痴漢!変態!ご主人様♡
『次はー、代々木ー、よよぎー』
ぷしゅ、とマヌケな音をたてた後、停まった電車の扉が開く。
時刻は19時半。かたいイスに座りっぱなしの仕事場からようやく解放された俺は今、我が家に帰ろうとしているところだ。
このところ座り詰めだったせいか、体のあちこちがぎしぎしと変な音をたてたりしている。…あぁ、早く家に帰ってシャワーを浴びて…あの金色の飲み物を疲れ切った喉に流し込みたい!
…そんな些細な幸福を間近に感じながら、俺は電車に乗り込みつり革を握った。
☆ ☆ ☆
がたんごとんと、車輪が線路と重なって金切り声をあげている。
綺麗に拭き掃除された窓ガラスには、もはや何度目かも数えきれないほど見てきた、東京の風景が映っている。
人工的なのにどこか懐かしさを感じるなぁ、そんなことをいつもの俺は考えていたのだが、今日は違った。
「…っ……!…っ」
今俺は、自分を襲う得体のしれない快楽に身を震わせているのだ。
(尻揉むんじゃねーよ…!!!)
そう、俺は今背後の何者かに尻を揉まれている真っ最中なのである。
…電車に乗り込むまでは良かった。少なくとも、その時に俺の尻を揉むやつはいなかった。いてたまるか。
だが電車に乗って一息ついたあたりからだろうか、妙に尻のあたりから違和感を感じて見てみたところ、なんと謎の男の手に俺の尻がズボンの上から揉まれていたのだ。
(おっさんの手じゃ…なさそうだな、しっかり男だけど多分若い…
毛とか生えてねーし、あとすげぇ綺麗な形してる…)
何とか周りに気づかれることなく振り払おうとしつつ、くせ者の手を観察する。
実のところ、俺は男に気がないわけじゃない。もちろん女にだって欲を感じることはあるが、それ以上に男に興味があったりもする。
だからこの痴漢がもしおっさんじゃなく学生とかだったりしたなら許してやらんこともない、と思っていたのだが…
(にしても揉むのうますぎだろ…触られてんの尻だけなのに気持ちよくなっちまう…)
ただ尻を揉むだけならそれでよかった(よくない)のだが、いかんせんコイツうますぎる。
的確に気持ちいいところを探り当てる癖に、妙にマジなポイントをずらしてくる。
しかも手の動きに妙に緩急があって、大きい波と小さい波が交互に襲ってくるせいで無視しようにもできないのだ。
(あ、また大きい波キた…♡)
だんだんと快感が強くなってくる。
ここは電車の中なのに、もしかしたらだれか見てるかもしれないのに…そんな不安ももはや俺が気持ちよくなるためのスパイスになってきている。
もしかしたら次でイくかもしれない。いやひょっとしたら今かもしれない。
そんなことを車窓を眺めながら思うたび、下腹のあたりが妙に疼いて仕方ない。
(あっ…イく、イく、イく……♡)
…ついに一番大きい波がキた。
今までとは比較にならないほど気持ちよくて、脳がびりびり言っているのがわかる。
イったらダメなのに、社会人失格なのに、と形だけでも自分に言い聞かせ、いや最早それすら利用して脳に快楽信号を送る。
最初こそ抵抗していたものの、今の俺にはこの快楽に勝てる自身がなかった。
(イくっ…♡)
びくん、と体がひときわ大きく震える。
半ばまで勃起したペニスから精液がとろとろと溢れ出しているのがわかる。
あ、終わった。
脳みそのどこかが叩き出すそんな後悔の念も忘れ、俺はまだ消えない快感を無様に貪り続けていた。