白き天使
「あ、かくしたのおじさん」
「あ"ぁ"!?」
か細いながらも通る声だが、呼ばれた言葉が指す意味にキッドはキレた。
「ひっ」
振り向くと小さい悲鳴を上げた人物は思ったより低い位置にいた。
目を覆うように帽子をかぶっている、黄色のジョリーロジャーのワンポイントが入っている白のツナギ。
間違いなくハートの海賊団の船員である。
だが、こんな小さい奴は見たことがあったかと疑問が浮かぶ。基本的に海賊船に乗る奴は成人近くの年齢のことが多いし、かの海賊団もそうだったはずだ。
「おい」
声をかけただけなのに肩を揺らして縮こまる姿に苛立つ。そもそも、そっちが最初に呼びかけてきたんだろうが。しかも失礼な枕詞付きで。
「アンジェラー?ここにいたのか」
今度は聞き覚えのある声だ。べぽ、と呼ばれたシロクマが子どもを迎え入れる。のんきに見つかってよかった、と声をかけてこちらはお構いなしだ。
「キャプテーン!アンジェラいたよー」
「見つけたか」
それに遅れてもう一人。白い帽子にタトゥーが目立つ男、ハートの海賊団船長であるトラファルガー・ローだ。
「誰かついてないと出歩くのはダメだと言っただろう」
膝をついてガキの目線に合わせたトラファルガーが言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい」
「窮屈な思いをさせて悪いが、お前も俺の船員だ。見えなくなったら心配する。出歩きたい時は誰でもいいから声をかけろ」
「うん」
「…分かったんならいい」
どこに行きたかったんだ、と声をかけながらガキを抱えあげる姿にこんな奴だったか?と思う。それはそれとして、いまの今までこちらを無視したことと、子どもの俺の認識については話すことがある。
「おい、トラファルガー!」
呼びかけと同時に突風が吹く。砂埃が鬱陶しくて、目を細める。
「あ」
「ROOM」
青のサークルが展開される。なるほど、そういうことか。
「シャンブルズ」
一瞬でトラファルガーの手元に戻った帽子は、先ほどまでガキの頭の上に乗っていたものだ。
「ありがとう、キャプテン」
「礼はいい。目にゴミは入らなかったか」
「うん」
すっぽりと髪を覆うように帽子が被せられたが、隙間から覗く色は先ほどと同じく、神聖ささえ感じるほどの透き通った白だった。