相聞歌

相聞歌



【閲覧注意。CP混合注意】

以下注意書 

・🥗ホーキンスの性格は原作より明るくなっております。

・キッド、キラー、ドレークが🥗ホーキンスに好意を寄せている前提で全ての話が進みます。CP要素はキドホ🥗、キラホ🥗、ドレホ🥗です。全体的に🥗ホーキンスが総受け気味です。

・原作の周囲の関係をかなりいじっておりますのでご注意下さい。また、原作キャラクターの一人称の表記が誤っている可能性がありますが、ご了承下さい。

・誤字脱字等あるかと思われます。

以上が問題なければお進み下さい。↓↓




目覚めてくれた。大切な人が、目を覚ましてくれた。キッドとキラーは無我夢中で彼女の身体を強く抱きしめた。彼女の船員達は何やらぎゃーぎゃーと大騒ぎしていたが、そんなのは気に留めなかった。抱き締められていたホーキンスは困惑しているようだった。

「……ねぇ」

キッドとキラーは殆ど同時に抱きしめる腕に更に力を込めた。

「……生きててくれて…」

「良かった……」

柔らかい、温かい。人の温もり。あの時は硬くて、冷たかった。彼女の体温を感じて、やっと生きていると実感が持てた。外からは花火が上がって、人々の楽しそうな声が聞こえて来ていて…ここでは彼女の止まっていた時間がやっと動き始めた。

「………ありが、とう」

ホーキンスは暫くの沈黙の後、絞り出すような声で2人に言った。


彼女が目を覚ましたと言う事は、麦わらの一味、ハートの海賊団、キッド海賊団の面々、果てや赤鞘、将軍モモの助、ヤマトにまで伝わっていた。

「ホーキンス無事だったのかぁ!」

「良かったなぁ!!」

「まだ安静にしてなきゃだめだぞ!」

「無理をしないでくださいね」

等々…敵対してた彼らも喜んでいたので、ホーキンスは困惑していた。自分は敵であったはずだ。なのに何故か皆、ホーキンスの無事を喜び、かつ船員達は仲良くなっていた。というかキッド海賊団との間に生まれていた蟠りなどなくなっており、関係も解消されていた。簡単に言うならば、『色々あったけどまぁ水に流そうね』という所だろうか。

「あんたが教えた願掛けも効いたのかもしれねぇ!!ありがとうヤマト!!」

「お役に立てたなら何よりだよ!」

自分の船員が、カイドウの娘である女と手を繋ぎ大きくぶんぶんと振り泣きながら感謝していた。

本当、自分が寝ていた間に何があったのだろうか。連日人が来ては大騒ぎする。確か自分は匿われているのではないか。いつか絶対バレる可能性が高い気がした。占うまでもないかも知れない。

「五月蝿ぇなぁ…」

「というかホーキンス!しょうがなかったとは言え、俺らはお前にやられた事あんまり良く思ってねェからな!」

「後、お前のその怪我治してくれたのはウチの船長だからな!!感謝しろよ!!」

「アイアーイ!!」

ハートの海賊団のシャチ、ペンギン、ベポ、ローまでも姿を見せた。はっきり言って気まずさはある。

「…何言っても許されない事はわかってるけど…ごめんなさい。それと…ありがとう…」

「「「いいよぉ!!!」」」

ノリで許す3人を見て、ローは呆れていた。

「…トラファルガー、でも、何故私の事…」

「俺は初期治療をしただけだ。後を診てたのはトニー屋だ。そっちに感謝しとけ」

「……私は貴方も、貴方の船員も拷問にかけたのに……」

「……俺は医者だ。まだ死んでねェ人間を死んだと決めつけて、葬式みたいな事をやられてるのを見て居た堪れなかっただけだ」

ローがキッドを追いかけた先で見たのは、何とも形容し難い程、泥沼劇の様な最中だった。好きな人を手にかけた者達、信じきれなかった者達、原因の一つを作った人物を一方的に傷みつける者…。確かにあの時のホーキンスは殆ど死んでいたと言っても過言ではない。だがまだ生きている彼女を放ってこいつらは何をやっているんだと疑問に思ったし頭にも来た。だから助け船を出したのだ。正直な所、彼女が生きるかは本当に賭けだった。思ったよりも傷は深いし血は流れ過ぎていたし…何より彼女自身がもう生きる事を諦めていた様な気がした。そんな彼女が今生きているのは、ロー自身も驚いた。

「…何の事?」 

「コッチの話だ」

もちろん、ホーキンスはあの現場を見ていないので分からないだらう。彼女はただ首を傾げていた。

「ホーキンスちゅわあああん!!!」

「あ、サンジ!!」

麦わらの一味のサンジがやって来た。近くにいたチョッパーが仲間が来た事で嬉しそうにサンジの方に駆け寄る。

「怪我の具合はどうだい?」

「…ありがとう。大丈夫」

「そりゃあ良かった」

ワノ国では淡々と話す姿しか見てこなかったローは、彼女が穏やかな笑みを浮かべながら話している姿を見て、何度か驚かされた。こんなに笑う女だったのか、と。この笑顔に彼女の船員が、キッドが、キラーが、ドレークが惹かれていったんだろう。

キッドとキラーは彼女の命を奪う事を強いられたのだ。自分が大切な人…13年前に命と心をくれたあの人をローは思い浮かべる。その人を、殺さなければいけない…考えただけで耐えられる自信がなかった。

「みんなから聞いたけど、貴方がステルスブラックだったのね」

花の都の湯屋で、2人は会っている。『海の戦士ソラ』の登場人物だったジェルマ66のステルスブラックが目の前に居て、彼女は興奮を隠せなかった。いくら憎きジェルマとは言え、綺麗な女性が自分を見て喜び、興奮している様を見て、サンジはあろう事か「ジェルマ最高ぉー!!」と叫んだ。しかもステルスブラックの姿で彼女を口説いたため、「解釈違いよ!!」と平手でぶっ叩かれたのはサンジにとっていい思い出である。もうレイドスーツはないが。女性に喜んでもらえるならまた着てもいいとさえ思ってしまう。

「今もステルスブラックになれるの?」

「え?あぁ…ちょっと、色々あってレイドスーツは壊したんだ……」

「そう……」

少し寂しそうに呟くホーキンスを見て、サンジは幾ら彼等のようになりたくないとは言え、レイドスーツを壊す判断をした事を後悔した。何故か。

「が、外骨格とか変わらないようなスーツ…アイツらのようにならないようかヤツ…作れって……あのクソ親父に……頼めば………」

「サンジー!?」

サンジは頭を抱えながら何かをぶつぶつと言っていた。

「そう言えば、ホーキンスちゃんはあの後、キッドとキラーには会ったのか?」

サンジが何気なく問うと、ホーキンスの表情が少し曇った。

「…なるべく、会わない様にしてるわ」

「それは…どうして?」

キッドとキラーが意中の人を抱きしめたというのは3つの海賊団や侍達の間で話題になった。キッド海賊団やホーキンス海賊団の中では、キッドとキラーが彼女に好意を寄せていたのはちゃんと知っているのである。あからさまにわかりやすかったので、『そんなの知らねぇ〜!』という方がおかしい程だった。一週間以上目覚めない事で、彼等の空気は重かった。早くこの空気から解放されて欲しいという思いから、早く目覚めて欲しいと皆思っていたのである。その甲斐あって、ホーキンス海賊団とキッド海賊団、及びハートの海賊団、麦わらの一味は見事和解に成功したのだ。海賊同盟が破綻したのに持ち直したのは前代未聞の快挙であろう。ちなみにホーキンスは彼等から好意を寄せられているのは全く知らない。彼女の船員達曰く『元々本人は年下を揶揄うように関わってたつもりだし、第一裏切り者の自分が、彼等に好意的な目で見られる事は二度とないと思っている』からだそう。

「…私は、あの2人に会う資格なんてないでしょ?」

ぎこちない笑みでサンジに告げた。どんな理由であれ、どんなに後悔したってホーキンスがキッド達を裏切った事は事実。彼女自身はその後ろめたさが強いのだ。

「でもあの2人って、ホーキンスの事…」

そう言ってペンギンがチョッパーの口を塞いだ。

「おっと、それ内緒な?」

シャチが小声で告げる。

「何でだ?」

「コイツらの事情は、俺らが考えるより複雑だ。それに…アイツらの口からちゃんと伝えた方がいいだろ?」

「そっか!」

シャチとペンギンとチョッパーは、そんなやり取りをしていたが、事情を把握しきれていないベポは終始首を傾げていた。

「…皆、私の心配してくれる。船員達も、貴方達も…勿論、キッドもキラーも…。でも私、弱いからカイドウに屈しちゃったし、同盟に誘ってくれた彼等を裏切った。しかもキッドをライフに使った。…そんなヤツが今更許されるなんておかしいでしょ?」

確かにこの場にいる人間で彼女だけカイドウ側の人間として戦った。どんな理由があったとしても、カイドウに屈してしまった彼女は百獣海賊団の真打ちとして対峙した人間だ。その事実は覆せない。しかもキラー戦では、キッドを自身のライフとし、盾にした。相棒をそんな風に使われては、キラーとて許せない筈だ。ホーキンスは彼等にとって、同盟を裏切った卑き魔女で良かったのだ。なのに何故、彼等はあんな態度を自分に取ったのだろうか。自分の身体を抱きしめた。“生きてて良かった”なんてどうして思うのだろう。それがホーキンスの中では疑問だった。

「……貴方達も私の事、そんなに心配しなくていいから」

そう言ってホーキンスは微笑んだ。“自分は絶対、許されてはいけない存在だ”、とこの場にいる皆に言っているような物だった。するとローが盛大に溜息を吐いて立ち上がった。

「…おい行くぞ」

「あ、待ってよキャプテーン!!」

「じゃあなぁ〜。身体大事にしろよ〜」

彼等は部屋を後にするが、ローは彼女を見下ろすように言い放った。

「鈍いのも大概にしろ。テメェは人の気持ちをもう少し考えられる女になったらどうだ?」

「…え?」

この発言にホーキンスは首を傾げる。

「おいロー!彼女だって色々複雑なんだよ!レディにそんな事言うんじゃねぇ!!」

「俺は女だからって差別しねぇ主義だ。言いたい事ははっきり言う。第一、こんな態度ずっと取られてちゃ、あの2人が浮かばれねぇだろ…!」

「それも一律あるが…!」

「黒足屋は見てねぇからそう言えんだよ」

ローはそのままサンジを振り切って行ってしまった。サンジは知らない。ローだけが知っている光景がある。手にかけたくも無い人を手にかけて、やり場のない怒りが爆発していたあの2人の姿を。だからこそ、まだ生きていると知った時、目覚めたと知った時、あの2人はどんなに嬉しかったのだろうか。そんな2人の気持ちを露知らず、“自分は同盟を裏切った女であの2人に会う資格など無い”と言われれば、ローとて腹が立つ。ローはそんな事を思いながら仲間達と歩いた。

「ホーキンスちゃん。ローが言った事は、その……」

「……大丈夫よ。気にしないで」

ホーキンスはぎこちなく微笑んだ。“あの2人が浮かばれない”。ローはそう言った。あの2人とは、キッドとキラーの事だろうか。何故そうなるのだろう。ホーキンスは疲れたから休む、と言ってチョッパーとサンジには出てもらった。そして布団に横になりながら考える。

…正直、キラーと戦った時、自分はまともな精神じゃ無かったと思う。でもあの時、キラーは明らかに動揺していた事があった。しかも、“もう戦うな”とか“辞めろ”とか、自分を気にかける素振りも見せていた。それが意味する事とは何だろう。キッドも、自分を恨んでいた筈なのに、目の前から消えろ、とか言ってたのに、なのに何故、あの時“生きててくれて良かった”等と言ったのか。わからない。どう考えても、ローの言った意味が理解できない。

すると戸が開いた。

「…大丈夫か?」

ドレークが入ってきた。ドレークの方は傷も大分癒えたようで、もう平気らしい。そのまま彼女の近くに腰を下ろした。

「疲れてるか?無理はするなよ」

「…大丈夫、と言いたいけど…」

「けど?」

ホーキンスはローに言われた事で悩んでいる旨を打ち明けた。するとドレークは少し悩んで小さく溜息を吐いた。

「あいつ……」

「トラファルガーが言うには、私の態度があの2人を傷付けてるらしいの…。それが何故なのか分からない。だって私は……」

「“同盟を裏切ったのに”とでも言いたいようだな?」

ドレークに言いたかった事を見透かされ驚いたが、彼女は素直に頷いた。ドレークはしばらく考える。

「…お前が思っている程、あの2人は同盟の件は気にして無いとは思うがな」

「…皆、そう言うけど…」

「じゃあ聞くが、元々お前はあいつらを裏切る気だったのか?」

「そんな事ない…!」

「そうだろ?最初から同盟を裏切る気だったのはアプーだ。その点で言えばお前も巻き込まれた側の人間。確かにお前は命惜しさに傘下になったんだろうが、その選択でお前の船員は全員無事だったじゃないか。キラーにそう言ったんだろ?」

「え…?私、何か彼に言ったっけ……」

「お前の本心を知れた事、お前の選択した結果で船員達が無事だった事で、あいつらもお前が同盟を裏切った事をそこまで恨んじゃいない。皆そう言いたいんだよ」

「そう、なの…?」

無我夢中だったので、ホーキンスはよく覚えていない。キラーと戦った時、彼女は自分の胸の内を話した。彼女は傘下になったが、その甲斐あって自分の船員は誰1人欠ける事なく、奴隷の様な扱いも受ける事なく、キラーのようにプレジャーズにならずに済んでいる。キラーは彼女の本心をあの時聞けたのだ。だとしたら、彼等もそこまで責められない。そもそも2人はホーキンスに好意を寄せていたので、あまり恨んだりはしていなかったのだ。

「…何か言ったような気はするけど……」

「無理して思い出さなくても良い。…聞きたいんだが、お前が俺に言った“1%の人物”は…やはりお前の事か?」

話が切り替わってホーキンスは一瞬戸惑ったが、ドレークの問いに頷いて返した。

「…私は怪物を目の前にして死を悟ったけど、彼等は死をも覚悟してカイドウに挑み続けた。カイドウが負ける未来は見えてたの。私が負ける未来もね。でも、裏切った私が今更キッド達と共に戦える訳無かった。…これ以上、命惜しさに鞘替えしたくなかった……」

「……そうか。なぁ、ホー…」

彼女を見ると、ホーキンスは眠っていた。自分が来る前にもローやサンジ達とも話していたし、疲労も溜まったのだろう。まだ本調子では無いのに、無理させすぎたかもしれない。ドレークはホーキンスの頬を撫でると、立ち上がって部屋から出た。

「…何してるんだ?」

ドレークが部屋から出ると、キッドとキラーが居た。

「…聞いてたんだろ?何処から聞いてた?」

「……テメェが入ってすぐ」

「すまん。盗み聞きするつもりは無かったんだ…」

2人もあの日以降、中々ホーキンスと会えていない。ホーキンスが気まずく思っているので中々会えないというのもあるが、彼女の船員達が近づいたらせっせと追い出している。ホーキンスが目を覚ました日も、結局最終的に『ケダモノ共がぁ!!』と言って引き剥がされ部屋から追い出されたのだ。それ以降、彼女の船員達は目を光らせキッドとキラーを追い出している。

「今ならあいつらは居ないぞ。まぁ、ホーキンスは寝ちまったがな」

「そうかよ…」

「聞いてたんだろ?どう思った?」

「…不器用すぎて少し腹立ってきた。コッチの気も知らねェでよ」

キッドが言う。複雑すぎる彼等の関係。どうすれば解消出来るのか。

「ホーキンスは、裏切った自分がそう簡単に許されてはいけないと思っているからな。そうじゃ無いって、誰かが上手く伝えてくれれば良いんだが…」

「………大変な女に惚れちまった」

この場にいる3人がそう思った。自分達がもう彼女を恨んでいない事を、中々上手く伝えることが出来ない。ホーキンスも十分不器用だが、キッド、キラー、そしてドレークも中々に不器用だった。


翌日、これまで訪ねて来なかった人物がホーキンスの元を訪れる。

「よぉ!」

「…麦わら?」

しかも身体を拭いている所にやってきた。彼女は現在上半身裸である。白い肌には縫われた傷を覆うガーゼが貼り付けてあった。ホーキンスは裸を見られた事はあまり気にしていないようだ。

「あ、ワリぃ。つか痛そうだな。大丈夫か?」

「痛みは大丈夫」

そう言って彼女は片手で器用に身体に包帯を巻いていく。流石のルフィも、よく片腕で出来るな、と感心した。

「お前器用なんだなぁ」

「こういう事はね…」

ホーキンスは自嘲的な笑みを浮かべながらも包帯を巻き終え、白い着物に袖を通した。

「あ、そうだ。これ持ってきたんだ。これ食って元気出せ!」

ルフィは彼女に食べ物を渡す。だがホーキンスが苦手とする肉類が殆どだった。

「ありがとう。でも私、肉苦手だから…気持ちだけ頂くわね。貴方が食べてよ、麦わら」

「本当か!?お前良い奴だなぁ!!」

そう言ってルフィは持ってきた肉を口に詰め込んでいった。その食べっぷりの良さに、思わずホーキンスの口元も緩む。

「でもお前、生きてて良かったなぁ。思ったより元気そうだし。ギザ男達も心配してたぞ」

その単語が出て、ホーキンスの顔が強張った。

「…ねぇ、麦わら。仲が悪くなった相手には、何て言えばいいのかしら」

「お前ら喧嘩してんのか?」

「喧嘩…といえば似てるかもね。…許されたい訳じゃないの。裏切った事は事実だし、ずっと嫌われたままでいい…。でも、私…彼等に何か言わなきゃいけないと思うの。でも…どうしたらいいのかわからなくて…」

ホーキンスの話を聞いていたルフィは、口の肉を咀嚼して飲み込んだ。

「よくわかんねぇけど…フツーに“ごめん”って言えばいいんじゃねぇか?」

「それだけ…?」

「おう」

「それだけでいいのかしら…」

「いいんじゃねぇか?だって、喧嘩したら謝るだろ?それと一緒だろ」

ルフィはそう言って笑った。…何とも単純な話だ。だがその単純さが、何故かホーキンスの中でしっくりきた。いつの間にか彼は持ってきた物を全て平らげていた。

「……そうね。ありがとう、麦わら」

「ん?まぁいいや。よっ、と。じゃあなワラ美!俺達、もうワノ国出るんだ。最後に元気な姿見れて良かったよ」

「…出るって…もしかして…キッド達も?!」

「おう!みんなもう港に居るぞー。俺も急ぐから。じゃ、身体には気をつけろよ!」

ルフィはそう言って出ていってしまった。

「…嵐のようだったな」

「ドレーク……」

「どうする?今会っておかないと、もう会えなくなるぞ」

ホーキンスは考えたかったが、考える時間は無かった。実直に動くのは苦手だが、今はそんな事言っていられない。

「ドレーク…3隻の停泊してる場所、わかる?」

「わかるが……行くんだな?」

ドレークにそう聞かれて、ホーキンスは力強く頷いた。


港では、麦わらの一味、ハートの海賊団、キッド海賊団は既に出航準備を済ませていた。だがまだ船は出ていない。

「頭ぁ、もうすぐ出航できますよ〜」

「おう」

キッドのキラーの様子を見て、キッド海賊団の船員達はヒソヒソと話し始めた。

「合わなくて良いのかな?」

「さぁ……」

と、出航前に彼女と会っておかなくても良いのだろうか、と声を潜めて話している。

キッドとキラーは、ルフィがワノ国をナワバリにする事を宣言する、モモの助達とのやり取りを眺めていた。

「なぁキッド…本当に会わなくても良いんだな?」

「ああ。…このままでいい」

キッドは彼女への想いを忘れようと蓋をする事に決めた。彼女が自分らに会えないと思っているのなら、何も言わずに去ろうと決めたのだ。

その時、地響きが聞こえてきた。何だ何だと皆が思った。その音は段々と大きくなる。

何か大きい物が港に近づいてきた。

「おい、何だアレ!?」

「…恐竜?」

大きな恐竜が近づいてくる。その上には、人が乗っていた。その人物を見て、皆が目を丸くする。

「間に合った……!」

ホーキンスだった。まだまともに走れない彼女はドレークに恐竜体になってもらい、彼等の船がある場所まで走ってもらったのだ。

「ねぇ、アレって…!」

「ドレークと…ホーキンスだ!!」

彼女の姿を捉えたキッドの目が大きく見開かれる。キラーも仮面の下で同じ反応をした。そんな2人を眺め、ローの口元が僅かに緩む。

港にはあの戦いで勝利した海賊達がいて、光月モモの助、ヤマト、錦えもんもいた。ホーキンスは彼の上から降りる。ドレークは人間体に戻った。

「お主、もう動いて大丈夫なのか?」

「少しふらつくけど、大丈夫」

ホーキンスは笑ってモモの助に告げた。その笑顔はとても穏やかだった。そしてホーキンスは、キッドとキラーの元に行った。

2人の元に、会いたくて会いたくて堪らなかった人物が姿を見せた。その顔を見て、忘れようとした想いも、蓋をしようとした想いも、全て無かったことにされてしまう。

「お前……動いて大丈夫なのか?」

「いつまでも寝てる訳にはいかないもの。それに、貴方達に言わなきゃいけない事もあるから」

キッドは久しぶりに彼女の顔を見た。腫れ物の取れた顔を見て、何だか安心する。まだ同盟が破綻する前の、いつもキッドを揶揄っていた彼女が、ころころと表情の変わる彼女がそこにいた。

「…キッド、キラー…。貴方達の事、裏切ってごめんなさい」

ホーキンスはそう言って頭を下げた。

「許されなくてもいい。けど、ちゃんと言葉にしなきゃいけないから。今更謝っても遅いかもしれない。だけど、蟠りを残したままお別れだけはしたくなかった。こんな事言うのは筋違いかも知れないけど…」

彼女は顔を上げる。その表情はとても穏やかで、今までで一番素敵な笑顔だった。

「私を、同盟に誘ってくれてありがとう」

ホーキンスの笑顔を見て、キッドの中で何かが込み上げてくる。何だか恥ずかしくて顔を逸らしたくなった。そう言えば、彼女に揶揄われてた時は、よくこんな思いをしていた事を思い出す。

「でも、気に入らなかったら本当に許さなくていいから。落とし前つけろって言われたらつけるから」

「落とし前…?」

彼女の言葉にふと、キッドの中でとある考えが生まれた。彼女も海賊。ならば言った言葉に二言はないだろう。

「いや、別にそれは…」

「……じゃあテメェが言うその落とし前、今つけさせてもらうわ」

キラーの言葉を遮り、キッドが告げた。にやりと微笑んだその顔を見て、ホーキンスは少し驚く。まるで、とあるいたずらを思いついた少年のような無邪気な顔をしていた。その表情を見て、彼女の心臓が普段より少し大きく跳ねた。

すると、キッドの右手がホーキンスの頬に触れる。触れたと思えばすぐ上に持ち上げられ、キッドの顔がホーキンスに迫った。何をされるのかと思ったのも一瞬の出来事。ホーキンスの唇に、柔らかい物が重なった。柔らかく温かい物で口を塞がれている。今、何をされているのか。理解した時にはホーキンスの心臓がドクン、と大きく跳ねた。

「「わーーーーー!!!!!!!??」」

悲鳴近い歓声のようなものが上がる。ホーキンスが驚くよりも先に、麦わらの一味やハートの海賊団、キッド海賊団の面々が顔を真っ赤にして大騒ぎし出した。

「き、キスしたーー!!」

「頭スゲェ!!惚れた女にやりやがった!!」

「あらあら、素敵なものを見ちゃった」

「レディの唇になんて事をー!!」

「ちゅーした!!ギザ男ちゅーした!!」

「あ、あれはなんでござるか!錦えもん!!」

「愛の接吻でございます、モモの助様!!」

等々、色々な声が上がる。キラーとドレークは唖然としながらその光景を見つめていた。

一方のホーキンスは今自分のやられている事に理解が追いつかず困惑していた。しかもただ唇を軽く付けられたのではなく、結構長く重ねられている。やがて名残り惜しいようにわざとらしくリップ音を立てられ、キッドの唇が離れた。

「満足したから、コレで同盟の件は全部チャラにしてやるよ」

「え…はっ、あの……えぇ……??」

ホーキンスは意外にも顔を真っ赤にしながら戸惑っていた。そんな反応を見て、キッドの心は満たされる。

「はっ、お前意外と可愛い反応するんだな」

そう言って今度は抱きしめられた。また周りから声が上がる。ホーキンスは抵抗もできず真っ赤になりながら、腕の中でされるがままの状態になっている。

「……先越された」

誰かがそう言ったのを、ドレークは聞き逃さなかった。

「好きだ」

キッドに耳元で囁かれ、ホーキンスは居た堪れなくなる。今、自分が散々揶揄って、しかも裏切ってしまった相手に、8歳年下の男に告白されたのだ。今まで異性にそのような好意は向けられた事がない。もはや立っていられるのがやっとな程、恥ずかしさというか気まずさというか、色々な物が込み上げてきた。

「…今日はコレで勘弁してやる。次また変な勘違いでもしたら、コレ以上のコトしてやるからな……?」

キッドは声を顰めて、ホーキンスにしか伝わらない声で言い放った。声にどきどきしたと思ったら、言葉の意味を理解してしまい、もっと顔が赤くなる。

やっとキッドの腕から解放された時には、ホーキンスの顔は茹でられたといってもおかしくない程真っ赤になっていた。

「…大丈夫か?ホーキンス」

すると、キラーに声をかけられる。心配してくれているのかと、ホーキンスは彼の方に顔を向けた。

そのまま彼女の身体は強い引力で何かに引き寄せられる。頭を何かで固定されたかと思えばホーキンスが目にしたのは、自分と同じ金髪で、前髪で目が隠れた男だった。見た事ない顔だが、着ている服は見慣れている。先程と同じように、その男の顔で視界が埋め尽くされ、また自分の唇に柔らかい物が重ねられた。息が出来なくなるその行為を理解して、自分を抱き寄せ口付けた人物が誰なのかわかってしまって、ホーキンスの顔は更に赤くなり、心臓がどんどん早く動く。

「「わ゛ーーーーーーーーー!?!?」」

また野次馬の声が上がった。

「うおおおおお!?」

「キラーさんまでやりやがった!!」

「すっげぇ!!まじすっげぇ!!」

「ははっ!アイツらやるなぁ!!」

「きゃーーー!!!」

「ヨホホホホ!!お熱いですねー!!」

「…アイツ、大丈夫か?」

周りは指笛を吹いたり歓声を上げているが、ホーキンスはそれどころではなかった。キッドにキスされ告白された。そう思ったら、今度はキラーにキスされた。彼とは殺し合った者同士の筈なのに。もうホーキンスは立っているのも限界だった。そんな光景を、ドレークはまた愕然としながら見て、キッドはにやにやしながら眺めてた。

キラーも長く彼女の唇に自分の物を重ねていた。彼もまた名残惜しそうにわざとらしくリップ音を立てて唇を離した。腕の中の彼女はどんどん赤くなる。

「ファッファッ!本当に可愛い反応するな!」

そう言って彼女の頬を愛おしそうに撫でた。これまで見た事のないキラーの素顔を見ながら、ホーキンスは二の次の言葉が繋げなかった。自分の心臓の音が煩くて仕方ない。

「ぁ……ぁ……っ」 

恥ずかしすぎて彼女の目には涙が浮かんでいる。滅多に見られないその顔を見られた事で、笑みが溢れる。SMILEの影響で笑顔しか出来なくなってしまったが、今キラーは心の底から笑っている。

「…俺も好きだ。ホーキンス」

自分の思いを伝えると、ホーキンスの身体が大きく跳ねた。温もりを手放すのを惜しいと感じながらも、キラーは彼女を腕の中から解放した。そのまま仮面を付け直す。

「…あ、……あん、た達………」

ホーキンスは涙を流し、顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「さっきの無し!!呪ってやる……呪ってやるからぁ!!!」

ホーキンス側からしたら溜まった物では無いのだろう。嫌われていると思っていた2人からは好意を寄せられており、しかもキスされ告白されたのだ。恋愛耐性の低い彼女には耐えられない刺激だった。しかし彼女の反応を見てキッドもキラーも笑った。他の皆も笑っていた。

「…本当に大丈夫か?」

「…………無理……」

ホーキンスは泣きながら言った。

「返事はまた今度会った時にでも聞かせろや!!それまで良く考えとけ!!」

キッドが告げると、ホーキンスは小刻みに首を横に振っていた。もうドレークに支えてもらわないと立っていられない程だった。

キッドとキラーは船に乗る。満足げな表情を浮かべており、彼等の船員達もその顔に安堵していた。

「じゃあなー!!」

「元気でなー!!」

それぞれの船から、別れの言葉が聞こえてくる。海上で3隻の船で何やら揉め事のような物が起こっていた。そして正規の港から出るのではなく、仲良く滝壺から落ちていった。

ホーキンスは顔を真っ赤にしながらも、船が水平線に消えてゆくまで、眺め続けていた。だが2人の返事を伝えるには、当分時間がかかりそうだった。未だ鳴り止まぬ心音がうるさかった。

 


ホーキンスは城に戻ると布団に丸くなって篭ってしまった。その姿は、さながら大福であった。事情を知った彼女の船員達は阿鼻叫喚だった。

「俺達の船長の純情がぁーー!!!!」

「あのケダモノ共めーー!!!!」

「消毒だ消毒ーー!!!」

「ガルチューしましょぉー!!!!!」

等々大騒ぎだった。事情を知らない赤鞘達も集まって眺めていた。

「何だアレ?」

「キッド殿とキラー殿が、ホーキンス殿に接吻して告白したらしい」

「まぁ!ついにやり遂げたのですねあの2人!!」

「愛の告白劇……見たかったです……」

「それであやつらあんなに…」

皆自由に言って大騒ぎしているが、ホーキンスはそれどころじゃ無かった。

「…おーい、ホーキンス。おーい、出てこい。ほら」

ドレークがそう言う。彼女は今、警戒心が高い猫の様だ。だがドレークには気を許しているのか、そのそのと布団から出てきた。まだ顔は赤い。

「大丈夫か?」

「〜〜!!大丈夫じゃないわよ!!」 

「…珍しい反応だな」

「だって……だって……!私の事、嫌いだと思ってたのに、なのに……す、すきって………いわれて、あんなこと、っされて……」

彼女は真っ赤になりながら唇を噛んでいた。2人の柔らかい感覚がまだ残っている。ライフを使ってやれば良かったと思う反面、この感覚が悪くなくて、誰にも渡したくないと思う自分もいた。

「わたし……異性に、そんな風に、言われこととか……ないし……、もう……わからない………」

そんな風にうじうじ言う姿が可愛かった。だが今、自分は全く警戒されていない。これからキッドとキラーは彼女の中で意識され続けるだろう。そこに自分は居ないのだ。何だかもやもやしてむしゃくしゃする。ドレークは複雑な嫉妬心を抱いていた。自分だって意識されたい。彼女の中の特別になりたい。その気持ちだけがドレークを強くさせる。

「なぁ、ホーキンス」

「なに……?」

「……お前は何とも思ってないかもしれないが」

そう言ってドレークはホーキンスに顔を近づける。何を、と彼女が言おうとしたが、その言葉は塞がれる。また温かく柔らかい物で彼女の唇は塞がれていたのだ。キッドとキラーよりも慣れていないような、浅い物だったが、それでもホーキンスがまた顔を赤くするには十分だった。

「俺もお前に対して“コッチ”の感情を持ってる事を忘れるな」

さらりと言うドレークに対して、また彼女の顔が真っ赤に染まっていた。ホーキンスはこの1日で、キッド、キラー、そしてドレークから告白され、キスまでされた。

「な………あ………ッ」

わなわなと震えるホーキンス。そんな2人のやり取りをにやにやと見つめる赤鞘の男達とモモの助、日和、ヤマト。

「「ケダモノめがぁぁぁ!!!!」」

そして怒声を浴びせながらホーキンス海賊団の船員達はドレークを渾身の力を振り絞りボッコボコにしたのである。

ホーキンスは劇薬のような刺激に耐えられずそのまま倒れ、高熱を出した。熱は3日以上引かなかった。そのため、キッド海賊団の電伝虫がけたたましく鳴り響き、『うちの船長高熱出て全っ然下がらねェんだよ!!どーしてくれるんだあのケダモノ共ぉ!!!!』と彼女の船員から泣きながらクレームが飛んできた。電伝虫を取ったヒートとワイヤーはひたすら謝り続けていた。しかしキッドとキラーはそれを聞いてご満悦の様だった。好きだった女性がやっと自分たちを意識してくれたのだから。嬉しくないわけが無かったのである。



……ホーキンスがどの様な選択をするのか。それがわかるのはもう少し未来の話。

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