目覚め
ここはどこなんだろう。微睡んだ意識では周りを認識することもままならない。
上も下も、時間すらも曖昧でよく分からない。
気を抜くとどこまでも自分が広がってやがて霧散してしまうような気がした。
それでもどこか微睡むような心地良さに身を任せていると、物凄い力で下へと引っ張られていくような感覚と、広がっていった自分がどこへ収められていくのを感じた。
「…漸く君に会える」
「もう君は死なない…。俺から離れることもない…永遠に」
懐かしい声が聞こえた。わたしはこの声を知っている。
そうだ。わたしは彼に会わなければいけないんだ。
少しの抵抗感と違和感を感じながらわたしはそこに収められる。
◯
どこかに収まっていくにつれて、何か知らない記憶や情報が意識を掠める。形が明確になるにつれて、前の自分とは違うものに変わっていってるような気がした。あの病弱な身体ではない、別のもの。
ふと限りなく近い距離で声がする。
俺はどうなるんだ、俺の役割は…。
俺? わたしはわたしであるはずだ。
一体どうなっている?
意識が揺らぐ。そして気付く。混ざっている。混ざりつつある。何か別の存在と。その内、区別すらつかなくなってしまいそうだ。恐ろしい。
恐ろしい?
一体何を怖がる必要があるんだろう。彼がすることに怯えることはなにもない。
わたしは彼の選択に身を任せるだけだ。どうせ先なんて無かった身なのだから。
さっきまであった抵抗感が少しずつ薄れていく。ずっと病室の中にいた記憶しかないはずなのに戦っている自分をまざまざと思い出せる。戦いの中の自分自身の姿もよく思い出せる。
これはたしか彼がくれたゲームに登場したキャラクターだ。わたしが好きだといったキャラクターを彼は覚えていたんだ。
はやく、彼に会いたいな。
会って話がしたい。前に出来なかった話の続きをしようよ、飛彩。
◯
俺の意識がハッキリとするにつれて、わたしの意識とより深く混ざり合う。最早区別などつかないほどに。混ざり合うことに恐怖は微塵も無い。むしろとても……心地が良い。
わたしであって、俺なのだと理解した瞬間に肉体の重さを感じた。
「おはよう。そして、誕生日おめでとう」
愛おしい声がする。