白鯨の歌声 戦争の始まり
マリンフォードの一般居住区の路地裏
空を見上げカモメに話しかける。
「ねえカモメさん。」
「クエ?(何?)」
アドは見聞色の覇気でモビーディック号のイメージをカモメに伝える。
「これ、この船に届けてくれないかな?」
お礼にこの人をつついて海王類の霜降り肉をもらっていいとレッド・フォース号と父のイメージも伝える。
「クー!(わかった!)クゥ…?(ところでその怪我は大丈夫なの…?)」
「うん…大丈夫、ありがとう。」
「クークー!」
カモメを見届けるとフラフラと膝をつく。
どこだ、まだ近くにいるはずだ、探せという声がそこら中から聞こえていたが、次第に遠退いていく。
「こんな貧弱な体じゃなきゃな…。」
カハッと喀血したアドは、仰向けに倒れこんだ。
■
とある海の上
「おい、なんだこのカモメは!」
「お頭がつっつかれてら~!」
ある場所に向かっている赤髪海賊団。
その大頭であるシャンクスは、娘のちょっとしたイタズラのせいでカモメにつつかれていた。
「なに?お前の娘の頼みを聞いたから肉をよこせ?あ~わかったよ!」
嘘は言っていないと見聞色の覇気で見極めたシャンクスは、海王類の霜降り肉をラッキールウから貰うようにカモメに伝える。
そしてカモメは"何か"から逃げるようにシャンクスに手紙を渡した。
(…!)
書かれていたのは娘アドからの、これまで育ててくれてありがとうという感謝と、親不孝な娘でごめんなさいという謝罪だった。
そこへ、戦争へ参加しようとする百獣海賊団が大船団で現れた。赤髪海賊団は、戦争に参加しようと画策するカイドウを足止めするため動いていたのだ。
「ウォロロロロ…俺の邪魔をするのか赤髪ぃ!」
「俺は今、すこぶる機嫌が悪くてな…容赦はしないぞ…!」
覇王色の覇気を愛刀グリフォンに纏わせる。剣と棍棒がぶつかり合った。
■
どれ程の時間が経過しただろうか。
何者かの"歌声"で目を覚ました。
「ぅう…捕まって、ない?」
海軍は戦争の準備のために追っ手を仕向けるどころではないことと、一般居住区の住人は避難し既に街中はもぬけの殻だったことが幸いし捕縛されなかったようだ。
大きな"歌声"が、『俺達の家族、返してもらうぞ。』と言わんばかりに鳴り響く。
ハッとしたアドは建物を駆け上がり、マリンフォードの湾を見渡す。
海軍と王下七武海が集結している。
海の向こうには、新世界の名だたる海賊団がひしめいていた。
そしてエースも処刑台に…。
マリンフォードの図面を盗み出してから3日間も気を失ってしまっていたようだ。その事実に、歯軋りが止まらない。
(必ず助けるから…!)
そしてどんどん大きくなるこの"歌声"の主を、アドはよく知っていた。とある船の妖精"クラバウターマン"の声だ。
要塞の目の前の湾の下に、何かの巨大な影が浮かび上がる。
「来たんだね、白鯨さん…!」
海を割る轟音と共に現れたそれは、万の海を越え、世界最強の海賊団を支え続けた船の王、モビー・ディック号。
いつもの優しく穏やかな歌声とは違い、親しいアドですら恐怖を覚えるほどの激しい怒りと勇猛果敢さに満ち溢れる歌声で敵を威圧する。
『おい、なんだ船が勝手に!』
『誰だ帆を広げたのは!』
海軍側の軍艦の何隻かは、世界最強の船に気圧され逃げ出そうとしている。
そして、世界に12本しか存在しない最上大業物12工の一つ、むら雲切を携え船首に立つのは世界最強の男。
白ひげ、エドワード・ニューゲート
これ程の覇気を持つのは、父である赤髪のシャンクス以外には一人しかいないだろう。
「グララララ…俺の息子は、無事なんだろうな…?センゴク…!!!」
どうして見捨ててくれなかったのかと問うエースに、俺は行けと言ったハズだと、エースの面子を立てる白ひげ。
そして、ビキビキと"大気そのもの"にヒビが入る。
空間が歪み、とてつもないエネルギーが発生し、巨大な津波を引き起こす。
遂に戦争が始まった。
(きっと全部上手くいく…誰も死なない。)
そう自分に言い聞かせ、蜃気楼の如く戦場に消えた。