百年分の愛を君に

百年分の愛を君に


オカンが、アタシの内側の人(姉ちゃんと呼んでいる)を甘やかしたいと言い出したので、抵抗する姉ちゃんを必死に宥めすかして表側、すなわち意識の表層に送り出した。

ここで重要なのは、アタシら内側の人格は表で何が起こってるかなんとなく把握できる、ということである。



「は、母よ……!もうこれ以上は……!」

「なんや、もう終いにするん?そないなこと言わんで、もう少し抱かせてや」

「ひゃっ!?ど、どこを触って……っ」

「真っ赤になってかわええなあ。いつまでもそっぽ向いとらんで、こっち見てくれへんの?」

「断る……っ!」

「しゃーないなあ。なら、こうしたるわ」

「きゃっ!?」



「……どこのエロ雑誌や」


やってることは健全なのだが。オカンがアタシ(姉ちゃん)を抱っこして顔を見ようとしているだけだし、触っているのは髪の毛と頭だ。しかしアタシの声帯とオカンの声帯でエロ雑誌みたいなやり取りが繰り広げられているのはなんとも複雑なものが込み上げてくる。しかもこれ、二回目である。

慣れろ、と思わないでもないが、姉ちゃんがこうなのもある意味では仕方ないのだ。アタシは覚えていないが、産まれたときに姉ちゃんが表に出ていたら斬る、というのは確定事項だった。そのためか、姉ちゃんは自分の存在がオカンたちに歓迎されていないものであると、嫌われているのだと、そう思っているらしい。

今でも、根本のとても深いところで、その認識は抜け切らずにいる。

昔はともかく、今はオカンも軍勢のみんなも、そんなことは思っていないのだけど。


「撫子!交代だ、もう十分だろう!」

「……もうちょっとがんばれ」


なんか、ひどく裏切られたような雰囲気は気のせいだと思おう、うん。

とりあえず、アタシは姉ちゃんの味方でもあるし、オカンの味方でもあるのだ。

今まで百年間、ずーっと頑張り続けてた姉ちゃんに、ご褒美があってもいいだろう。



「許可出たようで何よりや。もうちょっと楽しもうな」

「裏切り者がっ……」

「百年よう頑張ってくれたなあ。何遍感謝してもし足りんわ。ありがとうなあ」

「も、もう充分だ!」

「こっちが足りんのよ。なあお姉ちゃん、愛しとるよ」

「っ!」



あっ。キャパオーバーした。




この後帰ってきた姉ちゃんが元に戻るのに十時間くらいかかった。

前回は半日以上無言だったから、少しは進歩してるはずだ。

……多分だけど。


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