『異端反駁』と『道を知れ』の邂逅

 『異端反駁』と『道を知れ』の邂逅


 ※都合により視点が時々変わります。(イレネオ視点だとアンブロジウスのセリフがちゃんとした言葉になります)お許し下さい。

 こんばんは!ヒルデガルトこと、量産型アリスの917号です!今、私はマエストロ先生と共に、ある目的の為に真夜中のシスターフッド領を訪れています。事の始まりは1ヶ月位前に遡ります。

 昼の事です。私達はヒエロニムスの再顕現を企てて古聖堂の様子を観察していました。そして、その帰り道にすれ違ったとあるシスターフッドの生徒さんからこんな話を聞きました。「真夜中に古聖堂で青白いアリスの姿を見た」、だそうです!これを聞いて私達は顔を合わせ、すぐに拠点へ直帰!準備を進めました!

 そうしてスランピアの顛末を観て、ゴルコンダさん達との会合を終え、私達は時を見計らって古聖堂に侵入しました!

      ーーーーー

 こんばんは。『複製』となった59X号です。私は何時もと変わらずに主と古聖堂の地下で夜を過ごしていました。すると、突然主は何かに反応したようで、

 『ああ……遂に来たようだな、創造主よ』

 『えっ、私の新たなマスターが!?』

 『ああ、そうだ』

 『……そう、ですか……』

 『ふっ……安心しろ。ちゃんと引き継ぎはする。別れる時までは共にいよう』

 『!……ありがとうございます!』

 私の新たなマスターとなる方、一体どんな人なんでしょうか?

 少し経った頃、

 『おお……参られたか、創造主よ!どうやら若き芸術家と一緒のようだ。ふふふ、どちらも歓迎致そう!』

 そうして来た私の新たなマスターは……

 『あ、頭が2つある木の人形……!?』

 『これ!創造主は自らの外見を「好ましくない」と思われておるお方なのだ。決してそのような言葉を創造主に向けて投げかけるでない!』

 『あ……失礼しました……』

 さて、これからどうなるのでしょうか?

      ーーーーー

 ということで、やって来ました、地下空間!さて、では……と、あれ?

 「マエストロ先生、あそこに居るのってもしかして……」

 「……まさか、こうもあっさり見つかるとは味気な……アンブロジウス?」

 すぐにアリスの『複製』を発見!したのは良いですが、何故アンブロジウスが?……もしかしたら、

 「彼女の保護者なんですかね?」

 「……『聖徒の交わり』は『複製』を率いる存在。あの時はヒエロニムスがその役を買ったが、アンブロジウスも幾らかは率いる事は出来る。アイツにとっては、彼女もまたその対象になったのか?」

 そうこう話していると、

 『ウォォォォーー』

 『……!』

 彼らがコチラに近づいてきました。

 「む?そちらから迎えてくれるか」

 「こんばんは!良い夜ですね!」

 『ウォォォー』

 『!』ペコリ

 さて、お話するのが楽しみです!

     ーーーーー

 うーん……どうやってコミュニケーションを取りましょうか?ユスティナ聖徒の方によりますと、『複製』とそうじゃない者とのコミュニケーションは取りづらいそうなので……あれ?あのアリスが持ってるのって……スケッチブックと鉛筆……?ハッ!そうです!

 『すいません、ソレ下さい!』

 と指差してみました。すると、

 「ん?……ああ、コレですか?良いですよ!はい、どうぞ!」

 と、そのまま渡してくれました。えっと、では……

 『《初めまして。量産型アリスの59X号です。生前の記憶が所々欠けていますが、よろしくお願いします》』

 「ふむ、そうなのか。まあ、構わんだろう。では、お前とアンブロジウスはどういう関係だ?」

 『《主従関係です。私が目覚めてから初めてお会いしたのが主でした。最初は質問攻めで怒りましたが、段々、信用するようになりました》』

 「やっぱりそうでしたか。次はそうですね……」

 『《お二人の自己紹介をお願いします》』

 「む?ああ、済まない。最初に名乗らなかったな。では、改めて。私のことはマエストロ、と呼んでほしい。ゲマトリアという組織に属している芸術家だ。お前の主を含める『聖徒の交わり』は私の作品だ。よろしく頼もう」

 「次は私です!私は量産型アリスの917号です!マエストロ先生と共に芸術家として活動しています。ペンネームはヒルデガルト、です!よろしくお願いしますね!」

 『《はい、よろしくお願いします》』

 私の新しいマスターの名前はマエストロさん、ですか。ゲマトリア……どういう組織なんでしょうか?

 『《ゲマトリアはどういう組織なのですか?》』

 「ゲマトリアは探求組織だ。各々が違う考え方を持ち、各々の方法で『崇高』を目指す。私は『複製』を用いて『崇高』にたどり着こうと研究している」

 『崇高』……もしかしたら……!

 『《私の「根源の感情」は「疑念」だと考えています。そして、そこに「教義」が少し混ざって私が生まれました》』

 「『教義』……『太古の教義』か。だから、お前の頭には『ソレ』が浮かんでいるんだな?」

 『《はい、そうです》』

 「『疑念』、ということは……疑問があるんですね?一体どんな疑問なんですか?」

 『……《神はいるのでしょうか?、という疑問です》』

 さて、どういう反応が返ってくるのでしょうか?

 「ふむ、面白い疑問ですね、マエストロ先生!」

 「神の存在を疑問視する、か……『崇高』との結びつけは……まあ、良いだろう」

 ……おや?

 『《迫害とかしませんか?》』

 「我々はユスティナ聖徒ではない。神の存在を疑問視していた所で、だろう?どこぞのAIも神の存在証明の真っ最中だ。批判はせんよ」

 ……ああ、成る程。主、彼の……マスターの良い部分が分かってきました。

 『《ありがとうございます!》』

     ーーーーー

 ……良い感じに情報を集められてますね。ですが……590番代で思い浮かべるのはシスターフッドの個体ですね……あれ?まさか……行方不明の595号?いやいや、そんな訳ありませんね。ですけど、急に597号があんなに狂信者になったことを考えると……いえ、そんなことはさておいて、ですね!

 「マエストロ先生!彼女の名前の案を考えたんですけど、よろしいでしょうか?」

 「……一体何だ?」

 実はあれから教会博士について少し勉強しました!そして、私が彼女にあげる名前として考えたのは、私のペンネーム、『ヒルデガルト』の次。『グレゴリオ』は被っているので……

 「ズバリ、『イレネオ』です!」

 「……本来ならばエイレナイオスだが、そちらの方が呼びやすい、か。良いだろう。そなたをイレネオ、と名付けよう。良いだろうか?」

 さてさて、反応は……おお!顔が明るくなりました!首を縦に振ってくれています!気に入ってくれたようですね!

     ーーーーー

 イレネオ。それが私の新しい名前……何故でしょうか、凄く惹かれます。うん、イレネオ!気に入りました!その名前でいきましょう。……何だか握手したくなってきました。近づいて腕を上げてみましょうか。

 「うん……?ああ、握手ですね!」

 そうして、握手を試みてみた所……あれ、何故でしょう?体が吸い込まれ……!?

 「わわわっ!?イレネオ、ストップ……!?」

 ……917号……いえ、ヒルデガルトのボディの中に入れた!?そして、この視点は……間違いなくヒルデガルトの視点です!?あわわ……

 「……おい、ヒルデガルト、イレネオ。どちらでも良い。返事をしろ」

 返事をしろと言われても……

 「えっと……?……!?」

 あれ?喋れてる?もしかして、今のこの体の主導権は私……?

 「マスター……」

 「呼び方が違う……恐らくイレネオか?ヘイローも青白く変化しているし、そうなのだろう?」

 「はい、そうです」

 「……また謎が増えたか。まあ、これから調べていこう。今のうちに喋っておきたいことはあるか?」

 「では……私は同じ存在であるはずの量産型アリスによって破壊されました。番号は同じ590番代なはずなのですが、どうしても1の位が分かりません。正直、怨みはありますが……私は彼女を赦すことにしました。だって、負の連鎖は起こしたくないですから」

 「……成る程。所で、さっき、マスター、と言ったのは何故だ?」

 「主と話して、今後は貴方の下で行動を共にすることを決断しました」

 『お願いします、創造主』

 「私は構わん。1人でも2人でも増えた所でやることは変わらん。『崇高』を目指す。ただそれだけだ」

 「……受け入れて下さるのですね?」

 「そう言っている。まあ、今後よろしく頼もう、イレネオ」

 「あ、ありがとうございます!」

 『ああ、ありがとう、創造主』

 「最後に1つ質問をしよう。『教義』が反応した理由は分かるか?」

 『それについてですか。実はここ最近、信仰の形が変化しているのです』

 「……主曰く、信仰の形が変化したと」

 「何?シスターフッドの面々は変わらず祈りを捧げているようだが?」

 『イレネオと同じ姿の小娘が祈りを捧げ始めたのです。それによって「教義」は変化して、彼女に反応を示したのです』

 「……私と同じ姿、つまり量産型アリスも祈りを捧げ始めたことで、私に『教義』が反応した、だそうです」

 「……そうか。分かった。まあ、そういうことだと考えておこう」

 ……マスターが一瞬怪訝そうな顔(?)をしましたが、変わらずに返答してくれました。と……ん?

 『さて、そなたとはここでお別れとしよう。また会えることを祈るが良い。元気に過ごせ』

 ……っ!主……主!!気付けば私はヒルデガルトのボディから飛び出て主と抱擁をしていました。

      ーーーーー

 うーん……?ハッ!?私は何を……そうです!確かイレネオが私のボディを乗っ取って……

 「こら、イレネオ!勝手に……?」

 「おや、お帰り、ヒルデガルト。問題は無いみたいだな?」

 「ああ、ただいまです、マエストロ先生!所で、何故イレネオはアンブロジウスと抱擁を?」

 「……別れだよ。彼女は我々と共に行動するのだ」

 へー、そうなんですか……?……!?

 「はい!?イレネオが私達と共に行動を!?なんか私の知らない間に話が進んでいるのですが!?」

 「別に構わんだろう?それにこのままではイレネオはいつか撃たれるぞ?」

 「……ああ、もう分かりました!認めますよ!」

 うう……9629号の気持ちが分かったような気がします……

 そうして、私達はアンブロジウスの下を離れて、古聖堂を後にしました。そうそう、あの後、アリスの『複製』の噂は聞かなくなりました。どうやら気のせいだとなったみたいですね!まあ、一緒に過ごしているのですが。

 「こーら、イレネオ!あんまりマエストロ先生にくっつかないで下さい!」

 『《良いじゃないですか、減るものじゃありませんし》』

 「な、なにをー!」

 「……より一層騒がしくなってしまった……頼むから静かにしてくれ……」


 ーオマケー

 狂信者になった『彼女』の存在は自然と耳にしていた。確か、ナンバーは597、だったと思う。彼女が祈りを捧げ始めたことで、信仰の形は変化し、「教義」も少しだが、変化した。そう仮定しよう。となると……シスターフッドは何か隠し事をしているのではないか、と推測した。今はそんな事を調べるのに時間を割いてはいられないが、イレネオは今後いつか、真実を知っていくことになるのだろう。いつになるのかは知らない。だが、彼女は必ず破壊した者を赦すだろう。

 《マエストロが怪訝そうな顔をした理由について》

Report Page