異形の復讐2

異形の復讐2



勢いよく冷たい水を掛けられたことで意識を取り戻す。ぼんやりとした頭では一瞬状況が理解できず、自分が置かれている状況を忘れた。本当はずっと忘れてしまえればよかったのだが、それを許してくれるほど目の前の異形は優しくはないだろう。


「………ぅ………?」

「…我牙丸、大丈夫、か…?」


意識のはっきりしない俺の隣で見知った顔が慎重に囁くように声をかけてきた。異形に聞き咎められないように細心の注意を払っている。顔を動かさずに視線をやると、國神が心配そうな顔をしているのがわかった。正座させられて、手を後ろ手に縛られている。ああこれは…昔の時代劇で見たことがある、罪人の姿とよく似ている。自分自身も全く同じ状況であることに気付くまでに、さほど時間はかからなかった。


「…くに、がみ…ここは…?」

「…わからん。捕まったやつが連れてこられる、檻の中なのは間違いない」

「…そう、か」


國神も詳しいことは知らなさそうだ。何か手掛かりがないかと周りに視線をやると、國神とは反対側の…俺の隣にいた男が苦々しげに呟いた。


「…俺たちが心配するのはここがどこかじゃない、今から何をされるかだろ。ロクな目には遭わないだろうな、実際」


特徴的な紫の髪をした玲王はそう口にして、チラリとこちらを見た。確認したいことがあると前置きした上で、さらに声のトーンを落として尋ねてくる。


「お前、何かやらかしたか…?」

「やらかし…?あー…なんかアイツらの大事にしてた小さい生き物みたいなもの、蹴っ飛ばしたな…」

「ぶはっ」


予想外の返答だったのか思わず吹き出してしまったようだ。慌てて異形の姿を確認したが、何かを準備しているようで運良く聞かれなかったらしい。


「玲王お前…我牙丸にそれ聞いといて笑うか…?」

「いやその…すまん…予想外な感じで思わず」


3人で安堵の息を吐きながら、再び玲王が話し始める。


「これを聞いたのは…俺たち2人である仮説を立ててたからだ。お前の返答でそれが確信に変わった。状況は多分…だいぶやばい」

「仮説って何だ?」

「ここに捕まってる俺たちの共通点だ。3人とも…あそこにいる異形達に物理的に刃向かった、ってことさ」


なるほど、それなら今の自分たちの扱いにも納得がいく。まるで罪人のようだ、ではない。本当に罪人なのだ。少なくとも異形にとっての俺たちは。


「俺は危害を加えられた仲間を庇って異形を殴った。玲王はなんか…脳天をぶっ潰した」

「うわやば」

「いやお前も大概だからな…つーかすぐ再生されて無意味だったし。あいつらは不死身だ、抵抗するだけ無駄」


頭を潰しても再生する。明らかに自然界には存在し得ない化け物だ。俺の勘は正しかった、やはりアイツらは絶対的におかしい。


状況が絶望的であることを確認したところで、俺たちに出来ることはあるかと確認してみる。玲王は唇を噛んで、静かに首を横に振った。少なくとも命を奪われる可能性を出来る限り下げるのであれば、無抵抗を貫くことだと。それは自然界では愚策も愚策だと反論しかけて、相手との力量差を思い出して何も言わずに口を閉じる。


ガラガラと、部屋の左右の壁から大きな音がする。ハッとなって目を向けると、壁が崩れて消えていくのが見えた。壁が、消えた?いやそう表現するしかない。崩れたはずなのに破片は一つも残らずに空気に溶けるように消えてしまった。そしてそこに現れたのは。


「…ッ!國神!我牙丸!」


壁があった場所の先には大きな檻が鎮座して、その中には今までに捕まってしまったのであろう人間がこちらに目を向けている。真っ先に声をかけてきたのは潔だ。まだ身体に怪我はなく服も無事のようだ。近くには…成早と蜂楽の姿もある。あの白い髪は凪だろうか、玲王に目を向けて同じように呼びかけている。



「鮟吶l莠コ髢薙←繧」



けして大きくはない、しかし聞くものの心に恐怖を与えるような得体の知れない声を発した目の前の異形の圧に全員が口を閉ざした。こんなにも多くの人間がこの場にいるのに、誰も身動きすら取れない。たった一匹の異形にすらこの状態なのだから、その後ろから…ああ、もう何匹いるのかわからないが…数えるのが億劫になるくらいぞろぞろと入ってきたのだから、息をすることすら困難だと錯覚してしまう。


「待ってくれ、話をさせてくれ。お前達の望みは」




ガンッと鈍い音がして玲王の頭が地面に沈む。何も見えなかった。手に届く範囲まで異形が移動したのも、話しかけた玲王の頭を掴んだことも、叩きつける動作も、何一つ。痛みに呻く声が微かに聞こえるので意識はあるようだが、その気になればこの一瞬で間違いなく殺されていた。相手との力量差を知った今、抵抗など。


「玲王!てめえ…くそがッ!」


國神が動いた。動いてしまった。立ち上がろうとする一瞬すら異形にはあまりにも緩慢に見えるのだろう。そのまま腹に見えない一撃を入れられたような音がして、立ち上がることは叶わず倒れ伏す。吐瀉物を出す音だけがこの場に響いた。


そして異形は静かに俺の顔を覗き見た。額がくっついてしまいそうな距離。蛇に睨まれた蛙のように、ピクリとも動けない。今から何をされるのか、身構えることすら俺にはできない。異形は静かに俺の顎に手を回して。


「……………ッッ!!??」


反射だった。抵抗する意思はなかった。それでも身体が…突然唇を合わせて舌を入れてくる行為があまりにも予想外で、咄嗟にそれを全力で噛んでしまった。口の中に何とも言えない味が広がって気持ちが悪い。奴の唾液なのか血液なのかわからないが、いや、そんなことは今はどうだっていい。


舌を噛まれた異形は静かに一歩俺から離れた。青白く長い舌の一部が少しだけ変色している。ざまあみろと吐き捨ててやりたかった。恐怖に支配されたこの身体では、それすら叶わなかったが。


異形がキラリと光る細長いものを手に取ったのが見えて、次の瞬間にはそれが俺の首筋に突き立てられた感覚があり、小さく悲鳴をあげてしまった。何か冷たいものが俺の体内に入ってくる。何だ、これは、なんだ?中身を出し終わったら引き抜いて地面に投げ捨てる。後ろにいた異形のうちの2匹も同じく近付いて、國神と玲王の首に刺して液体を注入していく。殺すにはあまりにも回りくどいやり方だ。ならばつまり奴らの目的はおそらく、成早や蜂楽のときと、おなじ、よう、な?


「………ッ?ぁ…………?」


身体が熱い。熱い、あつい、あついあついあついあつい!!!からだも、あたまも、あつくてたまらない!!!


先ほどと同じように異形と口付けをさせられた。あつい。嫌悪感などあるわけがない。自分の口の中を蹂躙するその逞しい舌がたまらなく愛おしくて、おずおずと自分の矮小な舌で甘えるように触れると、そのまま絡めとるように巻きつかれて力強く吸われた。


「━━━ッッ!!♡♡」


ぢゅるぢゅると大きな音を立てて唾液が吸われていく。自分が食べられてしまいそうな力強さに視界がチカチカする。ぷはっ、と解放された時にはもう腰が砕けて、立ち上がることなんかできるわけもなかった。名残惜しくて浅ましく舌を出す俺は、さぞ情けない姿なのだろう。あつい。からだがあつくてたまらない。なんだか、よくわからない。俺はなにを、している?


ご主人様との夢のようなキスに夢中で気付かなかったが、両隣にいた國神と玲王はもう他のご主人様からの愛を全身で受け止めているようだった。國神は自分の乳首を優しく転がされながら尻の穴を激しく弄られて歓喜の涙を流している。もっと大きなものが欲しいと浅ましく腰を揺らしてしまい、大きな尻を叩かれて叱られている。玲王はご主人様に許可なく口を開いたことを許してもらうためにその立派なペニスを口いっぱいに頬張って舐めているようだ。本来の口の使い方としてそれが正しい姿なのだと理解できたことを褒めるように大きな手のひらが紫色の髪を撫でると、うっとりとした表情になって瞳が潤んだ。


ああ、うらやましい。おれもはやくご主人様にあいしてもらいたい。あいして。あい。愛、愛?愛ってなんだ。何の話をしている?だって身体があついのだ。あつくてたまらなくて、とてもほしくてたまらない。


望みに応えるかのように、ご主人様が俺の着ていた粗末な服を破いてくれた。我慢できないくらいに張り詰めた自分のペニスが解放されて心地良い。ああ、でもご主人様のものに比べれば小指の先くらいしかないだろうそれが恥ずかしい。肉体美を愛していながら、自分の身体すらご主人様のそれに比べれば…いや、比べるのも烏滸がましい。自分という存在がちっぽけで消えてしまいたい。


そんな俺をご主人様は抱き寄せてくれた。俺の尻の穴をまるで自分の所有物かのように無遠慮に掻き回して、大きく広げてくれた。ちゃんと気持ちよくなるところも指で擦ってくれたから、痛みはなかった。驚くほどに。使ったことのない穴なのに、ずっとご主人様を待っていたかのような。いや、ようなじゃないな。待っていたんだろう、ご主人様に入れてもらって、幸せになるために、俺は今まで、いきて。




服の切れ端から、ポケットだった部分から、何かが転がって落ちた。理屈じゃなく本能で、俺はそれに目を向けた。ちっぽけな四角の形をしたものと、上に貼られた小さなメモ。




『ギョーザのおかえし』




俺の瞳が檻の向こうの皆の姿を捉えた。異形によって壁際に追いやられ声も出せずに蹲っている仲間達を。散々嬲られたのだろう、顔もあざだらけで痛々しいその顔が、そんな自分のことよりも今起きている陵辱に心を痛めて泣き腫らしている成早が、俺を見ていた。



「………ぁ、ぁぁぁぁぁあああッッ!!はなせ、やめろ!!触んな、化け物がッ!!」



俺の怒号が響き渡る。それでも、どんなに力を入れても逃げられない。そもそもさっきの薬が強すぎて身体に力が入らない。どうしようもないくらい熱を持って、今か今かと快楽を待ち望んでいる肉体が恨めしい。せめて心だけは無くしたくない。仲間が見ているのに。自分を失わずに済んだのに。この記憶だけは、約束だけは、どうか。




ばちゅん。




「………………っ、あ、ぇ…?」


間抜けな音を立てて、怒張が俺の穴を貫いた。

あの太いものが、一気に、全部、入って。

それで、おわり。



「ッッッアアああああぁぁぁ!!♡あひっ………ぁあ!!!♡ゃ、あ、ぁ、ァァ!!!???♡♡♡」



きもちいい、きもちいい、きもちいい。

全部満たされて、きもちよくて、もうこれだけしかいらない。


両足を軽々と握られて、おもちゃのように揺さぶられて、抜き差しを繰り返す。泡立った我慢汁すら溺れるような量で、俺の穴を蹂躙する。ひと突きごとに壊れた噴水みたいに俺のペニスから精液が飛び出して、潮を吹いて、それでもなお止まらない。


やがて動きがゆっくりになって、大量の液体が俺のナカに流れ込んでくるのがわかった。たった一回で、妊婦のように膨れた腹。取り返しのつかないところまで堕ちた瞬間を本能で感じて、それでももう指の一本も動かせない。


引き抜かれた怒張を顔面に当てられる。意図を聞くまでもなく、当然のように口を開いてそれを迎え入れ、しゃぶる。舌で舐め取り、口で吸い、綺麗にしたら、引き抜かれて頭を撫でられた。引き攣ったように口角を上げれば、満足したように一歩下がって俺を見る。


何も見たくなくて、瞳を閉じようとした。全部忘れて無かったことにしたかった。それなのに、俺の目に映ってしまった。最初に打たれた薬が、そいつの手に、3本も。



いやだ。



いやだ。



いやだいやだいやだ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌はなせやめろそれを打つな入れるないやだ狂いたくない無くしたくない終わりたくない死にたくない




3本同時に打たれた薬品が無情にも体内に流れ込む感覚に絶望しながら、俺の記憶はそこで途切れた。


Report Page