白、ピンク、赤

白、ピンク、赤

リハビリ中の字書き


※🥗注意

※女性特有のデリケートな生理現象の描写があります

※幼児退行ネタあり

※🥗IFローが素っ裸です

※IFドフラミンゴがだいぶアレです

※心の広い方のみお読みください





 散乱した血痕に囲まれ、女は呟いた。


「……お腹から血が出てる?」


 こてん、と首を傾げて。

 ずきずき痛みを主張する下腹部に視線をやるけれど、そこには剥き出しの素肌があるのみで血はついていない。

 真っ白な鳥籠の床を濡らす赤い液体を目で辿っていくと、一番たくさん出ているのは自分の脚の間からだった。

 脱ぐ服は最初から無いので、少し動くたびに体の中から溢れてくる鉄臭いソレを直に指先で掬う。

 見下ろした身体に多種多様な傷は最初からついているけれど。新鮮な血を現在進行形で流し続けているのは股の付け根だけだった。

 どうして痛いのはお腹なのに、こんな所から血が出てくるのだろう。

 ……そもそも何で鳥籠になんか入っているのだろう。

 己の名前、素っ裸で寝ていた理由、ここは何処か、昨日まで何をしていたのか。

 何もかも思い出せない。

 まるで脳味噌や心臓に大きな亀裂が入って、そこから大事なものがごっそりと抜け落ちてしまった心地だ。

 じわりと眦に涙が滲む。怖い。痛い。寂しい。冷たい鳥籠の扉を片方しかない手で押してもビクともしない。


「誰か、いないの……?」


 か細い声が無人の室内に頼りなげに響く。

 部屋には窓もなく、小鳥の囀りも聞こえない。

 それとも鳥籠に入っているのはこの身なのだから、早朝に歌と羽ばたきで人々を起こすのは自分の役目なのだろうか。

 翼どころか腕さえ足りぬこんな体で出来る所業とは思えないが。


「お腹、痛い……寒い……」


 一糸纏わぬ裸体を暴漢に怯える少女のように小さく丸めて、お腹を押さえたまま蹲る。

 装飾細かな金属造りの鳥籠はどこもかしこも暖をとれるぬくもりが無い。

 床に敷かれたピンク色の羽のような絨毯を、柵の隙間から流れて落ちた血液がポタポタと汚してゆく。

 それを見て、誰かに怒られると思った。誰なのかは顔も思い出せなかった。


 ガチャリ。

 職人が手を凝らしたであろう光沢もつややかな彫刻のドアノブが音をたてて回り、勿体ぶるようなとろさで扉が向こう側から押し開かれた。

 腹痛に身悶えて膝の間に埋めていた顔を緩慢に上げる。


 それはあまりにも大きな男の人で、添うように肩に羽織られた、ちょうど血を付けてしまった絨毯と同じような羽毛のふわふわとしたコートが印象的だ。

 金色の髪の毛に、視線がどこを向いているのかも分かりづらい色つきのサングラスをかけていて、記憶に無い筈なのに、頭の奥深い所で「思い出せ」と誰かが叫んだ気がした。

 気がしただけだ。思い出せはしない。


「フッフッフッ。懲りねェなァ、ロー。おれのものを勝手に傷付けるとどうなるか、何度も体に教えてやっただろう……」


 入ってきた男は、こちらの様子を一瞥すると怒りを滲ませた声で三日月の形に口を歪ませて、大股で鳥籠に近付いてきた。

 叱られちゃう。ローってあたしの名前なのかな。自身のことさえ全て忘却した女はまともに受けた気当たりの強さに身を竦ませるも、今まで自分が『教えられた』責苦の記憶も放棄したがゆえに呑気な感想を抱く。

 鳥籠の錠を目に見えない何かで真っ二つにして、男はどこか焦ったような様子で乱暴に女を引きずり出した。

 血でぬるつく足首をものともせずに掴み上げられ、そのまま柔らかな床に、それでも衝撃を吸収しきれないほどの強さで叩きつけられる。


「うっ」


 背中を打ち付け短く息を吐く。拍子にまつ毛を濡らしていた雫が、顔の間近にあった血痕に混じる形で落ちた。

 なんだか急に怖くなって、そのままボロボロ涙をこぼしながら首を横に振る。

 酷いことしないで。痛いことしないで。そんな感情を顔いっぱいに出して泣きぐずる女に、やっと異変を察した男は暫しの間動きを止めて、それから横になったままの女の体に馬乗りになった。


「やだ……痛い、痛い……おにいちゃんだぁれ……なんであたし血が出てるの……?」


 いとけなく頬を濡らす女が痛みと不快感に内股を擦り合わせる仕草を見逃さず、男は血で汚れることも構わないで膝を割り込ませると、女の両足を左右に大きく開かせた。

 動きに合わせてこぷりと内側から出てくる血液に、信じられないものを見るように愕然として。

 真っ赤なそれに指を這わせると、数秒沈黙して、それから空気を切り裂くような笑い声を上げた。

 秘部に許可なく触れる無粋な真似をされてなお、男の前では股を閉じるという慎みさえ知らぬほどに退行した女の心は反抗を目論まない。

 ただ呆然と、サングラスの向こうに透けて見える男の双眸を見つめている。


「ここに来て半年としない内に止まったもんがまた始まったんだ、正気を失ったフリじゃねェ。……フッフツ。なるほどなァ。負荷に耐えかねて全て忘れたら、体がまた女としての働きを取り戻したってところか」

「おにいちゃん、重いよ……どいてよ……」

「ああ、悪かったなロー。腹も痛いだろ? 今暖かい部屋に連れて行ってやるよ、フフ……」


 長い指に付着した液体をベロリと舐め上げてから、男は女の体を恭しく抱き上げた。

 先ほどまでの落花狼藉めいたものではない、自分の娘か妹をそうするような優しい手つきで。


「いいか、ロー。おれのことはドフィと呼べ」

「……どふぃ、にいさま?」

「フフ……ああ、そうさ! おれはお前の兄様だ。そしてお前はロー。おれの可愛い妹だ……!」


 まだ血の味の残る舌で女の涙も舐めとって。

 上機嫌に揺れながら、軽い足取りで男は部屋を出て行った。

 後に残るは鳥籠と絨毯と鮮血。白と、ピンクと、赤。目も眩むような三つの極彩。

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