百合園セイアのドキドキデート大作戦
待ち合わせ場所に立っていたハナコに、セイアが声を掛ける。
「すまない、待たせてしまったかな?」
「いいえ、今来たところですから」
セイアの顔を見て、ハナコの顔がパッと華やいだ。
「もう体の方は大丈夫なんですか?」
「まだ全回復とまではいかないね」
ハナコがセイアの体調を心配するのは当然のことだろう。
アズサの襲撃以降、セイアはずっと寝たきりであった。
目が覚めてからも吐血を繰り返し、先日ようやく体調が安定したばかりだったからだ。
「ずっと寝たきりだったから筋力も落ちているし、リハビリは欠かせない。でも今日一日くらいは持たせてみせるさ」
「無理はしないでくださいね?」
「分かっている……行こうか」
「ええ、行きましょう。デートに」
ハナコの差し出した手を、セイアがキュッと握る。
向かう先は百鬼夜行連合学院の自治区だ。
外へ出られるようになったセイアだが、未だ体が弱い以上寒暖差の激しい場所は避けた方がよいと判断した。
彼女が問題なく行ける場所として考慮した結果、示し合わせたようにやり玉に挙がったのが百鬼夜行だった。
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トリニティの生徒が2人で歩いていて絡まれなかったのは、時期が良かった、というのもあるのだろう。
あちらこちらにカイザーコーポレーションの部隊がいる物々しさはあったものの、銃火器を持たないからこそノーマークで動くことができた。
不知火カヤ防衛室長の台頭による混乱はあれど、今だけは2人にはプラスに働いていた。
「美しいね。あれだけの巨大樹ともなれば、畏敬すら感じるよ」
「そうでしょう? この桜の花びらが舞う百鬼夜行を、一緒に見たかったんですよ」
百鬼夜行連合学院にそびえる巨大桜を見上げ、セイアは感嘆のため息を漏らす。
夢の中で見たことはあったが、現実で来たのは初めてだった。
ハナコが是非にと勧めるだけのことはある。
白昼夢で見たクズノハとのつながりを抜きにしても、百鬼夜行は観光地としての有名さを惜しげもなくアピールしていた。
「キヴォトスでこれだけ安心して歩ける、というのも珍しいのだろうね」
「百鬼夜行で悪いコトをしようとしていた子は、ホシノさんがこの間お話してくれたらしいですからね。確か……花鳥風月部?」
「なるほど、その彼女は調子に乗りすぎたようだね」
「ホシノさんも『ちょっとやり過ぎたよ~』って反省してましたよ。その子はお話が好きだったのに、びっくりして呂律が回らなくなっちゃったらしくて」
「……怖いものだ」
ハナコの返答に、セイアが呟く。
その恐怖の対象は悪者を容易く倒したホシノか、あるいはそれを何でもないように話すハナコに対してか、セイアは明言しなかった。
「そろそろいいか」
「どうしました、セイアちゃん?」
戒厳令などが出されたことで自粛ムードが働いたのか、周囲に人通りは少なくこうして話していても聞き耳を立てる者はいない。
本来ならばトリニティの自治区に戻ってから聞くつもりだったが、あそこで問い質しても白を切る可能性がある。
ならばここで聞いても良いだろうとセイアは判断した。
「ハナコ、どうして退学届を出した? あの転入届は何だ?」
それこそが、セイアがハナコに面と向かって聞きたかったことだった。
書類の束に紛れ込むように挟まれたトリニティの退学届けと、アビドスへの転入届。
最初にそれを見つけて紅茶を噴き出したのはナギサだった。
慌てて受理されるのを防いだナギサが、セイアに声を掛けたのが今回の発端だった。
「ハナコは今、何かをしようとしている。それも、とても危険な事だ」
「断言しますか……それも未来予知ですか?」
「いいや。言ったはずだ、私に予知夢の力はもうないと」
白昼夢で出会ったクズノハによって、セイアは予知夢の力を失った。
それは色彩から逃れるための術であったが、セイアはその力を惜しんではいない。
残ったのは直感が多少鋭くなっただけだが、それでも予知夢に頼らずともハナコの今の行動は不可解に過ぎるのだ。
セイアの言葉にハナコは笑みを深めて、次の瞬間懐から何かを取り出した。
「♡」
なんの変哲もない飴玉。
それを見たセイアの心臓が跳ねて、ぶわりと全身の毛が逆立った。
漂う甘い香りが、白昼夢の中で見たアレを想起させる。
セイアの直感が、アレは危険なものだとアラートを鳴らしていた。
すぐ傍にあったというのに、ハナコがそれを取り出すまで気づくことがなかったものだ。
「あは♡ 気付くんですね、さすがはセイアちゃんです♡」
「ハナコ……なんだソレは? そんなものを、どうしてハナコが持っている?」
「おかしなことを言うのですね、セイアちゃんは。これはキャンディですよ。とっても甘くて♡ とっても美味しい♡ 特別性の砂糖を使った、ね? 華の女子高生ならキャンディの一つや二つ、持っていてもおかしくはないでしょう?」
「分かっているのかハナコ! それはそんな生易しいものではない!」
「知っています♡ これがどんなものなのか、既に私は味わっているんですから♡」
ハナコの返答に、セイアは絶句した。
見ただけで直感が警鐘を鳴らす危険物をハナコが摂取している、それだけではない。
そのことに今まで気付かなかった愚かな自分を、今すぐ殴り飛ばしたいほどだった。
「私が何をしようとしているか、でしたね。これを……正確にはこの原料のお砂糖を、キヴォトス全体に広めようと思うんです♡」
「広める……だと? そんなことをしたらっ!?」
キヴォトス全体に広まってしまえば、取り返しが付かなくなる。
今の連邦生徒会でのカヤの台頭など足元にも及ばないほどの大混乱は必至だ。
「セイアちゃん、よかったら手伝ってはくれませんか?」
「手伝う、だと?」
「はい♡ トリニティに広めるんです♡」
ニコニコと笑顔を崩さないまま、ハナコは続けた。
「あそこは毒蛇の巣窟ですから。くだらない陰謀や他人を蹴落とすことばかり考えるより、砂糖で幸せになってみんなが素直になってしまうのが良いと思うんです♡ その方が風通しがよくなって素敵ですよ♡」
「……できない」
セイアはハナコの勧誘に首を振った。
自ら砂糖を広める手伝いをするなど、頷けるはずもない。
「トリニティにはミカもナギサもいる。そんなことはできない」
「……ミカさん」
セイアが口にした名前に、ピクリとハナコの眉が動く。
平坦な声でハナコは言った。
「ミカさんにだけは絶対に砂糖を摂ってもらいます。赦すことはできません」
「……どうしてだ? なぜミカを目の敵にする?」
「だってミカさんは、アズサちゃんを使ってセイアちゃんを傷つけたじゃないですか?」
「それ、は……」
まさかの返答だった。
セイアにとってその出来事は、既に終わったことだったからだ。
「ハナコ……確かにミカは悪いことをした。けれどその罪を自覚し、償おうとしている。あんなにこじれたのも、元はと言えば私にも悪い所があったからだ」
査問会で判決も下された以上、私刑などするべきではない。
それをわからないハナコではないはずだ。
「だから――」
「だから赦せ、と? それをセイアちゃんが言うんですか?」
セイアは頷いた。
ミカによって殺されかけた当人だからこそ、セイアは怒ってなどいないのだから。
だがハナコは対照的に、首を横に振った。
「赦せない。赦すわけにはいきません。だって友達を殺されかけて、存在を侮辱されました。それを赦すことはできません。それがたとえ、セイアちゃんであったとしても!」
「ハナコ……」
友達を傷つけられた。
友達を馬鹿にされた。
なんてことないありふれたそんな出来事であったとしても、それはハナコの心に影を落としていたのだと、セイアは今更ながらに気付いた。
セイアを友達だと思うからこその、情の深い根強い怒りだった。
セイアにとって、あの一連の出来事は既知であり、過程でしかなかった。
アリウスの暗躍もアズサの襲撃も、予知夢で見た出来事の繰り返しでしかなくて、そういうものだと受け入れていた。
あの失踪も必要なものであり、ハナコにも危険が及ばないように手も尽くしたから、それで終わりだと思っていた。
終わってなどいなかったのだ。
結果としてうまく行ったからそれで良しと、過程をないがしろにした付けが回ってきたのだと理解した。
それほどまでに、友達という言葉はハナコの中で重い。
『……最後に一つ、忠告だ。ハナコを泣かせるなよ』
ああそうか、とセイアは納得する。
白昼夢で出会ったもう一人の自分は、ここで選択肢を誤った自分なのだと、直感が囁く。
友達のために怒り、友達のために泣くハナコを否定してしまえば、そういうことになるのだろう。
「……ハナコ。私の罪を告白する」
「セイアちゃん?」
「私は君に、謝らなければならない」
ならば、その前提を変えるしかない。
見ないようにしていた己の罪を、ここにさらけ出さなくてはならない。
「私は予知夢で知っていた。ハナコが独りぼっちになることも、いずれ補習授業部のみんなと仲良くなることも」
かつてセイアはハナコの未来を垣間見た。
そこには補習授業部で楽しく過ごしているハナコがいた。
だからこそ未来で友達ができるからと、一年の時のハナコを助けようとはしなかった。
青春を楽しみにしていることを、友達という存在に飢えていることをセイアは知っていたのに、だ。
「ティーパーティーというのは結構な重責でね。本心をさらけ出すのは勇気が要った。だからそのストレスの捌け口を外に求めた。何の役職も持っていない一年生のハナコに」
自分のストレス発散に都合がいいからと近づいたのだ。
セイアにはナギサやミカがいて、ハナコには補習授業部がいる。
ならしばらくの間、その代替として傷をなめ合うくらいはいいだろうと思っていた。
これこそがセイアの罪だった。
友達という憧れを餌にハナコを操ろうとした、ハナコが最も忌み嫌うべきトリニティの汚濁だ。
「だからハナコ……こんな私のことで、ハナコが怒る必要なんてないんだ」
孤独に付け込み友達を騙って近づいてきた人間のために、ハナコが破滅することはない。
ハナコのその怒りも義憤も正しくとも、自身にその価値はないのだとセイアは語った。
「……セイアちゃん」
無言で最後まで聞いていたハナコは、恐る恐るセイアに声を掛ける。
「私のお話は、つまらなかったですか? 迷惑でしたか?」
「? いや、楽しかったが……外の話はワクワクしたし」
「なら良いんですよ♡ 心配して損しました♡」
「……ええ?」
「セイアちゃん、あんなぴったりなタイミングで会いに来たのに、何も裏がないなんて思うはずがないでしょう? 最初から気付いてましたよ」
「そ、そうだったのかい?」
「はい♡ セイアちゃんは予知夢で知りすぎるが故に、目の前の人の心情を推し量るのは苦手なんですね。一人で完結しすぎるのは悪い癖ですよ」
「そうだったのか……」
衝撃の真実だった。
そういえばミカにも煽られたことがある気がする。
「そうなのです。きっかけはどうあれ、セイアちゃんと過ごした一時はとっても楽しかったんです……だからセイアちゃんがどれだけ自分を卑下しようと、それで止めるつもりはないんですよ♡」
「……そう、か」
セイアは肩を落とした。
己の一世一代の罪の懺悔であっても、ハナコを止めるには至らなかった。
セイアにはもはや手立てはない。
ハナコの手が、セイアの手をつかむ。
ハナコは正義実現委員会のように鍛えてはいない。
それでも病弱なセイアより、ハナコの方がずっと身長も力も強い。
セイアの口元に、ハナコの持つ飴玉が近づいてくる。
ドクドクと心臓が高鳴り、直感が今すぐ逃げろと叫んでいる。
あれを口にしてしまえば終わるだろうことは理解していても、セイアの非力な手では抵抗することができない。
万事休すか、とセイアが目を閉じようとしたときだ。
「なーんちゃって♡」
「え……?」
だが飴玉がセイアの口に触れる直前になって、ハナコはそれを自らの口元に運び、パクリと食べた。
「ん~美味しい♡」
「どうして……?」
ころりころりと口の中で飴玉を弄びながら、ハナコはその甘味の味わいに和みつつ穏やかに答えた。
「本当はセイアちゃんに一番に摂ってもらおうかと思ってたんですけど、気が変わりました♡」
「気が、変わったって……」
「実のところホシノさんからも健常な人以外に広めるのは、反応が予想できないから止めるように言われてるんですよね。『医療の心得がない私たちがやるにはまだ早い』って。だからいずれは詳しい子も引き込みたいですね、セリナちゃんとかハナエちゃんとか♡」
溶けた飴玉が甘い吐息となってハナコの口から洩れる。
顔を背けて吸わないように口元を抑えるセイアを、ハナコはクスクスと笑いながら見ていた。
セイアの手に、再び取りだした飴玉と、小袋に入った砂糖を握らせる。
「セイアちゃんには健常なまま、ティーパーティーの権限を使って砂糖を広める手伝いをしてもらいます♡」
「断ると、言ったはずだ」
「いいえ、セイアちゃんは断りませんよ。ナギサさんにもよろしくお伝えください。足りなくなったらすぐに、好きなだけ用意しますからね♡」
「ハナコ……」
耳元で囁くように告げるハナコ。
無理やり跳ね除けるだけの力を持たないセイアは、クラクラとするハナコの声に、為すがままだった。
最後にフッとセイアの狐耳に息を吹きかけ、ハナコはセイアから離れた。
「デートはこれで終わり、ですね♡ それじゃあセイアちゃん、風邪を引かないように気を付けてくださいね♡ また会いましょう♡」
そんな、何でもないことのように別れを告げて、常のような自然体で笑いながらハナコは去っていった。
後にはセイアの手には忌まわしい砂糖の塊が握られているだけだ。
今すぐ捨てたいが、捨てることすらも危険なのだと、直感が囁いている。
早鐘のように脈打つ心臓の音だけが、セイアには残った。
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「……と、いうわけなんだ」
「……なるほど、そういうことですか」
ティーパーティーに戻ったセイアは、ナギサに事のあらましを伝えた。
この場にミカはいない。
ティーパーティーの権限を剥奪された彼女は、許可が無ければこの場には入れないからだ。
「この件に対して意見を聞きたい。先生はどうなっている?」
「不知火防衛室長の件で今は忙しいようです。連絡が付きません」
「連絡が付かない程の事態が、あちらでも起こっていると見るべきか」
「先日の先生誘拐事件での音信不通を考えると、無くはないでしょう。モモトークに既読は付いているので通信環境は残っているようですが、純粋に忙しすぎるのでしょうね」
「……先生は頼れないか」
連邦生徒会長代行がカヤに代わってから混乱が起きていた。
次から次へと出される条例に市民が対応しきれず、あちらこちらで騒動が起きやすい環境になっている。
百鬼夜行が静かだったのは偶然と言っていい。
セイアたちはあずかり知らぬことだが、この状況を打破するべく現在先生はRABBIT小隊と動いている。
カヤの暴走によるサーモバリック弾の爆発を防ぐため、他にかかずらわっている余裕はなかった。
「なんて悪いタイミングだ。いや、このタイミングだからこそ動いたのか」
大きな事件の陰に隠れて動いている。
先生は一人しかいないのだから、複数の事件が同時に来てしまえば、先に起きた事件の解決を優先するしかない。
セイアの知るハナコならそれくらいのことは考えるだろう。
セイアに提出された砂糖を見ながら、ナギサは答えた。
「ここは従いましょう」
「正気か?」
「いたって正気です。これを拒否することは簡単です。でもそれでどうなりますか?」
「それは……」
かつてハナコを含む補習授業部は、先生の指揮が有ったとはいえ、たった四人でティーパーティーの警護を出し抜いてナギサを誘拐し、侵攻してきたアリウスを手玉に取り、ミカを相手に粘った。
ハナコの頭脳あればこそ、あれだけ鮮やかな作戦が立てられたのだ。
そのハナコが敵に回っていて砂糖を広めようとしている今、ナギサたちが従わなかった場合はどうなる?
「従わない場合、きっと私たちでは想像もつかない方法で、それでいて無差別に砂糖を広めるでしょう」
「……そう、だな。ハナコがその気になったのなら、ミサイルに砂糖を詰めてばら撒くくらいのことはやるだろう。それだけは避けなくてはならない」
「ならばここは表向きは従って砂糖を広める手伝いをして、その実広まり具合をコントロールするしかありません」
「道理だ。そうか……ハナコはこれが見えていたから、私が断らないと言ったのか」
ナギサの言葉に、セイアは苦々しく思いながらも頷いた。
「……ミカはどうする?」
そのセイアの問いに、今度はナギサが口を噤んだ。
「ハナコの狙いはミカだ。言ってはなんだが、トリニティの他生徒などおまけでしかないだろう。ハナコの指示に従うなら、私たちの手でミカに砂糖を盛れ、ということになる」
「……」
セイアもナギサも黙る。
ナギサやセイアに、友達に砂糖を盛る外道に落ちろと言っているのだ。
だが次の瞬間、2人は同時に答えた。
「やろう」
「やりましょう」
2人の意見は一致した。
査問会で沙汰は下されたとはいえ、未だミカの極刑を望むデモは絶えない。
ここでミカがティーパーティとして砂糖を振りまく側になってしまえば、ミカをもうかばうことはできず、ミカに未来はなくなる。
そうならないためにも、ミカには砂糖の被害者でいてもらわなくてはならない。
砂糖がキヴォトス全域を巻き込む事態になれば、ミカの特異性は薄れる。
無関係の者が面白半分にミカの罪を糾弾し、彼女に石を投げられることも無くなるはずだ。
砂糖を広めるティーパーティーという悪と、ミカにはその悪に翻弄されるお姫様であってもらわなくてはならない。
「最後の議題だ。補習授業部はどうする?」
「ヒフミさんにはそれとなく話を聞いてみましたが、ハナコさんは親族のご不幸という建前でしばらく休むと伝えているようです。彼女たちは現状を知りません」
「……なら巻き込むわけにもいかないか」
「ええ、補習授業部には不干渉でいましょう」
「そうだな。砂糖を広めるのを任される以上、どこにどう広めるかはこちらが決めるべきだ。なら手を出さない方が良い」
補習授業部はハナコの古巣だ。
ハナコはセイアにも補習授業部にも砂糖を与えずにトリニティを去った。
だからこそ、彼女たちが砂糖中毒に陥った時のハナコの反応が想像できない。
ハナコにとっては砂糖を広めることは復讐なのだから、復讐対象ではない彼女たちが砂糖を摂取した時にどこまで激怒するのかが分からない。
補習授業部に砂糖を広めるのはアンタッチャブルすぎると2人は判断したのだった。
「モモフレンズ、でしたか。ヒフミさんが熱中しているグッズのイベントを企画して、しばらく視線を逸らすことにしましょう」
「アズサも好きだったな。なら私は彼女たちがうっかり砂糖を摂取しないように裏から調整しよう」
テストをすっぽかすほどの熱意があるなら、こちらでイベントを用意すればヒフミたちの行動を操るくらいはできるだろう。
セイアは直感で予測できないトラブルへの補佐を担うと決めた。
方針は決まった。
これよりトリニティ史上最悪のティーパーティーが誕生する。
「……私たち、酷い恨みを買うことになるでしょうね」
「そうだね」
「きっと抵抗は凄くなります。ミカさんたちのクーデターなんて目じゃないくらいの、大きな反発が生まれるでしょう」
「それでも私たちにしかできないことだ」
「……羽をもがれてブラックマーケットに売り飛ばされるくらいのことは、覚悟しておきましょう」
「そんなことにはさせない。私がいるのだから」
「信じますよ、セイアさん」
「信じようナギサ。たとえ楽園の証明はできずとも、私たちの選択がいつかの未来に繋がる光になることを」
『信じる』という言葉を口に出すのはなんと軽く、それを続けることのなんと難しいことか。
だがそれを分かっていても、ナギサとセイアは敢えて言葉にした。
例え後ろ指を指されて苦しむことがあろうとも、セイアはもう絶望して目を逸らさないと決めたのだから。