白銀の城の面々と縁日に行く話
「ねぇマスター!あっちに金魚すくいあるよ!」
「アリアス、みんなの分の焼きそば買ってくるから、持っててもらった財布貸して」
白銀の城の近所で縁日があると聞きやってきたのだが…
「ほら二人とも、この人込みで迷子にならないようにしてくださいね」
出店に目を輝かせるアリアンナとアリアーヌをアリアスとともに背後から見守っているのだった。
「申し訳ありません。あなた様にこのように手を煩わせてしまって……」
アリアスが頭を下げるが、そこはたいして気にならない。むしろ異世界の縁日というものがどんなものか気になっていたくらいだ。
それよりも気になるのが、白銀お城の主、姫様の居場所だ。運営側として参加しているらしいのだが、この人込みで一向に見つからない。
「一応私たちの城も町内会に所属しておりますから。こうしてたまに行事ごとにも参加しているのです」
城を構えておきながらそこは何とも庶民的なのが姫様らしい。
このために三人分の浴衣を用意したのも姫様自身なのだろう。
「どうでしょうか…アリアンナやアリアーヌはともかく、わたくしはあまりこういった和装は似合わないのでは…」
そんなことはない。正直に似合っていることを本人に伝える。
「そうですか…それなら二人に着付けを習った甲斐がありました…」
恥ずかしそうに、ただ嬉しそうに視線を逸らすアリアス。そういったところもかわいらしく思える。
「アリアス!こんなにすくえたよ~!」
「えぇ、よくできましたね」
金魚すくいの成果を見せに来るアリアーヌと、それをほめるアリアス。年が離れていることもあってか、まるで親子のようだ。その様子に思わず笑みがこぼれる。
「ふふっこうしてみると、まるで子供を見守る夫婦の様……」
アリアスはとっさに両手で口を閉じる。ただ、こちらもはっきりと耳にしてしまった以上、聞かなかったことにすることもできない。
思わず気まずい雰囲気になって二人の間に沈黙が走る。その沈黙を破ろうとアリアスが口を開く。
「このままはぐれてしまうのも…後が大変ですし…わたくしと…手を……」
握っていただけますか?
そう口にしたいのだろうが、これ以上の勇気が出ないらしい。アリアスの顔を見ると耳まで真っ赤になっている。
ただこちらも変に意識してしまって手を伸ばせない。
アリアスが大きく深呼吸し、口を開く。
「わたくしと手を「はーあ!どっこいしょー!どっこいしょー!それわーしょい!わーしょい!それそれそれそれ!!お祭りですわ~~~~~!!!!!!!!!!」
聞きなれた叫び声。声の主を探ろうとあたりを見回すと、みこしの上に立って祭りを盛り上げる姫様の姿があった。
「運営側に回ってやることがあれですか…」
アリアスもあきれた声を漏らす。ただその姿はとても楽しそうだ。それにしても、この人ごみでよくあんな目立つことできるものだ。
「わーしょいわーしょい!」
みこしの上で神輿を担いで掛け声を上げる姿はなんというか……うん。まぁ、元気があってよろしいんじゃないかと思う。
「って、ぎゃ~!!!!さらしがほどけてぽろりしまいますわ~~~~~!!!!!誰か~~~~~~!!!!!!主様~~~~~~~~!!!!!!!アリアス~~~~~!!!!!!!!」
みこしの上でしゃがみ込み、助けを求める姫様。もはやさっきまでの気まずさも吹き飛んでしまった。
「まったく…あのアホ姫様は……」
アリアスも思わず額を抑えてがっかりした声を上げる。
アリアスに手を伸ばして口を開く。
さ、姫様を助けに行こう。
少し驚いた表情を浮かべ、こちらに微笑みかけると手を取ってくれるアリアス。
アリアスの手を引きながら人込みをかき分けて姫様の救出に向かうのだった。