病と歴史と黎明と

病と歴史と黎明と

オオナズチの人

《闇がその目を覚ますなら、彼方に光が生まれ来て》

《大地に若芽が伸びるなら、此方に闇が生まれ来る》

《全てを照らすは光なれ、あまたの影は地に還る》

《何処に光が帰る時、新たな影が生まれけん、やがては影が地に還り新たな命の息吹待つ》

《共に回れや、光と影よ》

《常世に廻れや、光と影よ》

《そして一つの唄となれ》

《天を廻りて戻り来よ》

《時を廻りて戻り来よ》

 ───新世界銀嶺族が治める冬島より、北に5km進んだ所にあるとある島

「此処に奴が居るぞ!奴自体は生死問わずで良い、奴の血統因子を何としても入手しろとの命令だ!」

「あの“化物”を逃がすなぁ!」

 世界政府諜報機関─CPエージェントに狙われている一人の黒い少女は自らに向けて放たれた『六式』が一つ嵐脚を回避し、空へ逃げ様としていた。

 ・・・現状の説明をしよう。

 彼女の名はフィリア。

 リュウリュウの実幻獣種モデルゴア・マガラの能力者にして、その能力を覚醒させ真の姿とも言うべきシャガル・マガラへと昇華させた人物でもある。

 そんな彼女は何故、秘密裏に世界政府の手に拠って始末されかけ、追い詰められているのだろうか?

 ・・・事の発端世界政府加盟国、非加盟国問わずとある症状が発見されたからである。

 その症状に感染すると生物は身体に異常をきたし、自我を失ったかの様に凶暴化してしまう。

 狂犬病と似たような症状の為に狂犬病ワクチンを患者に投与しても効果が見込め無い為、別の症状である事が判明した。

 幾つかの島が被害を受け、最後に症状が観測された島は全滅してしまったが、その後は全ての症状が沈静化した為に末期症状は観測されて無い。

 その未知のウイルスに感染して末期になってしまった患者は泡を吹きながら倒れ伏し、仮死状態になってしまう。

 ・・・それが世界政府が表向きに出している症状である。

 実は世界政府は嘗て症状に関しての伝承を考古学の最高権威であった考古学者─クローバー博士から仕入れており、その伝承が事実かどうかの実験が大監獄インペルダウンにて実行された。

 被験者となった嘗ては凶暴な海賊として名を馳せていた男─現モルモットに秘密裏に入手した原因と思わしき『ウイルス』を注入し、末期状態がどう言った症状なのかを確認する実験を行った。

 ──その実験の結果は開始して直ぐに訪れた。

 直ぐに末期状態になったモルモットは全身から悍ましい色のオーラを吹き上げ、体のあちこちに毒々しい模様を浮かび上がらせた。

 その状態になった元から凶暴だったモルモットは更に激しく暴れ回り、研究者に襲い掛かった。

 幸いな事に五老星からの命令でその場に居た元海軍大将赤犬─現海軍元帥サカズキの手によって速やかに始末され、犠牲は出なかった。

 この実験結果によって20年以上前に世界政府が手に入れた嘗て900年前に存在した王国よりも更に太古に存在したと言われる古代文明が残したと資料の内容は本当の事であると証明された。

 その資料ではゴア・マガラの鱗粉が変異した物質を『狂竜ウイルス』と呼称し、ウイルスに感染する事で現れる症状を『狂竜症』と定義されていた。

つまりその正体は病原体では無く、それは『狂竜ウイルス』と名付けられたゴア・マガラの鱗粉及びシャガル・マガラの操る物質の正体だったのである。

 ──しかし、世界政府が欲していた情報はそれでは無い。

 それはゴア・マガラとシャガル・マガラが操る『狂竜ウイルス』は生殖細胞であるかどうかの結果を世界政府は求めており、五老星直々の命令でモルモットの遺体を解剖した。

 結果は資料の通り、モルモットの遺体内にゴア・マガラの繭と思わしき残骸が見受けられた。

 それはエッグヘッドに輸送しようとしたサカズキ元帥の意向を完全に無視し、直ぐに世界政府が誇る、天竜人直属の諜報機関CP0エージェント達の手によって聖地マリージョアに運ばれた。

 ・・・何故世界政府がその結果を欲していたかと言うと話は約400年程前に遡る。

 約400年程前に世界政府はとある人造悪魔の実を求め、銀嶺族から追放された男に出し抜かれた過去を持つ。

 その悪魔の実の“元となった”存在は褐赤の鱗を纏い、神話のドラゴンを思わせる様な堂々たる威容を持ち、強靭な四肢と翼を有する龍らしく頭部には歪に捻じ曲がった一対の巨角を冠していたと言う。

 ──その龍の名は『赤龍』ムフェト・ジーヴァ。

 その最大にして最恐の能力は周囲の自然環境を自らにとって都合の良いように書き換える事だ。

 具体的に言うのならば世界中を巡る地脈を通して自然環境を構築する生命エネルギーを操る事が出来き、其れによって環境と生態系を直接操作しする事が可能である。

 その結果汎ゆる動植物が淘汰され、生命の息吹すらも感じられない荒廃した環境、逆に多種多様な生命体が溢れ、全く異なる生態系が入り乱れる歪な環境等が形成される。

 本来であれば自然界に存在し得ない異常な環境を自在に創造する事が可能としてしまう恐ろしき力。

 かの『赤龍』が理想郷を拡大し続け、自らの種の保存を達成する事は即ち現在の世界の崩壊を意味すると言っても過言では無い為、正に君臨する地の自然環境と生態系を自由自在に創造する王者の名に相応しき龍である。

 そして世界政府が目を付けたのはその赤き王からの死の宣告と言われ、恐れられていた最強の一撃──『王の雫』だ。

 翼を広げて上空に舞い上がった後に眼下の地上目掛けて『赤龍』が保有せし膨大なエネルギーを解き放つ事で、その場に存在する物全てを蒼炎で包み込む。

 超極小の蒼白いエネルギー球を投下し、エネルギー球の炸裂と共にその場に居る者達の視界が完全に潰される程の強烈な閃光と凄まじいエネルギー波で全域を吹き飛ばす恐ろしき一撃だと言う。

 この攻撃はその場にある全てを滅ぼす性質を持ち、『王の雫』放たれる後には草木一本も生えないとされる。

 では、何故世界政府はこの『王の雫』に注目していたのだろうか?

 それは世界政府が約400年前に手に入れた書物に記載されていたとある考察にあった。

 それに拠れば『王の雫』とは『赤龍』が有する生体エネルギーを極限まで凝縮した物であり、新たな命に分け与えるエネルギーの塊を攻撃に転用した代物なのではないかと言う話だ。

 ムフェト・ジーヴァが揺籠となる繭を作り、落とした『王の雫』が新たな生命が古龍の王を生み出す程の塊と考察されていたのだ。

 ・・・それが事実であると保証する証拠こそが、約400年前に世界政府が欲していた人造悪魔の実─モデル『ムフェト・ジーヴァの模造品』である。

 その古代文明が残した書物には『王の雫』からムフェト・ジーヴァの生殖細胞を培養し、植物細胞と一体化させ、植物の一物質として保存したとあった。

 それが長い年月を掛けて悪魔の実に変異した物こそが、約400年前に世界政府が手に入れんとした人造悪魔の実である。

 尤も、先程書いた様にそれは銀嶺族から追放された男に出し抜かれてしまったが、それはこの際置いておくとしよう。

 その男は世界政府の刺客や海軍等を退け暴虐の限りを尽くした。

 最終的に男は自らに賛同する銀嶺族の者達と共に現状維持派の銀嶺族を相手に戦争を仕掛け、銀嶺族に協力した当時のルブニール王国探検船提督モンブラン・ノーランドに打倒され、男に味方した者達は一族を追放されたと言う。

 その事を踏まえれば、その古代文明が想像を絶する約900年前に存在していた巨大な王国を超越する程の科学技術力を保有した上で大いなる繁栄の限りを尽くしていた事等誰でも直ぐ把握する事が出来る。

 ──その古代文明が跡形も無く滅んでいる事に目を瞑れば。

 その古代文明は約400年前に入手した残された古文書、CPエージェント達が入手した文献や資料から確認出来る事が事実なら『竜大戦』と呼ぼれる大いなる戦争を期に崩壊した。

 怪物系悪魔の実の元となった物が出現し始めたのは大凡その直後であると思われ、何等かの因果関係があるだろうと世界政府は睨んでいる。

 ・・・実際にそれは当っている。

 悪魔の実はああ成れたら、こう成れたらと誰かが望んだ『人の進化』の可能性で其の物であり、多岐に渡る人類の未来こそ、悪魔の実の能力の正体である。

 それ故に不自然は自然の母である“海”に嫌われると言う罰を背負って存在する。

 ──神が如き科学技術を誇った我等を打倒せし奴等の力が欲しい、奴等の力其の物となって果てれば必ずや、神足る者─白き龍に打ち勝てん。

 この一文から恐らく太古の古代文明は何等かの存在が保有していた“神が如き力”を見て、『ああ成りたい』、『こう成りたい』と言った願望を思ったのだろう。

 それはそれで説明が付くが、モデル『ムフェト・ジーヴァの模造品』の再来の要因となるであるう物は放置する事は無理な話だ。

 ──幾ら偶然が重なった結果だとしても『竜大戦』の引き金となった“火種”が何なのか分から無ず、それが再来するかも知れぬのならば、我等世界政府もモデル『ムフェト・ジーヴァの模造品』の様な戦力を増強出来る術を放って置く訳にはいか無い。  

 世界の均衡を保つ為に。

 これこそが世界政府がシャガル・マガラの力を持っているフィリアを狙っている理由である。

 ・・・尤もそれを知っているのは五老星や五老星直属の部下達のみではあるが、それは今関係無い事である。

 閑話休題

 ──場面を現代、フィリア達の闘争に戻そう。

 フィリアが空中を飛んでいる時にCPエージェントの一人が放った嵐脚を食らってしまい、危うく海に落ちそうになる。

 幸い致命傷とは程遠い上に海に落ちる事無くバランスを整える事に成功したが、現状は多勢に無勢だ。

(ナズナさんはおれの故郷にはおれが知らない、言い伝えの続きがあるって言ってたっけ、後大きくなったら自分で自分続きを調べに行けとも言ってた・・・)

 そう思考を冷静にする為に楽しかった事を内心考えながらも多勢に無勢なこの状況に内心舌打ちするも、具体的な対応策は思い浮かば無い。

「やっと追い詰めたぞ化物め」

 フィリアにCPエージェント達が飛び掛かった為にフィリアは死を覚悟する。

 しかし、そんなおり脳裏をチラつくは麦わら帽子を被ったドクロとそれを掲げた船に乗って居た者達。

 宴会をした時に皆で食べたポポ肉を使用した料理。

 今まで体験した事の無い宴会時特有の心地良い騒がしさ。

 また会おうと誓ってくれた者達の笑顔。

(──いやだ!再開して笑い合うのをまだ諦めたく無い!)

 そうフィリアは決意を新たにし、自らの黒き身体を“純白”に変える。

 純白に変化した後に己が姿を龍に変貌させていく。

 その姿は独特な光沢を持った純白色の外殻と身体を覆い隠すほどの巨大な翼が特徴で、翼には大型の飛竜を力尽くで抑え込む事さえ可能とする強靭な握力と可動域を備えた巨大な爪を携えている。

 その龍こそが世界政府が求めし権能を持った者、天廻する白き蝕──『天廻龍』シャガル・マガラ。

 勿論飛行する事も可能で、その飛行能力は非常に高い。

 ・・・だが姿を変化させたとしても、

「姿を変化させた!これが資料にあった、奴の覚醒か!」

「狼狽えるな!奴は一人、此方は四人も居るのだ!・・・三人やられはしたが、まだまだ多勢に無勢だ!」

「奴だって弱っている!一気に決めれば勝てるぞ!」

「化物と言ってもまだまだガキだ!さっさと息の根を止めてやるぞ!」

 多勢に無勢なのには変わり無い。

 しかも、覚醒した姿になったフィリア自身は連戦に次ぐ連戦でもう余裕が無い。

 ・・・・しかし、それでも、生きていく覚悟を決めたフィリアは状況を打開する事を諦めず、前を見据える。

 ──その時、

「弱い者いじめは止せってなぁ!」

 上空から幾つもの刃物─『刃鱗』がCPエージェント達に降り注ぎ、地面にも深く突き刺さった。

 その衝撃で『刃鱗』炸裂し、運悪くそれを往なし切れなかったエージェントの一人と辺り一面に細かな破片となって降り注いだ。

 その『刃鱗』は言わば極めて殺傷力の高い手裏剣その物と言って良い代物であり、それを受けてしまったエージェントはその意識を手放す。

 その場に居る全ての者達は本能的に上空に視線を向ける。

 そこに居たのは全身に金色の鱗がびっしりと生えている一匹の竜であった。

 頭部の鱗は一般的な生物のそれとは逆方向に生え、頭部に特徴的な刃の様な角がある。

 千塵の烈鱗──『千刃竜』セルレギオス。

 約四百年前の詩人が、

《眼下の死屍が 来るべき姿とは思いもよらぬ》

《間もなく金の刃は降り薙いで行く》

《眩き陽を背に 射手は姿を現す》

《一矢報い一命を繋ぎ止め様とて、竜はより速く児戯を楽しむかの様に、より高くから新たな金色の墓標を築く》

 と言う詩を残す程にこの能力は強力だ。

 その竜は大胆不敵に空から降り立ち、シャガル・マガラから人型形態に変身したフィリアの前に降り立つ。

 “彼女”は竜の姿から、美女と呼んでも差し支えない容姿をしながらも美しい金髪を荒々しく掻き上げ、面倒臭い物を見る様にエージェント達を睨む。

 彼女の服装は露出が多く、特にホットパンツなど生脚を大胆に晒している。

「空の王者足るリオレウス─『火輪』ヴァルツ・マーロウに空中で唯一対抗可能な存在──」

「かの『火輪』と並び立つ『天上最大の実力者』であり、幾つもの世界政府加盟国での革命を成功に導かせた恐ろしき海賊──」

「『刃鱗』と呼ばれる刃物の様に鋭い金色の鱗に身を包むその姿から『千刃竜』の異名でも知られる、落ちた賞金稼ぎ──」

「「「──エジェス・セピア!!」」」

 そう殺気溢らせ、敵意をむき出しにしているCPエージェント達を見て当の彼女─『裂空』エジェス・セピアは、

「えっと?何であんた等はそんなに敵意をむき出しにしてるんだってんだよ。私はあんた等世界政府に直接敵対行動を取ってないつーの・・・この前パンクハザードに行った後に賞金額上がった件と言い、何であんた等世界政府はそんなに私を狙うんだってんだよ」

 ・・・セピアはエージェント達が自らに殺気を浴びせて来る理由を把握していない様だが、仕方の無い事であろう。

 だが、セピアが今迄してきた事を考えれば世界政府に所属するCPエージェント達が彼女を不倶戴天の敵と認識ているのも頷ける。

 尤も巷で騒がれている『革命軍の別働隊なのでは無いか?』と言う噂は飽くまでも噂であり、革命軍自体もそれを把握していない。

 ・・・それ故に噂だけが独り歩きして誰も訂正する事が不可能な状態なのだが、当の本人は何処吹く風と言った感じで堂々とエージェント達の前に立ちはだかる。

 その場に世界政府からの増援として送り込まれた他のCPエージェント達がやって来るも、千塵海賊団船員の面々も自分達の船長であるセピアの後ろに控る。

❲姉貴、あの黒い小娘を治療する準備が出来やしたゲネ!ボスは何時でも小娘の治療を始められるって言ってたゲネ!❳

 そう船員の一人が熟練の見聞色使いでも感じ取れ無いであろう程の小さい声でセピアに伝える。

 それを受けたセピアは配下のゲネポス達にハンドサインを送り、それを受けたゲネポス達の手によってフィリアは秘密裏に千塵海賊船内に連行されてしまう。

 連戦に次ぐ連戦で疲弊している上に怪我が耐えない今のフィリアが抵抗出来る訳も無くそのまま連行されてしまい、千塵海賊団所属の船医に治療される。

 フィリアの気配が突如として消えたのを察知し、フィリアが千塵海賊船内に連れて行かれた事を見抜いたエージェント達のリーダー格てあるCP0所属のエージェント─ゲルニカは忌々しいそうに不倶戴天の敵を見据え、

「そこを退け、千塵海賊団船長『裂空』エジェス・セピア及び海のクズ共。我等は貴様等と殺り合っている暇など無い・・・もし従わないのならば、分かっているな?」

 そう忠告とも脅しとも取れる言葉をセピアに向けて言い放す。

 他のエージェントもそれに同意の様で各々が戦闘態勢に入る。

 忠告とも脅しとも取れる言葉を聞き、戦闘態勢を取ったエージェントを見たセピアはうんざりしたかの表情をした後、

「嫌だね!私達はお前達世界政府が大嫌いなんだ、そんなの聞く訳ないだろ?」

 そう宣言すると部分的に能力を開放させ戦闘態勢に入り、千塵海賊団船員達も各々が得物を構える。

「─ならば殺す!絶対的正義の名の下に!」

「─やってみろ!政府の犬っころ共がァ!」

 ───こうしてゲルニカ率いるCPエージェント達とセピア率いる千塵海賊団の抗争は幕を開けた。 ──────────────────────────────────────────────────────   

 ───聖地マリージョアパンゲア城『権力の間』

「──それで千塵海賊団との抗争の結果はどうなったのだ?エージェントレムよ」

 五老星の一人にレムと呼ばれた仮面を付けた道化風の格好をしている男──『幻惑』ジェスター・レムは、

「はい、五老星の皆々様。了解しました」

 と返事し、何処からとも無く人数分の資料を出すとそれを五老星達に配る。

 その手品に慣れているのか無反応な五老星達の反応を受け、不貞腐れた様に頭を下げる。

 そんな彼を放っといて五老星の一人が資料に目を通しながら、

「君の能力の覚醒した能力で隠れて状況を見ていたのだろう?・・・で、最終的にはどうなったのだ?レムよ」

 とレムに問い掛ける。

 その問いに対して他の五老星も同意見な様で、視線だけをレムに向ける。

 何時も通りのやり取りとは言え、直属の上司に睨まれては流石の道化も危機感を覚えたのかハキハキと報告していく。

 CPエージェントが一人、ジェスター・レムはトリトリの実幻獣種モデルホロロホルルの能力者である。

 そして五老星の一人が言った様に能力を覚醒させている。

 その覚醒は指し詰め『朧隠』とも言うべき力であり、それは獲物や外敵の視界から自分の姿を眩ませる能力を有する。

 その能力の仕組みは頭部に蓄えられた銀色に輝く特殊な鱗粉による物(前後不覚効果を持つ鱗粉とは別物)である。

 この鱗粉は周囲の光を屈折させる性質を保有しており、『朧隠』へ至ったモデルホロロホルルの能力者は身を翻す様にしてこの鱗粉を全身に纏う事で一瞬にして背景と同化する事が可能である。 

 レムはそのモデルホロロホルルの覚醒した能力『朧隠』を使用し、対象の死角から静かに接近する事で鋭い一撃を見舞う暗殺を得意としている。 

 尚利便性だけの能力と言う訳では無い様で強い閃光を発生させるとその光を鱗粉が反射し、朧隠の輪郭が空間に一瞬浮き上がってしまい其れによって姿がバレてしまった事もある模様。

 また纏った鱗粉はやがては剥がれ落ちてしまう為、長時間に渡って姿を消し続けている事は不可能となっている。

 閑話休題

 レムは自らが見て来たその光景を五老星達に伝える。

 それを要約すると、

・千塵海賊団とCPエージェント達による抗争の結果はCPエージェント達の事実上の敗北。

・CP0エージェントゲルニカと千塵海賊団船長『裂空』エジェス・セピアの決闘は勝負が付く事無く、セピア達千塵海賊団の離脱を許してしまった。

・ゲルニカ以外のエージェントは原因不明の麻痺症状によって戦闘不能になってしまった。

・幸いな事に死傷者は居らず、怪我人も軽症のみ・・・恐らくそれは千塵海賊団も同様の事と思われる。

・フィリアは今後『裂空』エジェス・セピア率いる千塵海賊団がバックに付く可能性があり、最大限の注意と警戒が必要である事。

 となる。

 レムはそこまで報告した後、

「エジェス・セピアはゲルニカ殿の互角以上に殺り合っておいでした・・・更に申し上げるのならば、かの『裂空』は私めと同様な覚醒に至っている可能性があるっと言った所でしょうか」

 と発言してから報告を締めくくる。

 それを受けた五老星達は重苦しい面持ちで息を吐き、自体の深刻さを再確認する。

「例の『赤衣の男』と言い、エジェス・セピアと言い、我等世界政府にとっての脅威が増えるな・・・」

 五老星の一人がため息を吐き出しながらそうひとりごちる。

 それを聞いたレムは真剣な雰囲気を出しながら、

「・・・例の自称預言者でしたか」

 と質問し、五老星の一人はそれを頷く事で肯定する。

 そう、レムがこの『権力の間』に訪れる前に自らを『赤衣の男』と呼称した自称預言者が現れた。

 そしていきなり、

『かの王国の技術を研究するのを止め、自然の在るが儘を受け入れよ。でなければ、かの王国の再来となるであろう・・・欲深き愚か者共で無いのならば、本当に思慮深い判断が出来ると期待している』

 そう宣言し急に姿を消した。

 勿論彼等が懸念している事はそれだけでは無い。

「・・・恐ろしい事にモデル『ムフェト・ジーヴァの模造品』の能力者がシャーン中将の目を盗んで消えたであろう時刻と、かの『赤衣の男』がこの『権力の間』に現れた時刻は一致しているのだ」

「更にはマクス中将が補足していたあの男の部下共も同時刻に行方知れずとなっている」

「しかも、古文書には『赤衣の男』らしき記述も確認された」

 五老星の内三人はそう愚痴とも取れる言葉を口に出し、ため息を付く。

 レムは其れ等を考えながら悩んでいる五老星の面々を見つめ、ただ黙ってそこに立っているだけだ。

 レムに気遣われている事を自覚している五老星の一人は、

「・・・これ等は偶然の産物等では無く、必然なのだろうな」

 と言葉を述べこの話を締めくくった。

 それを確認したレムは、

「其れ等の件は後程調べるとして、早急に確認して頂きたい案件が二件ございます」

 と述べて幾つかの資料を五老星に配布する。 

 五老星達は配られた資料に目を通す。

「まず一件目。フィリア─リュウリュウの実幻獣種モデルシャガル・マガラの処遇ははどう致しますか?」

 そこに書いてあったのはセピア率いる千塵海賊団が今後通るであろう航路。

 世界政府の目的が『狂竜ウィルス』であり、フィリアがリュウリュウの実幻獣種モデルシャガル・マガラの能力者である以上放っとく訳にはいかない。

 しかし、

「『狂竜ウィルス』及びモデルシャガル・マガラの血統因子は諦めるとしよう・・・今進めている計画も凍結し、封印状態に移行する」

「・・・『赤衣の男』の発言が本当であるなら、我等が実行しようとした計画は嘗ての『竜大戦』の切っ掛けと大差無いと思われる以上、下手に手を出すべきでは無い」

「左様。我等は世界の運行を守り、司る者だ・・・それ故に世界の根幹を破壊するかも知れぬ事を行う訳にはいかぬ」 

「それに彼の者は試練に打ち勝った・・・それ故にある程度は様子を見るべきだ」

「しかし、一応監視は続けておくべきだろう・・・例え今何も無くとも、もし何かあってからでは遅いのだから」

 五老星達はフィリア及びシャガル・マガラが出す『狂竜ウィルス』を諦める事を宣言する。

 それを受けてレムは部下にそれを素早くに各方面に伝える様に指示を出し、それを受けた部下は瞬時に司令を遂行する。  

「では、二件目へと移行させて頂きます。本来なら一ヶ月前にドレスローザへとCP0エージェントを送り込む手筈だったのですが・・・」

 そこまで言ってからレムは言い淀み、それを察した五老星の一人が、

「・・・金獅子のシキと『災禍』アマガの決闘か」

 呟き天を仰ぐ。

 そう、本来ならば一ヶ月前に『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴの要望通り、七武海脱退は誤報であるとCP0エージェントが伝える手筈だったのだが、

「あの二人の決闘に巻き込まれたであろうCP0エージェント三名が行方不明、ドレスローザ自体も復興に一ヶ月の月日を費やさなければならなくなった」

 今現在ドレスローザは二つの天災が同時に襲い掛かった事が原因で至る所が破損してしまっている状態だった。

 “何故か”大きな瓦礫や岩等は突然吹いた突風によって幾度も無く破壊され人的被害は出なかったものの、一ヶ月の時を有する程に甚大な被害を被っていた。

 ドフラミンゴは復興が終わった一ヶ月後に表向き七武海を脱退し、今度こそ予定通りにCP0エージェント達に誤報だと伝えさせたいと世界政府に掛け合って来た。

 世界政府としてもその申し出は旨味があったので答える事にした五老星達は、

「・・・一ヶ月後に動かせられるCP0エージェントは何人居る?」

 こう問い掛ける。

 レムはそれに対し、

「一ヶ月後でしたらマハ、ヨセフ、ジスモンダと現在治療中のゲルニカの四名動かせます」

 と答えた。

「ならばその四名を一ヶ月後にドレスローザに向かわせろ」

 この会話の後ドレスローザ現国王ドンキホーテ・ドフラミンゴに一ヶ月後にドレスローザにCP0達が向かうと連絡が入った。

──────────────────────────────────────────────────────

 ───新世界の何処かの海上にある千塵海賊船『食堂』

「小さいから心配してたが・・・全く、本当に怪物系は治癒能力が高いからなぁー」

 そう愚痴って同時に感心しながらフィリアの身体を診察しているのは千塵海賊団所属の船医──リュウリュウの実幻獣種モデルドスゲネポスを食べた男だ。

 それを聞いたフィリアは麦わらの一味船医『綿あめ大好き』トニー・トニー・チョッパーからもそう言った事を言われたと懐かしく思っている。

 そこへ部下から報告を受けた『裂空』エジェス・セピアが船医室にやって来た。

「怪我の具合は・・・スッカリ元気みたいだなチミっ子」

 セピアはそう呟くと優しく笑いながら乱暴にフィリアの頭を撫でる。

 彼女の身体をよく見ると所々に血の滲んだ包帯が巻いてあるが、全て血が乾いている所を見ると怪物系の再生能力の高さが伺える。

「ドスゲネ、コイツの具合はどうだ?」

 頭を撫でるのを切り上げ、そう船医に聞くセピア。

 それに対し、

「姉貴と同じくらいのスピードですかね」

 と答えるドスゲネポス。

 そんな二人を他所に凄腕のCP0エージェントゲルニカと互角に渡り合ったセピアを見ていたフィリアはナズナに言われた事を思い出す。

『お主は能力を覚醒させた影響か見聞色の覇気と武装色の覇気を無意識に制御しておる。しかし、それ故に意図的にコントロール不可能となってしまっておるのじゃよ』

 ナズナが言った様にフィリアはリュウリュウの実幻獣種モデルゴア・マガラの能力者力となった副作用で盲目になってしまった。

 その為ゴア・マガラ同様に『狂竜ウイルス』を使って周囲を知覚し、辺りを把握していた。

 ・・・実はこれがフィリアの見聞色の覇気を引き出す事に繋がっていたのだ。

 そして『渾沌に呻く』、言わば能力の暴走状態の時に武装色の覇気を悪魔の実の意思により、強制的に引き出されていた。

 その暴走状態を経て真の姿にして本来の姿であるシャガル・マガラへ覚醒し、彼女は二つの覇気(武装色の覇気と見聞色の覇気)に目覚めた。

 ただ強制的に引き出された代償で覇気を意識下では完璧に制御出来ず、周囲にまき散らしている状態になっていた。

(確かナズナさんはおれと同じ怪物系能力者に覇気を教えて貰えば良いって言ってたな!)

「お姉ちゃん!」

「あん?」

 いきなりお姉ちゃんと呼ばれたセピアは悪い気はしなかったものの、覇気を教えて欲しいと頼まれ大絶叫を上げる。

 ・・・これが二人の長い関係の始まりだとは流石に気付かなかったセピアなのであった。  

《御魂がその目を覚ますなら、彼方に命が生まれ来て》

《心がその目を覚ますなら、此方に想いが生まれ来る》

《全てを包むは御魂なれ》

《数多の想いは力に変わり、命が御魂に帰る時、新たな想いが生まれけん》

《消えぬ想いは御魂に帰り新たな命の息吹待つ》

《共に回れや、命と心》

《常世に廻れや、命と心》

《そして一つの唄となれ》

《共に歩みて戻り来よ》

《共に歌いて戻り来よ》

《共に生きるは魂と想い》

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