異人たちの夏 目
朽木ルキア奪還の為に瀞霊廷へ侵入し、五番隊隊長藍染惣右介を殺害したと思われた旅禍。
正体は禁術を使い、虚の力を手に入れようとした元死神集団『仮面の軍勢』のメンバーが現世で産み落とした娘であり、家族の仇を討ちたかった、と吐いた。
『仮面の軍勢』と藍染惣右介は協力関係を結んでいたのか詰問したところ、彼等は藍染惣右介の虚化実験に巻き込まれた被害者なのだという。
俄には信じ難い。娘が知らぬ所で何らかの関わりがある事も検討されたが、藍染惣右介の本性を考えると娘の話は真実味を帯びる。
後日調査委員会を現世に送り、軍勢と話を設ける手筈とし、藍染の死体役を担った娘の義骸は、涅マユリが修復に躍起となりその監視を夜一が行う事となった。
霊体の娘は平子真子によく似ている。浅打は未所持ではあるが高度の鬼道を使いこなす、嫌疑の晴れていない集団の娘。
他の旅禍とは隔離する必要がある。そう結論付けられ、射場鉄左衛門の監視の元、狛村左陣の預かりとして七番隊に預ける事となった。
「……という訳じゃ。質問はあるか?お嬢ちゃん」
広島弁を話すのはサングラスと髪型が特徴的な射場。娘の監視役の男だ。
「何やねんソレ。 アタシ何も知らん内にそんなんなってたんか?!」
「申し訳ない。貴女の話を信じられぬ者も居るのだ。どうか怒りを収めて貰いたい」
隊長の狛村が娘に申し訳なさそうに伝える。
「帰るまで軟禁されるん?皆と会われへん?」
「いんや、どこか行きたいトコがあるならわしが案内するけぇ怒らんで」
「ホンマかいな」
「平子殿、鉄左衛門は言葉遣いは荒く聞こえるが面倒見の良い男なのだ。安心して欲しい」
狛村の優しさが痛い程伝わってくる。あの男と違ってこの人本当に良い人や……。
でもそれなら織姫ちゃんだけでも同室にして欲しかったわ……。娘はそう思ったが、思うだけに留めておく。
「ほれ行くぞ。まず何処に行きたいんねぃな」
「あー……えっと……ルキアちゃんはどこ?」
「そりゃ十三番隊やな。よっしゃ任せちょき」
こうして2人は歩いていく。
道中死神達とすれ違うが、皆忙しそうにしている。無理もない、藍染の事件の後処理に追われているのだろうから。
そして、視線がチラ、と向けられる。
現世の格好はそんなに珍しいだろうか。石田が作ってくれた白を基調としたワンピース姿に、胸元には浦原から渡された黄色い石がついたネックレスをつけている。
「なァ射場さん、あの人達は何をしとん?」
「あれは報告書を作成してるんじゃ。被害状況も詳しく書かにゃあいけんからのぅ」
「何かがやってきたらしいからなァ」
「空からなぁ」
▽
食事を済ませ娘を部屋まで送り届けた射場は、自分の中の警鐘に従ってこの場から立ち去ることにした。
「…わしも本当は暇じゃないけぇな、余計な仕事を増やさんで夜は大人しゅうしとけよお嬢ちゃん」
「ハァイ。明日は…ローズの居ったところに連れてってくれん?」
「鳳橋さんか?三番隊やな…ええけどあそこも隊長が居らんから構われんと思うで?」
「いいねん。家族が居った場所を見たいだけやねん…そんなら明日もヨロシク、射場さん。ご馳走様、今日はありがとうな」
射場は目の前の娘が自分に向ける目に思ってしまった。
あ、こりゃまずい。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」
「なん?射場さん」
「いやぁ、さっき言うの忘れちょったんじゃがその髪目立つけぇ、帽子でも買わんか?」
「買い物?似合うん選んでな?」
「おう、また明日じゃな」
お、この目はええな。
ニィ、と浮かべられた笑顔にサングラス越しに微笑みを返し、射場は完全に娘から背を向けた。
本人は気づいていないだろうが、藍染惣右介の娘だ。
母親の容姿は余り覚えていないが、霊体の娘に似て被る金髪、特徴的な口をしているのだろう。
娘と藍染は並んだところで血縁関係には思えない。
だが、笑いかけられた時の目が、ふとした瞬間の陽色の穏やかさが、大逆人とひどく似ている。……それに気づいた時、言いようのない感情を覚えた。
射場は藍染惣右介と隊も違う、係る機会が少なく、顔を合わせても世間話をするくらいの仲でしかなかった。
だからあの男の顔をよく覚えている訳ではない。
だが娘の控えめな笑顔は霊術院で講師をしていた、十一番隊平隊員の自分に助言をくれた、あの時の藍染とそっくりだ。
わしですら娘に藍染を見てしまうのだ。五番隊の隊員や、入院中の雛森なんてひとたまりもないじゃろう。そう思うと背筋を冷たい汗が流れた。
これは各々の胸に留めておくべきことだ、と。
「…三番隊に行く前に買い物に行く、か」
若い女子は男のサングラスなど難色を示すやろうからな。ハァ、女物のサングラスを買うハメになるじゃなんてな。経費で落ちるか、落とせんなら一角が気に入った旅禍・一護いうんにぶつけて鬱憤を晴らしちゃるか。
われの女のせいで余計な出費じゃろってな。
・藍染の君に生きて欲しい→死体人形はBSSとNTRが効きすぎた。仲間はキレた
・娘ちゃんの義骸は誰とも似てない少女