目の前の観測

目の前の観測

アカ主の娘

夜明け前、ラベンは普段より少し早く起きた。

自分の妻の寝顔を見て、自分の現実はここなのだと安心する。

妻を起こさないように目覚まし時計のアラームをキャンセルして、そっとベットから降りる。

薄暗い廊下をそろそろと渡り、人感センサーの明かりに誘導されながら洗面所に向かい、朝の身嗜みを整える。


未来は本当に変わった。

著名な学者が予想した未来予想図とはだいぶ外れたが、それでも自分がいた時代から見れば夢のような世界なのには変わりがない。


ボタンひとつで入れた温かい紅茶をカップを手に持って、「ガルルワン」とはしゃぐヒスイガーディを足にまとわせながらソファにすわり、片手でタブレットを操作してかさばらないメールで今日の仕事の内容を確認する。


こうしてさんざん便利な文明を当たり前になるほど享受しておきながら、たまにこれが長い夢じゃないかと不安になる時がラベンにはあった。

自分がいた世界ならこんな贅沢をするなら使用人が必要だっただろうし、なによりこんなに近くでポケモンと共に暮らせるなど、自分の時代から見れば夢のようなことだ。

そんなはずないと言い聞かせながらラベンは目を閉じる、それでも次に目を開いたら、自分は研究室のソファーで目覚めるのではないかと思うとなかなか目を開く勇気が出ない。


「んーダディおはよー」


妻と同じ空色の髪と瞳、自分と同じ肌と髪質を受け継いた娘が朝の挨拶をしながら父の顔を覗く。

父親の不安など知りもせずに娘は「うートイレトイレ」とのんきに言いながらその場を離れる。


このまま二度寝して寝坊しないだろうか?

グレープアカデミーへの編入手続きの書類の確認はできただろうか?

マイペースな娘が新しい学園で馴染めるだろうか…?

先ほどまで曖昧な不安に包まれていたラベンの頭には現実的な悩みが支配しはじめラベンはそんな節操なく悩む自分に苦笑した。


科学者の自分にとって目の前の事実こそが全て。

目の前の事実から臆することなどあってはならない。

そう言い聞かせてラベンはソファから立ち上がった。


あとがき

幸せ過ぎて贅沢な悩みをする娘ちゃん時空のラベン博士。

頭ではここは過去から連綿と紡がれた未来だってしっかり理解してるんだけど、それはそれとして何もかも夢だったらどうしよう…ってなる時がある。

でも、この人趣味のカメラでレンズ沼にハマってるし、電子機器はバリバリ使いこなすし、電気毛布を愛用してるし、ガッツリ現代暮らしを謳歌してる。

なによりずっと片想いして妻になった娘ちゃんの存在やクヌエちゃんという自分の遺伝を半分受け継いだ存在が目の前で動いているから、ああここは現実なんだなぁと確認しては幸せを再認識してる。



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