真の呪いとは

真の呪いとは




10月31日──今宵の渋谷は魔境である、異形の怪物が跋扈し無辜の民──即ち弱者が蹂躙される混沌極めた戦場だ、何故こうなってしまったのか──、“現代最強術師五条悟の封印”、全てはこの一つに帰結する。

その凶報をミニメカ丸──即ち傀儡操術の端末から聞かされた虎杖達の反応は様々だった、冥冥姉弟は“嘘だ、あり得ない”と言っていた、虎杖自身もそう思っていた、だが虎杖の中の人物達はそうではない反応は様々だが総じて結論は【油断のしすぎ】である。

中には黒幕の正体に心当たりがある者は『まぁアイツなら様々な対策はしてるだろうな』とぼやいている。

そこから別行動を取り虎杖は二人の少女達に出会った、どうやら宿儺の指を持っているらしい、要約すると。

【これをあげるから夏油という人物の肉体を操る奴を殺してくれとの事、そうしたらもう一本の指の場所も教えるという】

中の住民の──特に万と宿儺からは不満の声が罵詈雑言の様に飛んでくる、やれ指の一本二本で指図するなとか私以外の女が宿儺の指を触るなとかそれはもう煩い、若干宿儺の呪力が漏れている。そんな事をしてる間にもう1人の来訪者が現れる。

「──ここに居たか、呪相図」

頭部が富士山の様な形をしている呪霊、漏瑚である、どうやら先程の呪力漏れで感知したらしくここに飛んできた様だ。

漏瑚の目的は宿儺の完全復活による呪い全盛の時代の到来──であった、だが今は違う、虎杖悠二と言う数々の呪物の巣窟、中に込められたどの人物もその時代の猛者であり──その大凡全てが“特級呪物”として認定されておりその全てを取り込んだ虎杖悠仁は表向きの書類では術師としての等級はないが──その実力を見た一級術師の七海、東堂、冥冥は口を揃えて言う。

《虎杖悠二は既に既存の一級術師を遥かに超えている》と

勿論これは中にいる人物のサポート込みだけどね、と冥冥は言うが虎杖自身の本来のポテンシャルでも準一級は難なく到達するとも言っている。

勿論これは表向きの情報、上層部や特級術師……即ち五条悟や九十九由基に処刑執行の役目が回ってきた事を考えるならば既に虎杖悠仁の危険度は呪霊換算にして既存の特級を超えているらしく過去にその報告があったのは乙骨憂太の特級過呪怨霊の折本里香のみである、最もこの記録は呪霊のみを対象とした記録であり呪物としての記録はそうではない。

──閑話休題、虎杖の中にいる呪いが解き放たれた場合、間違いなく呪い全盛の時代が来るだろう──とは実際に魂()を触れた真人の言葉だ、そして当の漏瑚も五条悟と邂逅した際にこの目で虎杖悠仁を見た際に五条悟とはまた別の異質さを感じ取ったので疑いは無くなり確信した、虎杖悠仁こそが我等呪霊が行き着く先であると。

──ならば己達が集めた指を差し与えるのも悪くない、何故ならば己達が夢見た存在がそこにいるからだ。

──仮に宿儺が顕現し暴れ出し己が殺されたとしてもそれでも良い、何故ならば呪いが人となり大地を踏み締めて生きている実例を見たのだから、故にこの行動に後悔はない。

2人の少女と漏瑚から指を差し出された虎杖は若干嘔吐きながらも取り込む虎杖、計11本の一気である、虎杖の中では飛び出そうとする宿儺を総員で羽交締めにし動けない様にしているが外の人間達はそれを知る由はない。

──そして取り込み終わると中の宿儺の呪力が爆増する、宿儺は羽虫を払うように総員を吹き飛ばし久しぶりのシャバだと言わんばかりに外に顕現する。

「嗚呼‼︎やはり光は生で感じるに限る‼︎」

『なんでお前外に出れんだよ‼︎』

『変われよ‼︎狡いぞ‼︎』

『悠仁の身体に傷一つ付けてみろ‼︎お前の領域(部屋)を潰すからな‼︎』

凄く喧しい、様々な所から目やら口やら出てきてとても愉快な事になっている、当の宿儺はムッとした表情を浮かべ

「ええい黙れ‼︎貴様等は俺が入る前に好き勝手にやってただろう‼︎ただでさえ小僧の身体は檻としての機能が優れ過ぎている‼︎こうでもせんと外に出れんのだぞ‼︎文句があるなら羂索に言え‼︎」

一斉に静かになる中の住民達、ふと思えば事の元凶は羂索だな?後であったらアイツ〆るか、と言う形で話が纏まったらしい。

「はぁ…それで?用件はなんだ、今は過去に無い程に機嫌が良い、特例に頭を垂れずとも話ぐらいなら聞いてやる」

「夏油様を解放してください、そうすればもう一本の在処を教えます」

「指の一、二本で俺に指図できると思ったか?本来なら殺しているが…中に居る馬鹿共が喧しいのでな、疾く去ね」

15本の指の力を取り戻した宿儺の呪力を完全に抑えるのは不可能だ、しかし術式の起こりを抑える事ぐらいは可能だ、中に居る住民達が総出で押さえているのだ、二人はすぐさま立ち去って行く。

次に宿儺は漏瑚の話を聞く姿勢に入る。

「過保護共め…次はお前だ呪霊、要件はなんだ」

「用件は…ない‼︎」

態々呼び起こして用件はないと言われ流石の宿儺も面食らった、話を聞けば呪いが人の形として生きて行く時代の到来を目指しているらしく虎杖悠仁はまさに自分達が求めた完成形に近いらしい。

「成程な、なら何故お前は何もしない?その様な目的を持っているのならお前は悉くを焼き尽くすべきだった、お前“は”呪いのなんたるかを知らん、全身全霊を持って来い、お前“達”に教えてやる、真の呪いとはなんたるかをな」

in虎杖荘

「遂に戦うのか…!宿儺が‼︎」

「なぁ宿儺ってそんなにつえーの?」

「当然よ、呪術全盛の平安にて“呪いの王”とさえ言われたあの男の実力は生物のそれを超えてる、意思ある災害だと思いなさい」

と烏鷺は言う

「本来はもっとガタイが良くて腕がもう2本あるのだけど…神武解と飛天っていう呪具を持ってて誰も手をつけられなかった…そう!誰も彼に愛を教えれなかったのよ!強者故の孤独!彼に愛を教えるのは──」

万のいつものが始まり皆は無視を決め込む、そんな事より宿儺の戦闘だ。

「おい、開始まるぞ」

鹿紫雲の一言で画面に視線が集まる、画面では漏瑚の攻撃を一切寄せ付けず一方的に攻撃する宿儺が写っている。

「あれが宿儺の術式か、呪詞無しであの威力かよ」

「出が早すぎる、掌印だけであの威力、どれだけ呪力出力あげればあんな威力になるんだろうね」

石流とレジィはそう言う。

「その出力ってそこまで重要な物なん?」

虎杖の純粋な疑問に答えるのは虎杖荘の住民の中でも随一の出力を誇る石流だった。

「勿論だ、当然術者の腕とか術式の練度もあるけどな、例えば俺のブラストは俺が使うから大砲になるんであって、出力がショボい奴だと精々が拳銃だ、だから宿儺の斬撃も同じ様に宿儺のイカれた出力と練度だからあの威力がでてる」

「つまり半端な練度と出力の奴が使えば宿儺の斬撃はそこまで脅威じゃない?」

「そうなるな、術式全体で見た場合宿儺の術式の格は中の上、良くて上の下ってとこなんだが…それをあの領域まで持って行ったのは一重に宿儺の腕と出力あって他ならない」

「マジか」

石流の返答に納得した虎杖、反して鹿紫雲がふと言葉を発する。

「それにしてもあの呪霊もかなり強いな、平安にはあんなのがゴロゴロいたのか?」

「あー…まぁ居たには居たわよ、その殆どが宿儺に殺されたんだけど、あの呪霊は平安出身の私達から見てもかなり上澄みの方、よく現代であんなのが産まれたわね」

「…そんな奴でも宿儺からしたら玩具か」

「勘違いしてる様だけど、宿儺は生きる天災よ、どれだけ自然災害への恐れが形取ろうと本物の天災には勝てない」

中でてんやわんやしてると漏瑚が大技を切る。

《極の番──隕‼︎》

「ッ‼︎極の番を使えるのか‼︎相当な化け物じゃねえか‼︎」

「アイツは領域も使えた、領域と極の番という呪術の奥義たる技を使えるとはな」

「アレは流石に喰らいたくねえな、仮に宿儺としても無事じゃ済まないだろう」

『──当たればな』

画面の中とこちら側の発言が被る。

──in渋谷

燃え盛る隕石上にて、宿儺と漏瑚は対面していた。

「なぜ領域を使わん」

「──ッ‼︎領域の押し合いでは勝てない事は──」

「そう言うところだ、貴様に足らんのは、五条悟がそうだったからか?負け犬根性極まれりだな」

宿儺の発言に歯軋りする漏瑚だが事実その通りなのだ、だが──

──お前は悉くを焼き尽くすべきだった。

戦闘前の宿儺の発言が脳裏に過ぎる、自分では宿儺に勝てない、分かりきっていた事だ、そして自分は死ぬ…だが己の生はこの際もう良い、呪いの王が直々に言ったのだ、全身全霊で来いと、ならば──

「そう、かもしれんな、真人の言う通りだった…呪いは呪いらしく、己の好きに生きれば良かった、あの術師を頼った辺りから、呪いとしての儂は死んでいたのだろう、ならば…最後の最後ぐらい──好きに生きてみよう」

漏瑚の呪力出力が上がる、最強の呪霊が遂に呪術の極地たる切り札を切るのだ

「ククッ、そうだ、それで良い」

──ここに獄炎の地獄が顕現する。

「領域展開‼︎【蓋棺鉄囲山】‼︎」

漏瑚の領域、蓋棺鉄囲山は火山の溶岩溜まりを展開する領域だ領域の環境として高熱が常時発しており並の術師では入った瞬間に焼き切れる、そしてこの中では漏瑚が持つ数々の技が全て必中になる。

in虎杖荘

「見るのは二度目だが…相変わらずの領域だ、必中だけじゃなく必殺まで付与されてるとはな」

「同感だな簡易領域にも空間の熱で対策してやがる、認めたくないが過去全ての呪霊、術師合わせてもコイツに勝てるのはそう居ねえ」

画面内では飛来する虫や岩石、炎、マグマ等の攻撃を捌きながら漏瑚と交戦する宿儺が映っている。

「俺も一回アレに入ったけど五条先生もそうだったけどなんで宿儺ノーダメなん?宿儺には無限ないだろ?」

「呪力操作が神がかってる、自分の周りに薄く呪力を纏って守ってやがるんだ、確か宿儺レベルの操作なら下手な簡易領域を凌ぐだろ」

「そもそも領域展延使えるだろうしね、とことん遊んでるのよ彼、久々のお外だろうしね」

──画面内の宿儺が閻魔釈天の印を組む、それに即座に反応したのは鹿紫雲と石流だ。

「宿儺の領域‼︎」

「どうなるんだ⁉︎」

『領域展開──【伏魔御廚子】』

宿儺の領域が展開される、しかし漏瑚の領域が塗り潰される事はなかった、それ以上の事が起きたのだ。

「嘘だろ⁉︎」

「馬鹿な‼︎」

「あり得ねえ…」

様々な反応があるが発言主を問い詰める気はなかった、それ以上に今起きた事は異常だったのだ。

──領域展開、己の生得領域を現実に展開する呪術の極地にして奥義、通常領域は結界を構築し外と中を分断しその中で必中効果…即ち術式を付与する事で成り立つ技、前提として結界で領域を閉じ相手を結界の中に入れるのが領域の鉄則だ、その鉄則には現代最強の術師、五条悟でさえ抗う事ができない。

しかし今回、呪いの王たる宿儺が展開した領域は更にその先を行く──。

カシャァァァン。

盛大な音を立て漏瑚の領域が崩れる、そう、宿儺は漏瑚の領域を塗り潰したのでは無い、外から切り崩したのだ、通常領域の押し合いは必中範囲の縁の押し合いをする形となる、もしくは既に展開されている領域内から領域を展開する際の既存の領域を押し除ける形のどちらかだ、決して一方的に外から結界を崩す事は無い──筈だった。

呪いの王──両面宿儺の領域はその理を凌駕する。

宿儺の領域はなんと結界にて領域を閉じず展開したのだ、言葉にすれば容易いが実際の難度は果てしなく高い、結界を閉じずに領域を展開するそれはキャンバスを用いず空に絵を書くに等しいまさに神業

「そんなに難しいことなん?」

呪術初心者の虎杖の質問が飛び交う、それに答えたのは烏鷺だった。

「悠仁、貴方は紙を使わずに絵を描く事ができる?ゲーム機の電源を入れずにゲームソフトで遊ぶ事ができる?」

「…出来ねえ」

「要はそう言う事なのよ、今宿儺がやってのけた事は」

かれこれ言っている内に画面内では宿儺の領域にて漏瑚が切り刻まれて行く。

in渋谷

「ガフッ‼︎」

「ほう、まだ息があったか、存外に丈夫だな、しかし風前の灯だな」

「これ、が…真の呪いか…全く敵わん…」

「そう卑下するな、最初の貴様こそつまらんかったが領域を展開した後のお前は多少楽しめたぞ?俺は過去にあらゆる呪霊、術師、人間と戦いそして今も小僧の中で呪物共と幾度も戦っているが、お前はその中でもマシな方だった──誇れ、お前は強い」

「…呪いの王直々の言葉なら信ずるに値しよう、先に逝った花御と陀艮にも申し訳が立つ…悔いはない、儂は最後の最後にやりたい様にやれた…」

そう言い残し漏瑚は消滅した、その最中宿儺に一つの人影が近付いていた。

in虎杖荘

「あれ…もしかしてこいつ裏梅じゃない?」

突如として現れた人物の正体を語ったのは万だ。

「知ってんの?万姉ちゃん」

「宿儺の従者よ、あいつどこにも居ないと思ったら別に受肉したのかしら、宿儺と同居するチャンスを逃すなんて可哀想に」

「どうせ羂索が色々したんだろ、そう言うのあいつ大好きだし」

「へー…お?そろそろ戻れそうだし戻っとくわ」

「…あの呪いの王から肉体の主導権を短時間で取り返せる悠仁も大概だな」

「俺達で慣れてるんだろ、もしくは多少なりとも宿儺も消耗したかのどちらかだ」

in渋谷

「そろそろ小僧が戻ってくる、裏梅、ゆめ準備を忘れるな」

「はっ、承知致しました、宿儺様」

そう言い残し裏梅は飛び去り、宿儺もまた異様な気配を感じとり飛び去ったのだった。


「おいおいおい、ちょっと待てよクソ術師‼︎」

「先に逝く、せいぜい頑張れ」

新たな戦いが、繰り広げられようとしていた。

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