発注
「…と、いう訳でな」
『おぉ、これはまた…
想像もしきれませんが、なんとも壮大なプロジェクトですな』
私の話に相槌を打っていた町長が、最後にそう締める
そう、壮大なのだ
なにせ私が作ろうとしているのはただの客船ではない
世界、否、歴史において最大にして最高のエンターテイメント客船グラン・セーニョ
普通の人間では想像することすら不可能なほどの規模でなくてはならない
sそれで言うと、町長のこの驚き方は実に気分がいい
『それで、○○様
ご注文というのは、話しに出ておりました食器類を、ということでよろしいでしょうか?』
「あぁ、そうだ
大方の数を言っておく、来週までに概算を出しておいてほしい
今メモはできるか?」
『少々お待ちください
…お待たせいたしました、どうぞ』
「うむ、まず平皿が-」
手元に寄せた資料を基に、おおよそ必要と考えられる数を伝えていく
が、数が数だけに口頭による説明だけでも長時間に及んでしまう
現段階でも想定されている使用数は、破損等を想定した予備も含めておおよそ5万枚
最終的にはおおよそその3倍の数になると予想されている
とは言えその6割方は庶民エリアで使用される大量生産品だ
だが、逆に言えば4割、おおよそ4万枚近くは高級遺品を使うことになる
それをこの場で発注しているのだ、長くなるのは当然といえよう
「-と、大体こんな感じか」
『…これは、覚悟はしておりましたが、とんでもないですな』
町長の声からその驚きようがありありとうかがえる
まぁ普通に生きていればまずお目にかかることなどないような数だ、この反応が当たり前
むしろ今は、その驚きようこそこのプロジェクトの壮大さを物語っているようで誇らしさすら感じる
「デザインは任せる、金に糸目も付けない、何とか頼むぞ町長」
『…かしこまりました、ほかならぬ○○様のため
島の全力を挙げてご用意させていただきます
付きましては、八日後に費用と期間の概算をご連絡させていただきます』
「あぁ、頼む」
そう言って、私は電伝虫の受話器を置いた
ああの島の者たちは、町長も含め本物の職人たちばかりだ
こうして頼めば、実際に数は用意してくれるだろう
だが、当然作成にかかる期間も費用も通常ではありえないものになるのは目に見えている
が、今回はむしろそれでいい
掛かるコストが大きいほど、用意に時間がかかるほど、このプロジェクトの壮大さを後押しすることになる
積み上げた土台が大きく手の込んだものになるほど、上に建つ城はより壮麗なものになる
であれば、ここでかかるコストも時間も、全てがグラン・セーニョの土台、礎となるのだ
コスト削減など、今は言いっこなしである
何処までも膨れ上がり、出来上が意をより最高のものにしてほしい
まぁ、私に支払える範囲で収まってくれるのが大前提だがな
…と、そんな他愛ないことを考えていた私は、この1週間後思い知ることになった
人生の歯車というものは、自身のあずかり知らぬところで崩れることもあるのだということを