画虎ココロとピンク色の心

画虎ココロとピンク色の心

 画虎ココロ

 ここは、なんだ。

 ミレニアムから出て今度は百鬼夜行にでも向かおうと思って乗ったバスが停まったのは、見たことも聞いたこともない場所だった。タイムスリップか空間転移でもしたかのように、キヴォトスでは見慣れない風景の場所に至ったというのに、その道のりに違和感を感じることがなかったのも異常ではある。しかし、それよりも私の眼の前にある施設そのものが異様であった。

 旧世紀に流行したという前頭葉を切除する手術法の名前を関する企業。私は今、その施設の中にいる。コルクボードとペンを片手に、誰かの意思である部屋へと足が向かう。そうだ、なぜ私は立っているんだろう?車椅子に乗らずに。

 「収容室」と呼ばれる分厚いシャッターの向こうが私の仕事場らしい。シャッターが開き、私はその中へと入る。そこにはピンク色のハートが浮かび、その中にピンク色の軍服を着た兵隊がいた。彼は非常に優しい笑顔で私を見つめていた。

『あなたが今日の私の担当ですか?』

「えぇ、私は画虎ココロと言うの。貴方は?」

『私は「黒の兵隊」と呼ばれています。ですがピンク色ですね』

 彼の語り口調は私の心の奥底にわだかまっていた言い表しようのない緊張を解きほぐしていくようだった。

『私には人の心が見えます。人の心はピンク色をしているのです。ですから我々はピンク色の服を着ることで人の心に溶け込み、人を守るのです』

「そうなのね、とても頼もしいわ。良い人なのね」

『はい! 特に貴方は心がとてもきれいなピンク色です。他の色が混ざりようのない、美しい色合いです。そんな貴方は私達の仲間になる資格があります!』

 彼はそう言うと、被っていたヘルメットを取って私に差し出した。ハートの外へと、握手のために手も差し出して。

「そんな心優しい人の仲間になれるのは光栄だわ。でも私には既に仲間も、大切な人もいるの。ごめんなさい」

 そう答えると、彼は少し残念そうな顔をして手を引っ込めた。

『そうですか……でも我々はあなたのそばに有りたいと思います。ですのでヘルメットをどうかもらってください。我々が皆さんを守るために使う武器と防具も分けましょう。必要になったらいつでも使ってください!』

 彼がそう言うと、彼を包むハートの一部が変形して、二本の触手が伸びる。一本は私の全身をゆっくりと撫で、もう一本は私の愛銃「DM消音カービン/グレネードランチャー」を包みこんだ。触手が二本とも私の体から離れると、その触手はピンク色の軍服とピンク色の愛銃を吐き出した。

『これで、我々があなたのそばにいなくても、我々のピンク色が貴方を守ってくれます。あなたの美しい心と、そのココロという名前に幸運がありますように……』

           敬礼!


 目を覚ますと、そこはミレニアムの自治区外縁。私はまだバス停にいる。あの頓痴気車椅子に乗り、呆けた顔でバスを待っている。

「夢……だったのかしら」

 私はなんの気なしに愛銃を手にとって見る。

 その色は、ピンク色だった。

 端末に着信が届く。モモトークで設定してある着信音ではなく、いつも使うニュースサイトの着信音だ。見れば、学園付近で突発的な戦闘が発生しているらしい。

 戻るしか無い。休暇は一度終わりだ、彼との約束を守ろう。

「心優しい善人を守り、悪人に対しても優しい心と行動でもって優しい心を芽生えさせて守る……それが私に出来ること」

    ピンク色のココロに、敬礼!


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