百獣のドタバタ看病
ここは【ワの国“鬼ヶ島”】この島には四皇百獣のカイドウが率いる百獣海賊団が統治しており、島の形も相待って天然要塞になっている、この鬼ヶ島には“地上最強生物の妻”が居るが滅多に表に出ず噂の域を出なかった…が実在する、百獣海賊団共通の認識、それは奥方に手を出してはいけない事。世界各地から猛者が集まった海賊団の中で唯一と言っていいほどに体が弱く、しかし誰よりも慈悲深い、そして“あのカイドウが愛した唯一の女”そのような女性のお話。
本日はカイドウは席を外しており中は案外静かだ、でも今はそれが都合がいい、どうやら風邪をひいたらしい。頭が痛い体がだるい、熱い、しんどい。でも彼にそれを知られたくない。どうにか隠し通さないと…
「奥方、俺です、入りますよ」
ッ!この声キングさんだ…なんとか平気を装わないと…!
「奥方、本日はカイドウさんが席を外していますので俺が挨拶に…奥方具体の方が?」
「いいえ、なんでもありませんよ、大丈夫です」
「それで誤魔化せると思ってるんです?何年の付き合いと思ってるんですか」
「うぅ…で、でもカイドウさんには内緒にしておいて、彼に心配をかけさせたくないの」
「…えぇ、わかりました“俺”は黙ってます。」
ふう、なんとかなりそう。ん?“俺は”?
『おい』ズン
ビクゥ!
「カ、カイドウさん…帰ったんですね、お帰りなさい、出迎えに出れずごめんね?」
「そこじゃねえ、お前、声が小さすぎやしねえか?何時もより小せえからここに直行したんだが、何かあったのか?」
ッ!バレている!なんとか隠し通さないと!
「い、いえ寝起きなので声が小さかったんだと思いますよ、私はこの通りいつもと変わらず元気ですのでお気になさらず。ウッ!ゴホッ!ゴホッ!」
そんな…このタイミングで咳き込むなんて…これじゃもう隠し通せない…彼にだけは知られたくなかったのに…!
「おい!しっかりしやがれ!キング!クイーンを呼んでこい!大至急だ!」
「勿論だ!引き摺ってでも連れてくる」シャッ‼︎
あぁ、もう大事だ、だから言いたくなかったんだ…体調が悪いことなんて。
「んン〜♪今日も俺は冴えてるぜ〜凶悪なウイルスが沢山出来る〜『ガン‼︎』「クイーンの馬鹿はここか!?」どわぁ!なんだ、おい馬鹿キング!テメェ俺が実験中の時は部屋に近づくなって言ったよな!?てめえの炎が俺の傑作のウイルスに燃え移ったらどうしてくれんだ!」「黙れ!今すぐ来い!嫌でも引き摺っていくからな」ズガガガ‼︎「ギャアアア‼︎テメェ何しやがんだ!てめえに引き摺られなくても自分で走れるわ!降ろせ!オーローセー!」ズガガガ‼︎ギャアアア‼︎
バン!「連れてきたぞ!カイドウさん!オラ、クイーン!てめえいつまで寝てんだ!普段脳無しなんだこう言う時くらい役にたて!」
「テメェ…言うに事欠いてそれかよ!俺のプリティーなこの肉体がへこんだらどうすんだ!あえて痩せないタイプの俺なんだぞ!」
「五月蝿え黙れ、奥方が高熱だ、お前のウイルスが漏れたんじゃねえだろうな!?」
「ハァ〜⁉︎この俺がそんな初歩的なミスするわけねえだろアホ!俺を誰だと思ってんだ!」
「どっちでもいいから、早く診察しねえか馬鹿野郎ども!」
「「ヘ、ヘイ!」」
「奥方/お母さんが重体って本当!/ですか!」
「静かにしろ!体に響く!クイーン、容体は?」
「ハァ、取り敢えずは普通の風邪です。体が熱いのは中にある菌を殺菌するための防菌機能ですね、取り敢えず命に関わることじゃないです、まぁ40度ってのはあんま見ねえっすけど」
「そうか、取り敢えず命に別状ねぇならそれでいい。それはそれとして40度の熱ってのはそんなに辛えのか、こいつ一切喋らねえぞ」
「「「嫌まぁ、僕/俺は病気なんて罹ったことないんでそこは分かりません/らない」
「テメェら体はどうなってんだ!病気に罹らねえとは!」(まぁ俺はそもそも抗体を打ち込んでるから効かねえけど)
「取り敢えず一般的な処置で問題ないと思います。高熱なんで体を冷やすための氷と、消化のいい粥なんかがあればいいと思います」
そうか…粥が必要か…よし。
「ヤマト、お前はそいつを冷やす氷を作っとけ、お前が適任だ、キング、クイーン、ジャック、お前らはここの入り口を見張れ、誰も近づけさせるな、いいな?」
「お前はどうするんだ、今母さんはお前を必要としてるんだぞ!」
「急用が入ったのを思い出した、誰も俺に近づけさせるな」バタン‼︎…シーン
「な、なんなんだ!あいつは!実の妻が苦しんでると言うのに!急用を優先するなんて!信じられない!おでんならこんなことしないぞ!」ワーギャー
「アー、ヤマト坊ちゃん、お怒りは尤もですが今は氷を作って奥方を冷やしにかかるのが先決では?」
「ハッ!それもそうだ。すぐにタオルと袋と…かえの服.取り敢えず準備しなきゃ!」ダダッ‼︎
「ハァ…似たもの親子だよナァ、あの二人、誰に似たんだか…」
「無駄口を挟む暇があるならさっさと人払いを済ませるぞクイーン、いちいち言わねえとわかんねえか」
「テメェは一々一言多いんだよアホ!ジャック!お前はヤマト坊ちゃんの手伝いしとけ!どうせ全部持ってくるんだろうしお前も行ったほうが効率がいいだろうが」
「分かった、クイーンの兄御」
こうして百獣海賊団による看病?が始まった。当の本人は…
(ウゥ…とても大事になってしまった…まさかみんなを巻き込んでしまうなんて…穴があったら入りたいです…)
とても落ち込んでいた。
【厨房】普段は料理人達の戦場であり大騒ぎの厨房、しかしこの日はカイドウただ一人を除いて誰もいなかった。
カイドウside
さて、粥なんざ作るのは初めてだが、あいつが作ってるところを真似すりゃ大概のものは作れるはずだ…丁寧にこさえれば不味くはならねえはず…火はどうやって起こすんだ…?ボロブレスで行けんのか?クソッ手加減は苦手なんだがな…ズズズ【ボロブレス】(超ミニver)…よし火がついた少し周りに燃え広がったが…まあいいだろ米を研いで鍋で煮込めばいいのか?面倒な手順を踏みやがる…米を研いで鍋で煮込んで、完成はしたが…なんだこりゃ。炭か?…パリ
っぺ!食えたもんじゃねえな…作り直すか
以下数時間における最強生物の調理。厨房付近はキングが固めてるので誰も近づかない。
ヤマトside
全く、クソ親父め急用とかほざきやがって…お母さんが心配じゃないのか‼︎あんなのが父親だと思うと腹が立つ‼︎
「お母さん、氷とタオル…あと着替えがあるからゆっくりこなしていこうね…」
いつ触ってもお母さんの体は細く小さい、ちょっと力を込めるとそれだけで折れそうだ、例えクソ親父がどんな扱いをしても僕だけはお母さんの味方でいないと…すぐに元気になるよね?またお母さんと一緒に歩き回りたいんだよ…お母さん…
「ヤマト…心配をかけてごめんね…私は大丈夫、ただの風邪で死にはしないわ、まぁ私はここにいる中で一番体が弱いからあまり強くは言えないのだけど…」
「お母さん、よかったぁ…!気がついたんだ!そうだ、聞いてよお母さん、カイドウってば酷いんだ、お母さんが熱を出して寝込んでるのに自分は仕事のことを優先してね…」
「あらあらそうなの…あの人らしいわ、「でしょ!?本当に夫なのか疑うよ」でもねヤマト、それは彼なりの優しさなのよ、彼は人一倍真面目で繊細で、何より不器用な人なの。人に優しくされたことがないから人に優しくできないの…皆は彼のことを心のない怪物だとか慈悲を知らない鬼と呼ぶけど、私はそうは思わない、私は彼ほど苦悩と葛藤に塗れた“人間”を知らないわ。まぁそれと恥ずかしさが勝るんでしょうけど、フフ、そこが可愛らしいのよね、あの人は」
…お母さんはカイドウのことを語る時は何より綺麗な笑顔でいるんだ。それはなんか胸がモヤモヤするんだけどでもカイドウの事を一番愛してるのはお母さんだけだと思う。でも僕はカイドウを父として見れない…けどそれは僕がカイドウのことをよく知ろうとしなかったからじゃないのか?カイドウの事を知れば少しは父親みたいに見れるのかな…
「ね、ねえ、お母さん!あのね、お母さんが知ってるカイドウの事を教えて欲しいんだ!」
「あら、ヤマトがカイドウの事を知りたいなんて珍しいわねぇ、でもいいわよあの人の事知ろうとしてくれてるのよね.あの人はね─バン‼︎「入るぞ」あら戻ったのですねカイドウさん…手持ちのお鍋は一体…?」
「〜〜!こんのクソ親父!少しは空気を読め!今僕は重要な話をしてたんだぞ!」
「あぁ?今は関係ねぇだろう、おい、粥を作ったからこれを食ってさっさと治せ、お前がその調子だとうちの士気に関わるんだよ」
「なんだその言種!お前本当にお母さんの事愛してるんだろうな!?」
「うるせえ!子供が理解するにゃ早いこともあるんだよ!ちょっと外出てろ!」ビュッ!
うわあ!アイツ…いきなり外に投げ出しやがった…痛くないのはジャックが受け止めてくれたのか…ありがとうジャック、本当に苦労をかける…
奥方side
あの子のあの口調を見ると若い人この人を思い出す。容姿は私に似たようだけどあの強さと口調はこの人譲りね。
「…粥なんざ作るのは初めてだったからな、味の保証は出来ねぇ、それでもいいなら食え」
「えぇ貴方が作ったのなら例えどんなものでも胃に収めて見せます。では頂きますね」
「…美味くはねぇぞ」
ハグ、アムアム…ゴクン
確かに…いつも食べてる物と比べると美味しくはないかも知れない、でも
「ッ!美味しい!とても美味しいです!これいい火加減と塩加減、絶妙ですよ」ニコー
確かにいつもの料理より美味しくはない、でも彼が私を思って作ってくれたのは食べてみて分かった、彼の無骨で生真面目で繊細な癖にどこか不器用で優しい、そんな味。そしてこの巨体が厨房で料理という繊細な作業をしているのを想像すると、もう口角が上がるのを止められない。フフフ、これは一生の思い出ですね…
「ありがとうございます貴方、今まで食べたどの料理よりも美味しかったですよ、お世辞ではないんです、心の底からの本心ですから、受け取っておいてくださいね?」
だからこう言うちょっとした意地悪な言い方もしてしまうのだ、フフ、たまには病気にかかってみるのもいいものですね、珍しいものが見れました。
「…そうか。だったら早く治して健康になれ、注ぎ人が居ねえ酒盛りなんざつまらねえ、なにより酒がまずいからな、さっさと治していつも通りの生活に戻せ、バカタレ」バン‼︎
…本当に不器用な人、本当は嬉しい癖に、嬉しい時くらい笑顔でいたらどうなんですか、馬鹿…
カイドウside
今日はらしくねえ事をした…俺が炊事に回るとはやきが回ったか?俺が粥を作ったのは組織の士気の低下を防ぐためだ…それでいいんだよ、だがアイツも美味そうにして食うところを見て胸があったかくなった…酒は飲んでねえはずだが。今夜はいい月だこんな日には酒を飲むに限る
キュポン、ガブガブ
…不味いな、いつもと同じ酒の筈なんだが、こんなに不味かったか?はぁ…今日は何もかもが俺らしくねぇ…
ヤマトside
クソッ!あのクソ親父め今日という今日は我慢ならない!直接文句を言いつけてやる!今日は満月だ、だから屋上で月見酒でもやってるんだろう!お母さんが重体だって言うのに!ダダダッ!居た!
「おい…「…」ッ…」クルリ、スタスタ
クソッ、なんなんだあいつはあんなアイツ初めて見た、いつもは馬鹿みたいに大きくて強大なアイツが今日はやけに小さく弱々しく見えた…酒は入ってなかったようだし…それに頭を抱えて…泣いてた?いやまさかな…でもあの背中…すごく寂しそうだった…
(あの人はね、周りから心のない怪物だとか慈悲を知らない鬼と呼ばれてて“人”として扱われたことがないの彼だって心臓一つの人間一人なのにね…)
まさかお母さんの言葉ってこういうことなのかな…?あっ!お母さんの看病しないと!ダダダッ!
その日の鬼ヶ島は満月でありながら普段の喧騒が嘘のように静まり返った日であった。その原因が奥方にある事はごく一部しか知らない。
【翌日】
「皆様!大変!ご迷惑をおかけしました!私完全に復活致しました!」
「お母さーん!無事に治ってくれてよかった!」ギュー
「はい!ヤマトも遅くまで看病ありがとうね、ジャック君もお手伝いありがとう」
「いえ、俺は当然の事をしただけで、看病もヤマト坊ちゃんがほとんど行ってましたから…」
「もう、お礼は素直に受け取っておくべきですよジャック君!謙遜するところは貴方の美点でもありますが、過ぎた謙遜は時に嫌味になるという事を覚えておいてください、いいですね?」
「…その御言葉、有り難く受け取っておきます」
「カーックソ真面目だなジャックは!もっと気楽にやったほうがいいぜ!真面目すぎるとそこの黒タイツみてえに融通が効かなくなるからな!」
「フン、テメェは気が緩みすぎなんだ、気が緩みすぎて体型にまで出てやがる、この肉団子野郎」
「敢えて痩せてねえだけだって何回言わせんだゴラァ!大体テメェは─「はいはい!喧嘩はそこまでですよ!2人とも、いいですかまず親しき中にも礼儀ありという諺の通りですね─」「フン奥方の気遣いに命拾いしたな」
「テメェこそ奥方の心遣いに感謝するんだな」
(凄え…大看板の3人が言いくるめられてる…!さすがカイドウ様の奥方だ、とても真似できねぇ!)
「そして、カイドウさん、ご迷惑をおかけ致しましたこと深くお詫び申し上げます」
「全くだ、てめえが寝込んでたせいで昨日の月見酒が台無しになった責任として今から少し付き合え」
「ハァ〜⁉︎なんだその言種は!大体お前はいつもムゴムゴ」
「カイドウさん、奥方、気にせず行ってくれ」
「ありがとうキングさん。それとヤマト─「プハッなに?お母さん」彼はとても不器用で言葉も足りませんが、貴方の事“も”とても大事に思っているのですよ、それを忘れてはいけません。母の言葉に偽りはありませんよ、では皆様、私は少し席を外しますので…」
「おい!早くしろ!注ぎ人が居ねえじゃ酒盛りが出来ねぇだろう!」
「フフフ、はいはい、今向かいますから少しお待ちくださいね」
Fin