真の大海賊時代

真の大海賊時代


「や、ルフィ」


「は?」


戦闘により熱の籠った脳が冷えていく。

全ての動きを止めて、モンキー・D・ルフィはその目の前にいる存在を見た。

赤と白の髪、耳に染みる美しい声。そして笑顔。


たった一人の幼馴染を。






『ウタは…船を降りた』


その時脳内によぎったのは、自分の憧れた男の声と顔。

まだ幼いあの時はわからなかった、知らなかった、いやわかりたくなかったのだろう。


『ウタ…ウタ…っ!』


憧れの男が涙で顔を濡らし、酒に浸るその後ろ姿を。

それが意味する真実を。


『…まない…すまない…!』


彼女の死を。






「久しいね」


目の前にいる幼馴染、死んだはずの幼馴染。

あの日、"もう会えなくなった"幼馴染


ーー偽物?


声こそ少し変わったが間違いなく彼女だ。



--変身系の能力?


彼女の気配は間違いなく一般的な女性のもの。


あらゆる全ての可能性を。



--本物…!



見聞色の覇気が否定する。



そしてモンキー・D・ルフィの脳内に溢れ出す


淡く、美しい記憶。



「ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ」


刹那、ルフィの身体が抑えられる。


「ッ!?」


ルフィの全身が空間に固定され、巨大な譜面に閉じ込められる。

彼女の、ウタウタの実が覚醒した力が牙を剥いた。


「あはは、作戦成功だね」


見上げると、そこには上手くいった、と言わんばかりに笑顔を見せる彼女の姿。


「お前…」


「久しぶりだねルフィ、12年ぶりくらいかな?」


その笑顔も仕草も、彼女そのもの


「あれからいろいろあったんだよ?まぁ知らないか」


全てかつての…




「お前誰だよ」


一緒だった。


「あれ?ウタだよ?忘れちゃった?悲しいな」


一緒だった。


「…見聞色でわかる」


変身し自分に危害を加えるような存在ではない

肉体も正真正銘彼女のものだ。


「でも違う」


このどうしようもない違和感は


「お前はウタじゃねェだろ!答えろ!お前は…誰だ!!!」











彼女は無表情に指を額の縫い目に引っ掛けた。




「…キッショ」




生まれて初めて感じる究極の嫌悪。




「なんでわかるんだよ」




彼女の額がめくれ上がり、そこから見える口の付いた脳味噌。

この日モンキー・D・ルフィは、最も純粋で恐ろしい悪意を目にした。



「ッ…!!!」


「死体を乗っ取ってるんだ、そうじゃないと美味しいものが食べられないだろ?」


なんてこともないように彼女は語る。


「あぁ勿論肉体に宿った悪魔の実も使えるよ?彼女のウタウタの実とこの状況が欲しくてね。ゴードンのやつ、ウタの遺体をすぐに処理しなかったからなぁ、変なところで気を使うねアイツ、まぁおかげで楽にこの肉体が手に入った」


ふざけるな


「それにあっさり君を無力化できた、万々歳かな?もう誰にも止められないよ」


「ウタを…アイツを踏みにじって、シャンクスが黙ってるわけねェだろ…!」


「…あ~、赤髪のシャンクス?私は彼にそこまで魅力を感じないね」


彼女の身体で、口で行われる尊厳の破壊。


「強力な身体能力、武装色…そして覇王色、どれも人の範疇に収まった程度のものだ」


でも違う、と続ける


「そんなものではないはずだ、人の、悪魔の実の可能性は」


だから


「赤髪のシャンクスには一ミリも魅力を感じないね、どっちかというと君のお仲間の骸骨の方が…」


「黙れ!!!」


もう限界だ


「うわうるさ…はぁ、いいよ」


心底めんどくさそうに、目の前の悪意は顔を歪ませた。


「どっちにしろ私の計画は進むんだ、君はそこで大人しくしててよ。心配しなくても封印はその内解くさ」


100、いや1000年後かな、と悪意は笑う。


「"君"さぁ、強すぎるんだよ、私の目的に邪魔なの」


ーーおやすみ


「ニカ…あ、ついでにモンキー・D・ルフィ、新しい世界でまた会おう」


身体が消える、意識が遠のく


「…ウタ!」




モンキー・D・ルフィ、封印完了。











「…さてと」



誰もいなくなった空間で"彼女"は笑う



「…君はそこで見てるがいいさ、ニカ…そしてイム」



かつて平和を愛した彼女の身体で



「始まるよ…真の大海賊時代が…!」



世界は再び悪意で満たされる。

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