画虎ココロとくすんだ心
画虎ココロ何だ、ここは。
セリフと風景にそこはかとないデジャビュを感じつつ、私はその建物を見上げた。
ロボトミーコーポレーション、通常L社。
そこは職場であり、死に場所であり、墓場でもある。そんなジョークを飛ばしていた人がいた。彼の眼の前には、何かよくわからない色合いの点滴を打たれ、拘束具付きのベッドに縛り付けられた彼の同僚がいたと思う。
そこには様々な服を着た人がいた。笑う髑髏が張り付いた黒い腐肉のスーツ。八分音符の意匠が取り入れられた、指揮者が着るような白いタキシード。 魔法少女チックなフリフリ付きのドレス。出鱈目に絡み合った鮮やかな赤の血肉で編み上げたような装衣。天秤のマークが胸元に施された黒く長いコート。そして、ピンク色の軍服を着た私。突飛な仮装パーティーだと言っても説明が付きそうだが、時折死臭と断末魔が漂う無骨で無機質な建物の中で、死んだ目をして淡々と靴音の多重層を奏でる者共がそんなお茶らけたことを出来るはずもない。
私はいつかここに来たときと同じシャッターの前に、誰かの意思によって立たされていた。
『作業許可が出た。クリフォトカウンターの減少を起こさず、かつ迅速に作業を終了させるよう』
シャッターの上にあるスピーカーからそんな声が聞こえてきて、それからシャッターがガラガラと上がる。その向こうには、あのピンク色のハートがあった。
「ココロさん! またお会いできましたね。敬礼!」
「私もお会いできて嬉しいわ。敬礼!」
二人でビシッと敬礼を交わし、仲良く笑う。心做しか、彼を包むハートが僅かに黒くくすんで見えた。
「我々の力を使ってくださっているようですね。遠く離れた場所でも人々の心を守っていただけて光栄です」
「それも貴方がこれを分けてくれたからよ、とても感謝しているわ」
美しい心を持つ貴方なら当然です、と彼は私に言葉をかけてくれる。人の美しいピンクの心を体現したような貴方ならば、と。
「そういえば、以前お会いした時と髪色が少し違いますね。どうされたのですか?」
「髪色? 染めた記憶は無いのだけれど…」
「そうでしたか。不思議と貴方のピンク色の髪の一部が黒く見えたものですから」
その後彼と他愛もない話をしつつ、収容室内部の環境を整備して作業を終えた。
「またお会いすることをお待ちしております! 敬礼!」
「えぇ、また会いましょうね。敬礼!」
シャッターが締まり切る直前、彼を包むハートの濁りが濃くなった気がした。