーの血をちょいともらって…こっちに呼び出されてきたってワケだ」


「ロシー?」


「お前の言うとこの"コラさん"だな」


「おお!」


なるほどといった顔のルフィには、コラさんがエースをこの場にやったという以上の情報は必要ないんだろう。

自分は、おれの方には、聞くべきことが山程あるが。


「コラさんは狩人の夢に居るはずだが…」


「そうなのか?」

「おれが知ってんのは、城にいる海王類みてえなロシーだけだ」


「寄生されたまま月の狩人になったことで、妙な状態になっているのか…?だがそれならむしろ…」


「おい」


考え込む姿勢に入りかけた自分に、ドフィから呆れ気味の声がかかった。


「おれ達は神秘の探求に来たんじゃねえ」

「トラファルガー・ローは発見した。ここから凪の夢に入れねえならとっとと移動するぞ」


「悪ィ悪ィ。てっきり"外"の廃城から入れるもんだと思ってたんだが」


頭をかいたエースをおいて、ドフィは雪道を歩き出す。

この反応、やはり。


「あんた、月の狩人だな」


…ドフィが、ドフラミンゴが今どのような状態で自分達の前にいるのか。

ローには察しがついていた。


「そのせいで記憶がねえ」

「凪の夢にゃアテがあったが…」


「…何も覚えてねえのか」


「狩りにまつわるある程度の知識は残っている」

「それと…拾った遺志の示すものもな」


雪の中にうち捨てられた仮面を拾い、ドフィは赤い瞳をこちらに向けた。


「てめェらの目的がどこにあるにせよ、おれはこの夜を終わらせる」


その双眸には、かつてを思わせる苛烈な光が宿っている。

コラさんをコラさんと呼ばずにいたあの頃に見上げた、世界に挑み続ける男の目だ。


「だったら、そのための全ては、ここにある」


ドフィが遺した、この街の秘匿は自分が継いだ。


「皆、力を貸してくれ」



【秘匿の先。ビルゲンワースにて】

・ローが語りだしたのは、聖堂街にて海兵達と別れた後の話。


ドフィに託された鍵を使い辿り着いたのは、とうに滅びたはずのビルゲンワースの学び舎だった。


そうして月前の湖に飛び込み、破られたのは自分にだけ優しい秘匿。


弟を心から求めてやまなかったドフィは、どんな想いで自分を真実から遠ざけたのだろう。

寄生虫でしかない自分を、偽の赤子をそれでも、コラさんの家族とそう思っていたのだろうか。


思考の泥に沈んだ自分に、硬い靴音が近付いてくる。


「あんたは…」


「よもや、このような場所に全てを隠していたとは」

「なるほど探せど見つからないはずだ」


声の主を、自分は、ローは足元が崩れる思いで迎えていた。


新しい、自分達の医療教会の最古参にあたる男。

血に酔わず夜を歩く、ドフィに最も信を置かれた狩人のひとり。


誰よりも、凪を信じ愛した者が自分の後ろに立っている。


「……トゥール」


「狩長殿には…これさえ頂ければよかったのだが」


関節のひとつ多い腕が掲げたのは、古い資料にだけ記されていた三本目のへその緒。


赤子の上位者のみが持つ、偉大なる遺物だった。


「…!」

「なぜ、何が目的でこんなことを!」


「サイファーポール"イージス"ゼロ」


見慣れた狩人装束のまま、トゥールは政府最大の守護者たる名を口にした。


「お前はずっと…ドフィを裏切っていたのか…!!」


「狩長殿にとっては、私の存在も織り込み済みであったようだがね」


鬼哭を引き抜いた自分…ローに裏切り者であるはずの男は仕込み杖を構えることもせず言い放つ。


「いずれにせよ、私が凪を裏切ることはない」


まるで誰より強く凪に祈る、常のトゥールその人のように。


「私は三本の三本目で、月と赤子を呼ぶ」

「一本目はドレスローザで、残りの二本は彼の方の遺した"ここ"で手にした」


「……儀式で赤子を呼び、何を望む」


「永遠の、凪を」


「永遠だと?」


そんなもの、上位者にすら許されてはいないというのに。


「歴史の空白を越え、産まれえぬはずの凪の上位者はここに在る」

「それを不滅のものとするのだ」

「この…壊れかけた世界に生きる全ての命の為に」


向けられた刃が見えてないみたいに、トゥールはこちらにただ歩み寄った。

狂気と言って捨てるには、あまりに敬虔な面持ちで。


「君もそれを読んだのであれば分かるはずだ」

「彼が、軛と成るを選んだことが」


「…コラさんは、自分の意志で夢に残った」

「産まれなき赤子を養い…そして"魔物"に遺志を捧げるために」


「月より遣わされた魔物は赤子を抱く"血に染まる蛇"を守り、凪は全ての赤子の眠りを守る」

「この世界には、軛が必要なのだ」


報告書の最後に付け加えられた凪の悪魔の囁き、コラさんの"直感"は正しかった。


魔物が狩られ狩人の夢が壊れれば、赤い土の大陸は遺志を失いいずれ息絶える。凪の帯が消えれば、世界は赤子の悪夢に沈む。

行き場のない姉様は、その時どんな悪夢へ去るのだろう。


今ですら、温かで優しげなだけの狩人の夢に独り縛られたままだというのに。


「コラさんの…上位者としての凪の性質と月の狩人としての役割、それを永遠に…」


そうだ、おれはそんな馬鹿げた願いを叶える悪魔を、他の誰よりよく知っている。


「…不老手術か!」


「ご名答」

「察しが良いが、もしや君こそがそうなのかね?」

「おそろしい、"改造"の赤子の手を取った者!」


「そうだと言ったら?」


「……やはり君は、"再誕"するべきではない」


狩人帽の下で、トゥールは深く息を吐いた。

ひたすらに、重々しい声が湖に落ちてゆく。


「神とその天敵をめぐるおぞましい歴史を、二度と繰り返さぬように」


世界は、自分が知るよりずっと崖っぷちに立っていた。


「産まれ落ちた君こそが、君の愛する彼の方の望んだ世界を滅ぼさぬように」


自分に"寄生"されたあの人に、そして自分の為にヤーナムを訪れ、月の狩人となったあの人に選択肢はなかった。


もしも、自分がコラさんに出会わなければ。

独りよがりな愛情であの人を呪わなければ。

そんなもしもに、意味などない。


「無事儀式が終われば、この街は永遠に守られる。聖血と、絶えぬ凪に」


それをぶち壊す権利は、きっと自分にだけはないのだろう。


奇跡の医療者として、手の届くだけの優しい人間を救ってきたつもりだった。

鬼哭を手にして、強くなって、守りたいものを守れるだけの力を手にした。


だがそのどちらもが、あの人の命を削り決意を踏みにじった上に成り立っていたのだと、今更になって自分は知ってしまった。


それを変えられないのなら自分は、せめてルフィを、逃がそうと。


…そうして彼は、ローはビルゲンワースを後にし…島を包む規模の『ROOM』を展開し自分とルフィをかつての雪降る廃城前まで呼び出したのだ。

かつての血族の故郷…カインハーストの廃城に。



【語るべきこと、これからのこと】

・ルフィの子電伝虫を使い、ローはデュラ達に、そして子電伝虫の繋がる先の全員に長い告白をした。


自分こそがコラさんを運命に縛り付けていることも、奇跡の医療者と呼ばれていたことも、そして儀式を止めること、コラさんを起こすことが今の世界を裏切る行為であることも。


「馬鹿馬鹿しい」


口火を切ったのは白猟屋だ。


「たったひとりの肩に乗っかる世界なんぞ、おれはご免こうむる」


「ああ、おれもだ」


血に定められた運命なんざクソくらえ。


あの日死にゆくはずの自分の運命を変えたのがコラさんなら、今度は自分が、おれが、おれ達がその運命の歯車を壊してみせる。


「奴を追う」

「コラさんの欠けた夜明けは、もうたくさんだ」



――月の湖に隠されていた真相の一端は開示された。

さぁ、これからだ。



素敵な物語をありがとうございます…!


遂に兄上の手によりビルゲンワースに秘匿されていた数々の情報がローの手に…!

そしてこの夜の黒幕が明らかに…!


凪の夢のロシーの力を借りて狩人として現世に降り立ったエース。

狩人の夢に招かれ『この夜を終わらせる』事に注力する兄上(記憶が一部無し)


ルフィの深くはツッコまない所も、見方を変えれば「本質と今必要な事」だけを的確に捉えてるのだろうな、と思ったり。


そしてそして、黒幕の正体に関しては…うん。

覚悟はしてましたがやはり貴方様でしたか…トゥールさん。CP0でもあらせられたか……

そしてその目的は儀式により『月』と『赤子』を呼び寄せ『永遠の凪』を成就させること…


それは『世界』のためであるなら最善策なのかもしれない。

だがここにいるのは『海賊』だ。

手に入れたいものの為なら『世界』を裏切る事も出来る。

そう、そんな『自由』な奴らだ。


なによりスモーカーさんの「たったひとりの肩に乗っかる世界なんぞ、おれはご免こうむる」という言葉が、全てを表してると思います。

…思えばフロムの主人公達は、そういう「たったひとりの肩に乗っかる世界」を壊す選択を選ぶ、選び取る事が多いような気がします。

火継ぎの物語しかり、狭間の地の物語しかり、遥か東国の物語しかり、烏に山猫に渡り鳥…珊瑚を巡る傭兵達の物語しかり。

そして、狩りと夜を巡るこの物語も。



…そういえばモネさん、あの後ちゃんとデュラさん達のもとに戻れたかな…

妹さんの形見の帽子を、大事に大事に抱えて……

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