真実と向き合う時間
「ぁ…ぇ…?」
ウタが動揺を深めて、何も状況が理解出来なくなる様を滑稽に思った黒フードは手を叩きながらその場で嘲笑し始める。
『アハハハハッッ!!馬鹿みたい!自分がインクの怪物達と違うって思ってたの!?アホじゃん!頭クルクルパーじゃん!』
罵倒を吐かれたウタは混乱し続ける頭を冷静に働こうとさせる発送すら湧かず、その場で踞るばかり。
『自分は普通の行動出来てるし人格もおかしく無いから、まだ人間で居られると思った?逆だよ逆、こんな場所に居る時点でトックの昔にアンタが倒してたインクの怪物共と同じになってたんだよ!アッハハハハハ♪』
ウタの体調の変化に同調する様に、周囲の家具や部屋自体がインクに変わっていく。イヤ、戻っていくという言葉が適切だろうか。
「消えて…く…皆との思い出が…」
呆然とするウタに比べてテンションが異様に高くなる黒フードは、歩み寄って耳元で囁く。
『一人ぼっちで心寂しかったアンタは、この隠し部屋を見つけた時からインクの能力を利用して味方になる怪物を生み出そうとしていた』
『インクマシン同様の事をしようとして生み出したのが、アンタが仲間って言ってたアイツラだよ』
「嘘だ…そんなの有り得ない!!」
直ぐに否定して、黒フードを睨み付けるウタだったが、当の黒フードには恐れられなかった。だって、ウタは酷く体を震わせて瞳に恐怖の色を宿らせているのだから。
『都合が良過ぎるとは思わなかった?寂しがり屋のアンタの前に、同じ境遇で信頼しあえる様な優しい連中が現れる展開なんて』
確かに黒フードの言う通り、シュガー達がこの空間に居たのなんて奇跡としか言えない。天文学的におかしいレベルだ。
つまり、最初からシュガー達は存在しない。ウタの妄想を、インクが具現化した存在だった。
『アンタは寂しい感情をインクに乗せて作った思いが報われて紛い物のお仲間さんが出来たけど、インクの長時間の運用はご利用的にしないとこんな風に消えて行っちゃうよ。何もかも』
インクとて、無尽蔵に出せる訳ではない。走って体力が消耗するのと一緒で、放出すれば何処かを削られる。当然の理だ。
「そんな…」
愕然とした様に頭を抱えて、今にも泣き崩れそうなウタに黒フードは笑う。妄想と現実を区別出来ないウタを嘲笑う。
『今は使い過ぎでガス欠になっちゃた状態。希望だったお仲間も、こんなドロっぽいインクに変わったら絶望にしかならないよねぇ!エレジア虐殺の犯人さんにはお似合いの顛末だよね!!』
「っ!?何でそれを知って…アンタは一体何者なの!?」
エレジアでの件はシュガー達にはおろか、コッチのスタジオ内ではエレジアを一切話題にすら上げなかったのに何故目の前の黒フードは知っている?
『何でかって?ソレは簡単な話だよ』
答えは爽快明快とばかりに黒フードは、己の纏うフードを脱ぎ捨てる。
『私がアンタ自身だからだよ』
ソコには酷く眼球が濁りながらも、眼光を開いた状態で笑うインクの体をしているウタが立っていた。
インクのウタの正体に唖然として反応する言葉すら出せないウタに代わり、インクのウタは語り出す。
『アンタは最初こそ、現実との妄想との区別は着いてた。でも区別が曖昧になったのは、アンタがインクの怪物達を人間の容姿に寄せ始めたのがキッカケだった』
『生み出したインク達が本当に自由意志を持ってたら?って思ったアンタが実行に移すと意外に簡単!実験は成功し、あの怪物達は見事に自我を発芽させた』