看病
お姉様、とわたしが声をかけるとエリスお姉様はその美しい御髪をふわりと揺らしながらこちらに向き直りました。いつもわたしのことを呼ぶときのあの優しい声が耳を撫でます。
「どうかしましたか?ステラ」
「い、いえ…その、お姉様は寒くありませんか?今年の冬は骨まで凍ってしまいそうな寒さですから心配で…」
「私のことを気遣って声をかけてくれたのですか?…ありがとうございます。ステラは本当に優しい子ですね」
「もったいないお言葉です!」
エリスお姉様はリリウムの中でも働き者ですから、ここ最近の寒さのせいで体調を崩されていないかが心配でした。
「私のことなら…ほら!こんなに元気ですから、心配には及びませ、ん…よ…」
「お、お姉様!?大丈夫ですか!?」
畏れ多くもお姉様の額に手を乗せてみると、明らかに熱があるようでした。
「やっぱり…お姉様は無理をし続けていたのですね?」
「ごめんなさい…妹の不安を取り除けないようでは姉失格…です、ね…」
「お姉様…っ!今すぐ部屋へお運びしますね!」
とりあえず、お姉様の着替えを済ませてベッドに寝かせましたが…これで少しは良くなるでしょうか…
「…風邪、ね。エリス、貴方無理をしすぎたのよ」
「ごめんなさい…」
「マルファ様…ありがとうございます。お姉様が倒れたと聞いてわざわざ駆けつけてくださるなんて…」
「…悪霊との戦いに敗れてしまったというのなら、それはエリスの実力不足よ。だけど病となれば話は違うわ」
「あの…それは、エリスお姉様がマルファ様の『妹』だったからですか?」
「そうね…虫の良い考え方なのはわかっているつもりよ。貴方にとっては気分のいいものではないかもしれないわね」
「い、いえ…わたしには…そんなつもりなんてありませんから…」
「それならよかったわ」
マルファ様はそうおっしゃったあと、お姉様の顔を覗き込んでいました。
わたしも何か…お姉様を元気づけてあげられるようなことをしようと思って、お姉様の手を自分の手で包みました。
「マルファお姉様、ステラ…心配させて本当にごめんなさい。ふたりの優しさが染み入ります」
「…とにかく、治るまでしばらくは安静にしていることね。私はそろそろ行くとするわ」
「あっ…お姉様…えへへ…」
マルファ様がお姉様の頭を撫でて、お姉様は少し嬉しそうにしていました。それは『姉妹』なら当たり前のことなのでしょうけれど、なぜかわたしの心に波を立てました。
ああ…駄目だ…これではお姉様との距離がまた開いてしまう…わたしは無理を続けるお姉様を止められなかった肩書きだけの『妹』のまま、お姉様とのぎくしゃくした関係は変わらない…
「わ、わたしが!」
気がつくとわたしは、病人のいる部屋だというのに大声を出していました。お姉様とマルファ様、おふたりの視線がわたしに注がれます。
「わたしが、ずっとつきっきりでお姉様の看病をします!風邪が治るようにお姉様のことを支えますから、お姉様もマルファ様も安心してください!」
突拍子もないわたしの発言にお姉様たちがしばらく考える様子をお見せになったあと、得心のいった表情で口を開きました。
「ステラはとても優しい子ね。エリスにはちょっともったいないくらいだわ。とても頑固で融通の効かない妹だけど、どうかエリスのことをよろしくね」
「その、風邪が治るまでの間はステラに甘えさせていただきます。体調が万全になるまでは働き者のお姉様はお休みすることにしましたからね」
恥ずかしいことをしてしまい反省やら後悔やらが混じった気持ちがわたしを襲いましたが、マルファ様とお姉様からもらった言葉でわたしの心がじんわりと暖かくなったような気がしました。
「…はいっ!」
〜END〜