真新しい手記・40
新作だー!\太陽万歳!/
執筆お疲れ様です…!
『あの日の引鉄』
前回のあらすじ
・ルフィ達聖堂街上層探索チーム、道中にて『喋る獣』の痕跡を発見。
・ルフィは『喋る獣』を追い、ウソップとチョッパーはジンベエ達月前の湖探索チームに合流すべく別行動に。
・『喋る獣』の痕跡を追うと、そこには入口が一つしかない謎の部屋が。
・ルフィ、謎の部屋にて『喋る獣』と遭遇。
・『喋る獣』の誕生秘話が明かされる。
・ルフィ、『喋る獣』と分かれた後に紆余曲折の後にローと再会するも…?
今回は、前回の終わりに意味深な発言をしていたローにスポットが当たります。
語り部はロー。
参りましょう。
【診察室にて】
・時間は現在から少し巻き戻り、場面はローが聖堂街にてルフィと別れて少し後。
ローは無事に診察室に辿り着きましたが、そこにはまだドフラミンゴの姿は無く。
事前にトゥールからの話を鑑みれば、ドフラミンゴの獣化の症状は一気に進んだ可能性があり、どこかで動けなくなってるやもとローは予測する。
・念の為にとコートに輸血液を入れてさぁ出発と診察室から廊下に出れば、正面の窓に月光を反射するイト。
間を置くことなく常ならぬ大きな音を立てて窓を突き破り現れた長駆の背は、淡く照らされ朱い色を反射する。
「どうしたんだその傷!!」とローが声を上げれば、返ってきたのは声を頼りにローがそこに居る事を確認する狩長の姿。
ローは悟る。ドフラミンゴはもう、人の区別がついていないのだと。
・人の区別がつかない。それは獣の病の致命的な症状である。
その症状が現れたら最後、人こそが獣に見え、狩りの衝動のままに殺す。
しかしドフラミンゴの身体に見える傷は、全て逃げ傷であった。
ローの喉が嫌な音を立てる。
あぁ、この人は、ドフラミンゴはこうなってさえ、理性を手放すことができなかったのだと。
・ローはドフラミンゴに「なんで反撃しなかった!!?」と詰め寄るが、ドフラミンゴはローの言葉に答えず「……これを、持って行け」と懐から小瓶を取り出す。
ドフラミンゴの血塗れた掌に零した触媒用の水銀は、彼の血を吸い複雑な鍵の形を成した。
ドフラミンゴが、彼が人間"かも知れない"相手に対して反撃しなかった理由。
逃げ傷ばかりを負うことになろうとも決して反撃しなかった理由が、ここにある。
彼は、残された理性を、人である時間を、全てをこの為に使うと決めていたのだ。
反撃に出たら最期。理性は戻らず、彼はただの血に呪われた獣に成り下ると分かっていたのだろう。
・しかしそんな事は、今のローにはどうでもよかった。
手渡された鍵をもぎ取り適当なポケットに滑り込ませ、ドフラミンゴの傷を診る。
彼に致命傷はなかった。
彼の傷は全て、ギリギリで死なないように調整された傷だった。
彼が、この人が知る全てを、おぞましいやり方で知ろうとした者…CPか、連中が連れ込んだ獣に負わされた、刻まれた傷だった。
・ドフラミンゴが、口を開く。
ドフラミンゴ
「ロシナンテが遺した資料の全ては……ビルゲンワースに眠っている…」
ロー
「ビルゲンワース?そんなものとっくに……」
ドフラミンゴ
「鍵の先、月前の湖に…全て…」
ロー
「分かった!分かったからもう喋るな!!」
ドフラミンゴの言葉を、ローが強く制する。
ドフラミンゴの出血はとにかくひどい。
震えを抑えた手で、手持ちの輸血液を片っ端から打ち込み、しかし気づく。
回復が遅すぎる。
コラさんの白い血は、凪の血は、聖血は、ドフラミンゴをすぐには癒やしてくれなかった。
ドフラミンゴは…長く遺志を拒絶し、冷え固まった血だ。その血はローの予想よりもずっと、彼の血は神秘の力を失っていたのだ。
「フ、フフ…おれはこれでも…家族は大事にする男なんだぜ?」
ドフラミンゴが言葉を零した。
・言葉を零したドフラミンゴの眼差しは、ローへと注がれる。
瞳孔の蕩けた赤い瞳は、確かに慈愛を湛えてローを捉えていた。
ロー
「家族って、なんで、あんたの家族はコラさんだけじゃ…」
ドフラミンゴ
「……そうだった、"お前たち"には……Dには必要なモンがあったな……」
ロー
「ドフィ…?」
ドフラミンゴの視線が持ち上がり、ローの頭上を飛び越え虚空に定まる。
能力のイトで作られた包帯すら保持できなくなっているのに、それでもその表情はひどく穏やかで。
ドフラミンゴ
「……ロシー?ああ、随分迎えを待たせちまった……」
ロー
「しっかりしろ!じきに輸血が効いてくるはずだ!だから…」
ロー
「お前なら、こいつに何を言ってやったか…」
この期に及んでも尚、ローに己の血が掛からないよう身を引いたドフィは、口元に笑みを浮かべてそう言った。
・ドフラミンゴの様子に、ローの背に冷たい汗が伝う。
静かな満月に照らされたドフラミンゴは、あの夢のコラさんによく似ていた。
兄弟なんだ、兄弟だから。
思考がひっくり返り、ろくに言葉も出てこない。
「ロー」
「待ってくれ、おれは」
「愛してるぜ」
言葉と共に、ぽん、と薄紅の死血花が、ローの肩口に押し付けられる。
ローの伸ばした手は、音もなく落ちた白い壁に阻まれた。
全身から力が抜けて、そのまま地面にはいつくばる。
海楼石だ。
でもなんで、しかし何故、音がしない。
精一杯声を上げても、あらん限り話が力で壁を叩いても、何の音も響かない。
凪。
カームとソレを呼んでいた彼が、コラさんが何度もおどけて見せてくれただけのそれは、未だヤーナムでも再現ができなかったはずのもの。
冗談じゃねえ。とローは内心に吼える。
一輪だけのこの薄紅の花が、死血花が、そんな奇跡を実現したとでもいうのか。
凪の白に赤い血を混ぜ込んだような花弁は、常の冷たさに変って仄かな熱を発している。
こんなの、約束が違うだろ。
血の病をおれが癒すって、そう言ったらあんた笑ってくれただろうが。
ローの心の叫びは音もなく。
しかし壁の向こうから、小さく話し声が聞こえてきた。
まだ、この診察室にドフラミンゴを追って誰か追ってきてたのだ。
【白は全てを閉ざし、奪っていく】
・ローは海楼石の壁から体を引き剥がし、足をもつれさせながらも立ち上がる。
今、能力を使ってしまえば、まだ。
まだ、間に合うはずだ。
ROOMでオペオペの能力を展開し、シャンブルズでドフラミンゴをこちら側に引きずり込めば、まだ、きっと。
しかし、その希望は間に合わなかった。
「―――――」
バァン、と、夜に良く響く銃声が轟いた。
・ローにとって、聞き覚えのある、特徴的な音。
ドフラミンゴが狩りに使う、獣狩りの、短銃の、音。
手の中から滑り落ちた己の得物…鬼哭がガシャリと音を立てたのを、ローはどこか遠くに感じていた。
ローは知っている。
あの人は、ドフィは、あの銃を決して多人に向けたりしないと。
ローは覚えている。
ナギナギの能力は、使い手の死後解除されることを。
「あ、ああ」
どうして。
通路を隔てローを守る分厚い壁に、行き場を喪った声がぶつかる。
海楼石の壁、白の向こうで、気配が遠ざかる。
ドフラミンゴの追手が、去った。
ローの、縫い目のない帽子が、解れ崩れて闇の中に消えてゆく。
もっと早くに手放すはずだったその帽子は、ある日当たり前のような顔でローの私室に戻っていた。
故郷から連れ添ったあの手触りもそのままに、大きさを、形を変えて、丈夫な『イト』に支えられて。
何でもない顔をしたあの人に、おれは何と言ったのだったか。
ローは思いを巡らせる。
ドフラミンゴは、あの人は幾重にも巻かれた包帯の下で、どんな眼差しでおれを見ていたのだろう。
最後におれを、家族と呼んだあの人は。
「ドフィ――」
もはやそれを、知る手立てはない。
この世界の、どこにもありはしない。
全ての秘匿を守り抜いたまま、おれに力と居場所とを与えてくれた人はもう、どこにもいなくなった。
素敵な物語を…ありがとうございます…
声にならない悲鳴と嗚咽を引き摺りながら、今、これを書いております…
兄上…あにうえぇ……!
どうして、どうして……!
ローが、世界に何をしたというのだ!
故郷を、血の繋がる家族を奪われ!
呪われた白き琥珀にその命を蝕まれ!
呪いから開放されたら恩人の片割れは長き眠りと血の病を抱えてたのを知り!
今!もう一人の恩人が、命を賭して彼を秘匿を暴かんとする者達から彼を守り通した!その命を自ら断つ形で!
…どうして…どうしてなんだよぉ…
兄上は…今際の際に、ロシーがお迎えに来てくれたのかな……
ううん…違うな…ロシーをやっと見つけて…やっと『迎えに来たぞ』って…『待たせたな』って…きっとそういう…そういうことなんだろうなって…
兄上がローに託したもの。
沢山沢山あるけれど、兄上の血を吸って形作られたあの鍵…兄上のお祖父様が兄上のお父様に託した鍵に似てる気がする…
『凪』を宿す薄紅の死血花も、海楼石の壁の機構も、きっと兄上は「いつかこうなる時」を見越して作っていたのかな…
全ては弟の愛し子を、白い琥珀の赤子と弟を、秘匿の中に守る為に。
そのために兄上は、一切の反撃をせずに診察室まで逃げ切った。
ビルゲンワースもかくやな冒涜的な者達から、いくら傷つけられようとも。
何より心に来た描写は、ドフィの「ロー」「愛してるぜ」…ですかね…
ドフィはコラさんとローの別れ際を知らない筈なのに、兄弟揃っておんなじ挙動しよってからに…!!
ローはローで原作スワロー島みたいな状態になってるし…!あぁー……!あぁ……あぁ……うぅ……無理…しんどい…
作者様の素晴らしい技量に万雷の拍手を…!そしてどうか…心身ご無理をなさらないでくださいね…
読み手がこれだけダメージを受けてるので…書き手であられる作者様のダメージは想像も出来ませぬ…
音を立てて落ちた鬼哭。
音もなく消えてしまったローの帽子。
死血花の能力と効力の範囲。
兄上は…やはり……
…兄上は今、どこにいるのだろう…
願わくば…弟君に…会えますように…
ここから何を経て、ルフィに「この街を出ろ」と告げたローとなるのだろうか…
地味に追手とドフィの最期の会話も気になるけど…明かされる日は来るだろうか…
後、地味に「この世界の、どこにもありはしない」が「世界のどこにも居場所なく」にかかっているのだろうなぁと思ったり。