異形の復讐

異形の復讐





ただのレクリエーションのはずだったイベントが罠であると気付いた時、全ては手遅れだった。


先ほどまで一緒に逃げて、途中で二手に別れた途端に捕まってしまった成早の名前がスマホで通知された時は頭を抱えた。体格で既に不利だったし何だかんだで運もない。終わったら悔しさをぶつけるであろうその姿を想像して少しため息をついて、俺はもう少し頑張ろうと潜伏の姿勢をとった。何か賞品でもあるのなら、受け取って成早にも分けてやろう。それで少しは機嫌を直してくれるといいんだが。


少し経って、そういえばなんとなく聞き流していたが終了時刻について何も言われていないことに気付いた。なぜ疑問に思わなかったのか不思議でならないが、もしずっと1人だけ隠れていて気付いたら終わっていたなんてことになったらちょっと寂しい。俺はやったことはないが、いわゆるかくれんぼで見つけてもらえず置いて行かれるような、そんな切なさ。さてどうしようかと悩んでいると、近くのモニターが突然起動し、何か映像を流しはじめた。


それは全く見たこともない一室で、何人かの人間が倒れている様が見て取れる。映画か何かかと首を傾げたが、俺の優れた視力がそのうち何人かの見知った顔を認めた瞬間、思わず息を呑んだ。


成早と蜂楽がいる。


反射でスマホの通知履歴を確認した。間違いない、あいつらは既に捕まった連絡が入った2人だ。なぜ倒れている?しかもよく見たら服もボロボロじゃないか。何をされた、何があった?

疑問に答えるかのように、別の誰かが部屋に入った。それは先ほどから俺たちを追い回している、ハンターと呼ばれる役割を持ったものだ。その姿を認めた瞬間、成早は聞いたことのないような悲鳴をあげ、逆に蜂楽は嬉しそうに口角を上げる。そこからはもう、あまりにも凄惨な姿が、延々と流され続けて。抱き上げられ、押し倒され、排泄のためにある穴に無理矢理生殖器のようなものを突き立てられて揺さぶられる。ああこの光景は山で見たことがある。弱い動物が強い動物に嬲られる様。泣き叫んでも止まらない。捕まれば皆こうなるのだと暗に…いやこれ以上ないくらいにわかりやすく警告してきた。


絶対に捕まってはいけない。


俺の野生の勘が、捕まったら終わりだと警鐘を鳴らしている。ハンターは、あれは、間違いなくまともな生き物ではない。何故そのことに気付かなかった?いつもであればそんな危険な生き物であれば見た瞬間に察せるはずなのに。俺の勘がブルーロックの生活の中で鈍った?いや、まさか生命体としての格が違いすぎて何も分からなかったのだろうか。本当に、間違いなく、やばい。


ひた、ひた、ひた。


バッと床に耳を当てる。ハンターとも、仲間たちとも違う、はじめて聞く足音。小さく、弱々しく、当てもなく彷徨っているようなその足取りに一瞬逃げるか否か判断に迷ってしまった。これなら何かあっても倒せると、わからないものは確認して少しでも情報がほしいと、俺はその場に留まるという、最悪のミスを犯した。


扉から現れたのは、どの生き物にも当てはまらない、青い色をしたナニカだった。手なのか足なのかもわからないものを懸命に動かして前進し、キョロキョロと周りを見渡している。目があるのかもわからないが、その顔がこちらに向いた時、明らかにその反応が変わった。甲高い音を立てて近づいてくる。俺の身体に飛びかかろうとしたそれを、全身の力を込めて右足で蹴り抜いた。派手な音を立てて壁に激突したそれは、しかしまだ生きているようで、身体を震わせながらも小さく丸まっている。咄嗟のこととはいえ大きな音を出してしまった失態に、早くこの場を離れなければと焦った瞬間に、周囲全てのドアからあのハンターが乱入してきた。


絶対に足音はしなかった。気配もなかった。自分の全ての警戒網を無意味だと嘲笑うように現れたその姿に、ああ終わったと本能が告げる。

何をされるのかと身構える俺をよそに、ハンター達の視線は先ほど俺が蹴り抜いた気味の悪い生物に向いている。一目散にそれに駆け寄り、容態を確認し、やがて無事であったのだろう安堵したような動きを見せた。そして振り返って俺を見たその目が憎悪に塗れていることは、いくら相手の気持ちの機微がわからない俺にもはっきりと理解できた。できて、しまった。


「お前達は何なんだ」


口をついて出た言葉が悲鳴や命乞いではなかっただけ上出来だろう。どうせ成早達と同じ運命を辿ることになるなら、せめて少しでも何かを知りたい。冥土の土産という言葉がコイツらにあるのかは知らないが、少しでも口を滑らせてくれないだろうかと。そう期待した言葉に対する返答は。


「縺雁燕縺ッ縺溘□縺ァ縺ッ谿コ縺輔↑縺」


「蝣ア縺?r蜿励¢繧堺ク狗ュ臥函迚ゥ縺」


「意味わかんねーよ化け物が」


どこから現れたのかもわからない大量の触手に絡め取られ、俺は意識を手放した。


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