真新しい手記・43

真新しい手記・43


新作だー!\太陽万歳!/

執筆お疲れ様です…!


『月前の湖』


前回のあらすじ


・ローの旅路、聖堂街上層脱出編。


・シュガーとの別れ


・星になったシュガー、燃える聖歌隊、燃える上層


今回も引き続き語り部はロー。

参りましょう。



【ほしのうまれたひ】

・煮え立つ夜空の下に、星が瞬いた。


聖堂街上層、聖歌隊の膝下…聖歌隊と孤児院のための一角に鎮座していた聖歌の鐘が、炎に舐められ崩れ行く。

その最期に、人を癒す音色を響かせながら。

そうして鐘の音の元、孤児院のある一角は、眩い光の中へと消えた。


その様子を、呆然と眺めていたローとウタ。


ローはその景色を見つめ、そして脳裏に思い起こす。

過去に一度、ただ一度だけ、シュガーから聞いた話を。


聖歌隊の持ちうる秘儀の最奥。

"創星"

それは遺志の全てを種火と成し、星を産む神秘。


遠く、泣き声が木霊する。

彼方へと旅立った仲間達への悲哀と、そして星を見つけた歓喜の声がローの耳を打つ。


上層からの抜け道を超え、眷属を蹴散らしながらロー達は駆け抜ける。

彼らが駆ける薄赤い夜道に、聖歌が満ちた。



【星産まれた夜。舞い降りる白き娘】

・ウタが星を見上げる。

彼女は片手の特殊な狩り道具…ロスマリヌスを構えるのも忘れて、夢中で歌を口ずさんでいた。

眠りを守る凪と夜空を照らす星とを、いつだって祝福する歌を。


ローの感覚が"彼女"の到来を感知する。


来る。と、


・ローの直感は現実へと変わる。


聖堂街を彷徨う眷属を超音波の壁で吹き飛ばし、白い体躯が星灯りの下にあらわれる。


「エーブリエタース!」


ローは叫んだ。

そう、現れたのは美しき白き娘。

瞳を閉ざしたドフィ…ドフラミンゴがかつて美しいと零した、異形の生き物。

エーブリエタース。人の祈りに感応する人ならぬ者達、ローが知る唯一の上位者。


その彼女が、エーブリエタースが今、子供達とその母親を守り戦っている。

いつも霧がかったように遠く見えたエメラルドの瞳に、きっと人間が「意志」と呼ぶものを宿して。


「ウタを…皆を守ってくれるんだな」

「エーブリエタース」


ローがそうエーブリエタースへと語りかければ、彼女の人ならぬ声がローの頭蓋に星を刻み込む。

ウタも同様なのだろう。頷き返している姿を見てローはようやく禁域方面へと足を向ける。



【いざ行かん、約束の場所へ】

・ローはウタ達へと伝える。


「今のヤーナムにも"ある程度"安全な場所は残っている」

「だが、落とし子達にとってはどこも最悪だ」


今宵はかつての恩人…コラさんが駆け抜けたあの夜と同じ、赤い月が昇る夜。

ただの上位者の欠片を輸血しただけの人間でさえ、すぐに獣になりうる夜。


赤い月が昇る時、人と獣の"間"は曖昧となるが故に。


だから天竜人…呪われし血を引く子供達も、今ヤーナムに留まっては何時獣の病を発症するか分からない。


「ヤーナムを出て、グラン・テゾーロに向かえ」

「あの場所は凪の海の、断絶の領域の直上に位置している」「なんなら獣除けの香も備えがある」


ローの指示に、エーブリエタースの翼に守られたウタも「そこなら皆大丈夫そう…!」と答えるが「でも、ローはどうするの……?」と不安げに見つめる。

ローの口ぶりからして、グラン・テゾーロまでの道のりに同行する様子が見受けられないから。


「…おれは月前の湖に行く」

「心配はいらねえ。ドフィの指示だ」


「狩長さんの?」


「ああ」


「…分かった。ここまでみんなを守ってくれてありがとう!」


独りは危ないから、本当に気をつけて。

そう言い残したウタの声音には、まだ希望の色があった。


ローは嘘は言っていない。

狩長…ドフラミンゴからの指示があったのは本当のことだから。

ただ、もうドフラミンゴは…ドフィはもう居ないのだと、それだけが彼女達に伝えられなかった。


あの夢の、コラさんのように。


「そっちも気を付けろ」


別れ際、ローはウタにそう声を掛けた。


あの時の、あの夢のコラさんに「なんで言ってくれなかった」のだと、どの口でのたまうつもりだったんだとローは自嘲する。


温かな希望に絶望を注ぐことが、今はこれほどまでに恐ろしい。

注いだ絶望が、器ごと全てをこわしてしまうかもしれないのだから。


それでもまだ、立ち止まるわけにはいかない。


ローは乾いた口を引き結んだまま、禁域へと駆け出した。



【そして"ハート"は走り出した】

・禁域へと向かう途中、聖堂街の通りに海兵達の亡骸を見つけるロー。

亡骸達は、海兵となったかつての"ファミリー"…ベビー5やバッファロー、そしてヴェルゴの部下だった者達だ。


亡骸に刻まれた傷口は、最初は獣にやられたものと見ていたが、違う。

もっと理性のある、だが血に酔った狩人のものでもない。


凪の守りが薄れた街に見聞色を使えば、しばらく前まで禁域の一部だった街に戦闘の気配が。

戦っているのはヴェルゴ達に、後は白猟屋とドレーク屋。つまり海軍将校達だ。


足を早め、ローは戦場と化した通りに滑り込んだ。



【"ハート"を冠する者達】

・海軍側として参戦し、鬼哭の一撃を放つロー。しかし相手…CPのひとりである男はローの攻撃を避けきった。

その男は、暗闇の中で獣のように両の瞳を光らせていた。

豹の姿に黒い雲を纏った姿。覚醒した悪魔の実の能力者が牙を剥き出し対峙している。


「トラファルガー!お前一人か!?」


十手を構えた白猟屋…スモーカーが肩越しに叫ぶ。


「…ドフラミンゴは」


おれに指示を。白猟屋への返事をそう口に出そうとしたローに、ヴェルゴのサングラスに覆われた瞳がこちらに向いていることに気付いたロー。


かつて最初の『コラソン』だった、ドフィの『心臓』だった男は、口を開かずにローの言葉を待っていた。


「……死んだ。おれに鍵を託して」


「ああ」


ローの言葉に、ローの掌の熱い血に塗れた水銀の鍵を目にして、ヴェルゴが短く応える。

あの人の…ドフィの血を分けた男は、既に己の王の死を知っていたかもしれなかった。

彼は、ヴェルゴは同じく血を分けた部下達…ベビー5達に慣れた様子で指示を飛ばし、常と変わらぬ口ぶりでローに問う。


「行き先は、湖だな」


「……そうだ」


「行け。ここはおれ達が引き受ける」


ヴェルゴの声はコラさんが眠りにつき、新しく『心臓』の名を継いだローにあれこれと教えていた、あの頃と変わらない。


ヴェルゴは王と定めた者…ドフィの為に、それだけのために生きるような男だった。

なのに王…ドフィを、ドフラミンゴを失った今も、あの頃のままでローの背を押す。


「行ってこい、トラファルガー・ロー」


蹴り飛ばされたような心地で走り出す。

追う動きを見せたCPの男は、すかさずドレーク屋…ドレークが抑え込む。


まだ、まだ足を止めるわけにはいかない。


ローは再び走り出す。



【辿り着いたその場所は】

・ローは駆ける、駆けてゆく。

思いを胸に溢れさせながら、がむしゃらに。


あの夜に、コラさんは何度命を落としてさえ諦めたりしなかった。

ドフィは最期の瞬間までも、おれに全てを託すため使った。


かつて一人の狩人と共に夜を越えた鬼哭を握り、眷属を蹴散らす。

沢山の遺志をローは、ロー達は継いできた。


がむしゃらに、がむしゃらに足を動かし、眷属をすり抜けて走る。

息を切らしながらもただただ走って、走り続けて、ローはいつの間にか湖に辿り着いていた。


かつてビルゲンワースが存在していた場所には、今はもう魚人の血の酒の製造所があるだけ。

すなわちそこは…天竜人の血を癒す、神秘に近しい血に満たされた空間だった。



「合言葉だ」



閉ざされた扉の前には、ひとりでに口を開く電伝虫。

その側面には、くりぬかれたような鍵穴がある。


イトに引かれたように、右腕が鍵を差し込み回した。


合言葉は、もうずっと前から知っている。


「かねて血を恐れたまえ」



ーー今、扉が開かれる。



素敵な物語をありがとうございます…!


ローとウタ達の上層の脱出に、どうやってエーブリちゃんと合流したの?のアンサーや聖堂街での海軍将校達とCPとの戦闘がチラ見せされてたり、ローとヴェルゴの新旧"コラソン"のやり取りだったり…見所を上げたらキリがありませんね…!

大変楽しませて頂きました…!

エーブリちゃん好き。可愛くて強くて美人さんですもんね!

ウタの描写も凄く好きで…『歌』と『星』で紡がれ繋がった星の娘達って感じがします。


そして台詞はありませんでしたがCP9が一角、ルッチも登場。

『流儀』でのカクの台詞からや長官の台詞からも存在を示唆されてましたが、まさかの覚醒体での登場。つよい。


ローはローでかつての「コラさん」が何故何も言ってくれなかったのか、その訳を身を持って知ったり、ヴェルゴとのやり取りだったりと今回も試練と遺志が託されてますね…

そしてヴェルゴさんがカッコいい。流石ヴェルゴさん。


最後のビルゲンワースのシーン、何気に旧ビルゲンワース領地が魚人の血の酒の製造所である事がポロリされてたり、水銀の鍵に「かねて血を恐れたまえ」とブラボファンにはたまらない演出だったり…

「イト」という一文がまたイイ演出。


ここから更に物語は深層へ…真実へと近づいていくのだな…

Report Page