白い花が舞っていた

白い花が舞っていた


 朝も早いうちにエースに叩き起こされて外に出た 散歩でもしたいのかと思ったけど先導されたのはいつもと全然違う道 最初は気分転換だと思ってついて行ったけど、舗装された道が砂利になって土になって獣道になる頃にはめっちゃ不安になってた 背の高い木々で日光遮られてずっと薄暗いし前を行く白ひげの刺青だけが頼り 声をかけてもちょっとスピード下げてくれるだけで止まってはくれないし…… 

 ようやく視界が開けた 風でさざめく草原、潮騒と海の匂い そして小高い丘の上には大きな石に突き立った薙刀と靡くコート

 白ひげの墓だった それも恐らく、今隣にいる元野良エースをここまで育て上げたであろう個体の

 コートに目立った傷はないからOP同士の戦争で亡くなったわけじゃなさそうだと思ったよ

 大往生だったのか、と飼い主がぽつりとこぼした疑問にエースは一つ頷いて墓前に酒を添えた オイそれ飼い主の晩酌用の安酒

 野良環境下での「エース」は大抵の個体が「白ひげ」より先に寿命を迎えるけど時たまその順序が逆になると聞いたことがある この子はそのパターンだったんだろうね 

 白ひげカイゾク団が解散したあとも群れにいた子達はちょくちょく来てるんだろう、墓は花で溢れて華やかな香りがした 

 解散後にエースが他の隊長種やスペードカイゾク団と行動を共にしなかった理由はわからない 何か信念があったのかもしれないけどそもそも普段から喋る子じゃないからね こればっかりは個体差だ

 ただ、飼い主がここに連れてこられた理由はなんとなくわかった どうやら昨日のやらかしはばっちり聞かれていたらしい

 もうしにたいなんて言わないよ、って言ったら墓に手を合わせていたエースが振り返って怪訝そうに顔をしかめた 飼い主のこと信用しろや 君もいるから本当だぞ 小っ恥ずかしいから言わないけど

 墓に向き直って息子さんをお預かりしますって頭を下げたら風が吹いて花の香りが強くなった

 しばらくそうして、顔を上げたらエースが踵を返したので慌てて追いかけたよ

 刺青が誇らしげに朝焼けに輝いてた


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