百合園セイア

百合園セイア

夢想と現実


トリニティのティーパーティーからの呼び出しを受けてから数日、

罠にはめられ襲撃を受けたかと思うや否やティーパーティー役員がホストを取り押さえ

訳も分からぬまま軽い戦闘状態に陥りミカを下した後お仕置きをした日からも数日、

またもアルはトリニティにいた。しかし今回は来客対応の為の部屋ではなく豪奢な寮の私室だ。

先日の呼び出しの折、戦闘の際に面識もないのに身内の不利になる、アルに利する行動をとっていた本来のティーパーティーのホスト百合園セイアの私室である。


「セイア様失礼致します、陸八魔アルさまをお連れいたしました。」

「ああ、ご苦労様。対応はこちらでするから君は下がっても大丈夫だよ。」

「は、しかし…いえ承りました、では失礼致します。」

案内につけられた生徒を帰しセイアはアルに入室を促す。

「失礼するわよ。えーと、ティーパーティーの百合園セイアさん。で合ってるわよね。」

「ああ、合っているよ。ベッドの上から失礼する、百合園セイアだ。便利屋68社長、

陸八魔アル殿。いや、ゲヘナ代表殿の方が今はいいのかな。」

「…身内から持ち上げられるならともかく、外部のそれも生徒会レベルの人にそう言われるのはちょっと微妙ね、成り行きよ成り行き。肩書は社長でいいわ。」

「それならこちらもセイアでいい、ナギサに職務は任せっきりだしね。」

「分かったわ、セイア。よろしく。今回はどういったご用件かしら。」

そういくつか言葉を交わした二人だがベッドの上のセイアには重そうな瞼と、うっすらとだが確実に存在するクマが見て取れた。


「要件というのはだね。以前君を招いた際のいきさつの説明と自己紹介をと思った次第でね。何度も呼びつけるような真似をして済まない。」

「いえ、呼び出しについては丁寧だったし気にしてないけど…自己紹介?ティーパーティーの百合園セイア以外にってこと?」

「以外に、というか付け加えてだね。いきさつの説明に必要なことでね、端的に言うと私は眠っている間に未来を観測できるんだ。いわゆる予知夢というものをもっと鮮明にした感じさ。」

「…予知夢。その割に寝不足に見えるけど、体調は大丈夫?何か不調や病気なら日を改めましょうか?」

「ありがとう、でも続けさせてくれ。この寝不足も恥ずかしながら関連する事なんだ。」

「(恥ずかしながら…?)どういたしまして、そういうなら続けてもらって結構よ。」

「では続きを、以前からこの予知によって私はトリニティとゲヘナが戦争状態となり、さらには別勢力の介入により混沌として凄惨な未来を観測していたんだ。だがある時、予知の内容に変化が生じた。君だよ、万魔殿や風紀委員会は足並みがそろわず、そのほかの生徒も粒ぞろいとは言えまとまりがなかったゲヘナが風紀員会や万魔殿を中心に君の元に一つの勢力としてまとまっていたんだ。」

「ゲヘナとトリニティの仲が悪いのは感じていたけどそこまでの未来が…、連邦生徒会名義で条約がどうとかの話があった気がするのだけど。」

「ああ、エデン条約だね。不可侵かつ両校間での問題に対応する機構を立ち上げると言った話だ。どうも予知ではその調印式で事件が起こりそこから戦争状態に発展するようだったが…。話が逸れた、君についてだね。初めは絶対的な生徒会長でも立ったのかと思ったがどうも違う、ゲヘナ内からの君への視線は友愛、尊敬、思慕、懸想など様々だが君個人に向けた熱烈なものだったよ。」

「ちょっと恥ずかしいわね。」

「ふふ、未来のことだけれど君は思っているより多くに深く思われているよ。文字通り心と身体でつながった関係という訳だね。」

「ちょ、ちょっと!急にあけすけすぎないかしら!寝不足で頭回ってなかったりする!?」

「むしろ一人で抱えていたことを話せてすっきりさ。というかこれからの話の方がもっとひどい。」

「え、もっとってどうなるのよ。」

「夢の内容が大きな戦争を映さなくなったのさ、現在では戦争に繋がる可能性が低いらしい。」

「いいことじゃない、なにがひどいのよ。」

「まだ途中さ、それから見るようになった予知というのがだね、ある時はいちゃもんを付けてきたトリニティの生徒との、ある時は面白がって依頼を出したティーパーティーの役員との、そしてついにある時はナギサ、ミカ、私とのさ。」

「私との…?」

「最後まで言わせる気かい?情事さ睦事S●X。」

「やっぱりあなた疲れてるのよ!依頼として何かストレス発散できるものや安眠にいい物を見繕ってきましょうか!?」

「だが予知とは言え、あくまですべて夢の中の出来事。」

「(続けるのね…)」

「ついに私の番となると心臓が早鐘を打ち、頬を赤く染め覚悟と期待が最高潮に達したところで目が覚めると全身汗だくで下着を湿らして一人ベッドの上さ。」

「ん?」

「服も下着も不快な状態でしかも興奮状態だから寝付けやしない。」

「まさか、寝不足の原因って。」

「そう、そのまさか。顔見知りのポルノを間近で見続けて興奮しっぱなしで深く眠れない。という訳だ。」

「あーそれは。うーん、予知が自発的に扱えるものでないなら、ご愁傷様?」

「労りの言葉ありがとう、スッキリしたよ。」

うーん。と唸るとアルは切り出した。

「少しそっちに、ベッドの方に行ってもいいかしら。」

「ん?ああ構わないよ。むしろ席を促す前に長々と悪かったね。」

「いえ、気にしないで頂戴。よいしょっと。」

「ベッドに腰掛けるのかい?構わないが、話しづらくないか?」

するとアルはベッドの枕もとのあたりに腰を掛け、腰をひねりじっとセイアを見つめた。

「あまりじっと見られると、恥ずかしいのだが。」

「セイアは夢の中で自分の番になるとドキドキして目が覚めちゃうのよね。」

「え?あ、ああそうだねそれで深く眠れず、もう一度なかなか寝付けず寝不足さって、何を、ん、れる、ぶ、ぷは。」

ベッドに膝立ちで完全に乗り上げたアルは短くも深く口づけをした。

「目が覚めてしまうのは興奮もあるけど予知と自分の夢が混ざっていて自分のことはイメージ出来ないからじゃないかしら。」

「自分の事…確かに予知の中で大けがをしても痛かった記憶はないな。」

「それなら、一度経験しちゃいましょうか。」

「は?ちょっと!心の準備が!」

「案内人を下がらせた時から想定していたんじゃないの?」

「う!?それは、その…」

「その…?」

「や…やさしくして…」

「ご依頼承りました。」

「ん!んぶ、れる、える…」

そして口づけから始まり長く穏やかに時に激しく二人は身体を重ねた。



「ふぅ、ふぅ、ふぅ。」

「お疲れ様。お水飲める?」

「ありがとう、んぐ、そうだね疲れた。」

「疲れただけ?」

「いや、えっと、すごかった。大きくて熱くて苦しくて不安もあったけど、気持ちよくて、心地よくて、やすらぎっていうのかな、あと達成感と少しの寂しさと、ちょっぴり違和感。」

「ふふ、それは良かった。私も気持ちよくなれたわ、ありがと。」

「ど、どういたしまして?」

「これで私たちも心と身体でつながった仲かしら。」

「そ、それは…」

「ふ」「ふ」

「「あはは。」」

すこし可笑しくて笑ってしまう。

「君はやっぱり慣れているんだね。」

「ええ、まあそうね。それは否定しないわ。」

「頭はスッキリしたけど身体はふわふわしているよ。」

少しの沈黙の後、セイアは切り出す。

「君をティーパーティーに呼びつけた日。」

「ん?」

「あの日私は朦朧としていたんだ、戦争を回避できる、それには君が必要で、ナギサを抑えて、ミカと君をぶつけて、やらなきゃいけない事と、その、Hな夢とその未来をもたらす君が目の前にいる興奮と、以前からの寝不足とで…」

「うん。」

「だからやっと一息つけそうだ、君のもたらす未来が幸福である事を祈っているよ。」

「うん、これからの事や難しいことは分からないけど、とりあえずお疲れ様。今ならぐっすり眠れるわよ?」

「そうだね、久しぶりにね。私は起きたら筋肉痛かな。」

「じゃあ起きたらお風呂にでも入って、軽く食事してスッキリしたらまたお話しましょう。おやすみなさい。」

「うん…。おやす…み…」  



「う…、うあ。」

「起きた?おはよう。」

「え?う、うわっ!どれくらい眠ってた!?」

「1時間半くらいかしら。」

「そ、そんなものか。でもなんだか倦怠感も無いしいい目覚めだよ。」

「そう、なにか夢は見た?」

「うん?そういえば何か心地よい夢を見ていたような…でもはっきりとは思い出せないな…」

「眠っている時に見る夢ってそういうものじゃない?お風呂にでも入って身体をきれいにしたら完全復活ね。」

「あ、ああお風呂。この部屋から直接使えるシャワーとバスタブがあるんだ、案内するよ。…うわっ!」倦怠感は抜けたものの肉体的な疲労からよろめいてしまうセイアをアルは抱き留め、抱えあげる。

「あ!ちょっと、危ないわね。よいしょと。」

「な、なにを。」

「足に力が入ってないから抱えてるのよ、あなた軽いし。ほら、お風呂場まで案内して。」

「う、うん。そっちの扉の向こうが風呂場になっているよ。(便利屋やゲヘナの面々がアル社長に集まる気持ちが少しわかった気がするよ。)」

二人で風呂に入り、軽食を取ったのちトリニティについて少し語らいその日は分かれた。


 これより後、ティーパーティーを中心にトリニティもゲヘナと同じく陸八魔アルの元に下る事となるが、セイアは実践により目覚めた愛欲や性欲により予知に加えて妄想に近いようなHな夢を見るようになり、結果としてアルがトリニティに顔を出すたびにクマをこさえた顔で現れ、アルもまんざらではないがセイアの求めにより夜を共にし、行為が終われば泥のように眠り、翌日スッキリ目覚めるという事を繰り返した。後に強大な力を持つようになったアルからしてもいつか本格的に身体を壊さないかという数少ない心配事となっている。


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