発覚
「兄様なのか……!? ソナタが、わらわの……!?」
「そうだ。」
曇りなき眼で一点を見つめる世界一の大剣豪。到底嘘をつくような人間ではないし、その鷹のような目が本当だと告げている。絶世の美女として名高いボア・ハンコックはにわかには信じ難い現実に、困惑した面持ちを浮かべる。
「そ、そんなくだらぬ嘘を付いて一体何が狙いじゃ! わらわを騙し、首を取る気じゃな!?」
「違う。」
たった二文字だが確かな威圧感がそこにはあり、ボア・ハンコックは世界一の大剣豪ジュラキュール・ミホークと本当に兄妹なのかと驚愕する。開いた口がふさがらないとはまさにこの事だ。
「ソナタがわらわの兄だとして、何故そんなこと今さら……。」
ボア・ハンコックは本音をさらけ出す。互いにもう四三と三一歳。いい歳だ。
"兄妹と言う事実を知らなかったのならば、このまま何も知らぬ方がよかったであろう?"
とでも言うような表情や態度、言葉に見え隠れする困惑と疑念。ジュラキュール・ミホークは見落とさなかった。
「俺は嬉しかったのだ。」
「ソナタ、今……!!」
あの堅物で知られる鷹の目が笑った。それはボア・ハンコックを動揺させるには十二分過ぎる出来事だった。
「俺には顔も知らぬ妹が居る__それを知り、不覚にも"嬉しい"などという感情が湧き上がってきた。まさかかの海賊女帝だとは驚いたが……。だが納得した。二年前の頂上戦争、俺はおまえに妙な違和感を感じていた。当時はあの違和感の正体を知り得なかったが、今なら分かる。」
鷹の目という異名を忘れるほど、柔らかく微笑むジュラキュール・ミホークを見て、ボア・ハンコックはいよいよ彼を兄として認めざるを得なかった。
「じゃが……今さらソナタが兄とは……。」
「少しずつでいい。」
ボア・ハンコックの艶やかな髪が流れる後頭部に、優しくそっと手を置く、ジュラキュール・ミホーク。男嫌いのボア・ハンコックは頭に乗せられた角張った手に、不思議と嫌悪感は感じなかった。
「少しずつでいいのだ。焦ることはない。徐々に兄妹という関係を受け入れていけばいい。」
「わ、わかった……。」
コクリ、と頷くボア・ハンコック。
世界一の大剣豪と絶世の美女にして海賊女帝である二人が兄妹であると全世界に知れ渡るのはもう少し先のお話__。
今はただ、二人がこれまでできなかった兄妹としての時間を過ごしていくのだ。