白を守り、壊す

白を守り、壊す

名無しさん


 欲しかった医学書に他の人の手が重なる。

「あ、ごめん!」

「いや、こっちこそ、悪いな」

 そう言ってその人は踵を返した。

「あっ、待ってくれ。俺はもうこれ呼んだことあるから。いいよ、やる!」

「良いのか?お前、タヌキ?」

「俺はトナカイだ!おれはトニートニー・チョッパー。お前は?」

「トラファルガー・ローだ」

 全身黒づくめの男はそう名乗った。


「ふぅん、海賊か」

「べ、別にこの街を襲いに来たとかじゃなくてたんに寄っただけで・・・」

「それくらい分かるよ。普通の海賊なら、わざわざ金なんて払わねぇからな」

「そ、そうか。ローはなにしてるんだ?」

「旅人だな。この顔のせいで色んな奴に絡まれて迷惑してる」

「それはその大きい刀にも原因あるんじゃないかな」

 チョッパーはチラリと机に立て掛けてあるローの刀を見た。

「鬼哭のことか。危ないからな。自衛の手段だ」

「一人旅なのか?」

「そんなところだ。お前の仲間か?」

 ローはチョッパーの後ろを指差す。

「サンジ?仕入れ終わったのかな。おーい、サンジ!」

「仲間が来たなら、おれは邪魔だな。じゃあな。トニー屋」

「えっ、あ、うん。またな!ロー!」

 ローはひらひらと手を振って人混みに紛れていった。

「誰だ?」

「ローだ。流れの医者なんだって」

「へぇ。にしちゃあ、随分と人相が悪そうな・・・」

「でも優しいやつだった。ルフィが気に入りそうな」

「へぇ。男のくせに綺麗なバレッタしてんだな、アイツ」

「ロー、バレッタなんてしてたのか?」

「あぁ、お前は下からだから見れないのか。してたぞ。綺麗な白だった」


 ルフィは森の中を歩いていた。

「冒険、冒険~。んぉ?あれなんだ?」

 ルフィは見つけたものを見上げた。

「ぼろっちぃなぁ」

 ルフィは中にあった女神像を見上げた。

「なんだっけ、えーっとカミにいのりを、だっけ?訳わかんね」

「なにやってるんだ、お前。こんなところで」

「お前こそ誰だ?」

「ここに忘れ物を取りに来たんだよ」

 そう言ってローは長椅子にあった黒い服を手に取った。

「なんだそれ?」

「服だよ。俺の」

「ふーん。俺はルフィ!お前は?」

「トラファルガー・ローだ」

「トラ、トラファ、トラフォ、トラ男だな!」

「待てなんだその名前は!?」

「つーかここなんもねぇのな。なぁ一緒に飯屋行かねぇ?」

「飯屋なら東に歩けばある。分かったらとっととどっか行け」

「東・・・ってどっちだ?」

 ローは溜め息をつくと東を指差した。

「あっちだ。分かったらとっととどっか行け」

「一人じゃつまんねぇよ!一緒に行こう!」

 ローの体にルフィの体が巻き付く。

「能力者!?」

「おう!ゴムゴムの実を食べたゴム人間だ!」

「おい、ちょっ、俺は行くなんて言ってな」


飯屋にて

「うんめぇ~。なぁおっさん。あんたの飯うめぇな!」

「あ、あぁ。ありがとう。その、お連れさんは大丈夫かい?随分と疲れているようだけど」

 店のマスターが気遣わしげにローを見る。

「ん、あぁ。まぁ大丈夫だろ。おっさんおかわり!」

「・・・店主。俺はもう行く。代金は」

 ローはチラリとルフィを見てから溜め息をついた。

「どうせ持ってねぇんだろうな。これを換金すればそれなりになる。悪いが現金は持ってねぇんでな。これで頼む」

 ローがそう言って店主に放ったのはネックレス。琥珀が一つついたシンプルなものだ。

「じゃあな」

「まいどあり」


 ナミ、ロビンの2人は少しくらい路地裏を歩いていた。

「ねぇロビン。ここになにを買いにきたの?」

「色々ね。表ではないようなものが多いから。例えば、情報とかね」

「ここにそこまでのものはないよ。けど、忠告だ。そろそろこの国は壊れる」

「壊れる?」

「戦争が起きるんだ。水面下でももう始まっている。君たちも、巻き込まれたくないなら早く逃げることだ」

「どうして・・・こんな平和そうな島で」

「それは・・・「無関係な観光客に、そこまで話すことはないだろう。巻き込むつもりか」それを君が言うのかい?」

 情報屋は酷薄な笑みを浮かべて傍らに立つローを見た。

「あぁ。悪いことは言わない早く出航するんだな」

「あぁ、それは僕も同意見だ。今日はもう店仕舞いなんだ」

「もう?早くない?まだ昼なのに」

「上客が来たんでね」

 情報屋は傍らに立つローを見た。

「そう。ありがとう」

「あ、ロビン!」

 少し逸れた人気のない道でロビンは記憶を遡る。

「どうしたの?ロビン」

「さっきの、ローという男、クロコダイルの所にいた時、見たことがあるのよ。ビジネスを持ちかけに。どうして、彼ほど頭のキレる人がこんなところに」

「占いは好きかい?お嬢さん方」

「誰?」

 二人は振り返り、いかにもな格好をした占い師を見た。

「ひっひ、しがない占い師さ。お代はいらない。座っとくれ」

「行きましょうロビン。怪しすぎるわ」

「泥棒猫ナミ、そっちは悪魔の子ニコ・ロビン。あたしはただ随分と珍しい奴らだから占ってやろうと思っただけだよ」

「本当に、代金はいらないのね?」

「ロビン!!」

「運試しよ。大丈夫」

 そう言ってロビンは座った。

「ひっひ、どちらも良いお嬢さんだね。泥棒猫もお座り。なにもしやしない」

 ナミは警戒しながら座った。

「あんたたちはもうじき嵐に巻き込まれる。こんな言葉を聞いたことはないかい?〝D〟はまた必ず嵐を呼ぶ。普通の〝D〟とは違うようだが、そいつも〝D〟を持っている」

「〝D〟・・・!」

「そいつは、白を身に付けているが黒い。そして、そいつと関わることはお前たちの船医に変化をもたらす。これ以上は見えない」

「一つだけ。あなたはなぜそれを教えてくれたの?」

 占い師は笑う。

「あんたらみたいに、数奇な運命に巻き込まれている者を見るのは楽しいんだ。それだけだよ」

「・・・そう」


 二人が見えなくなると占い師はそっと右腕につけたブレスレットを触る。

 どうか、どうか、あの子を救っておくれ。私には止める権利すらないが、それでも。

 肌を染める白を忌々しく思いながらもこれを罰だと受け止めていた。それを誇りに思って良いと言ってくれた。忘れないようにと、けれど、忘れられるようにと白を残してくれた彼をどうか、救っておくれ。

 占い師はもう、祈るべき神を持たないがそれでもと。故郷にいた頃のように、祈った。

 占い師の右腕には今も白が輝いている。


深夜


 船が襲撃された。

「誰だお前!」

「・・・・・・」

 寝ていた面々が起き、劣勢になったことを理解した襲撃者は静かに呟いた。

「room」

「なにこれ!?」

「能力者!?」

「切断(アンテピュート)」

 未来視でルフィはかろうじて避けたが他のクルーはバラバラにされた。

「ッ、待て!!!!」

 分かったのは刀を扱うことと能力者であること。そして白いバレッタを付けていたこと。微かな情報に反して代償は重い。

 ルフィはただ芝生を殴る。

「こら!ルフィ!早く私達の体なんとかして!」

「な、ナミ?なんで生きてんだよお前ら!!!!」

「こっちが聞きてぇよ。とりま俺らは生きてるよ」

「そうか。良かった・・・」



 白いバレッタ。かつて、自らの身にあったもの。それはもう、無いもの。無いとされたものだ。

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