由井正雪の番
「周囲に遮音の魔術を張ったから、どんなに暴れても大丈夫と思うけど…」
─声は上擦っているが抜け目が無い。流石アサシンのマスターというところか
「ね、ねえ本当にやるの?というより、私もこれをやるの?」
─疾くやれと言ったばかりであろう
「そ、そうだわ!魔力供給という事にしましょう!」
─無理がある。魔術回路が充分機能している我々には非効率でしかない。
正雪は全身から火が出るのではと思うぐらい上気しているはずなのに、不思議と冷静にドロテアの言葉を一つ一つ返していた。
眼下には宮本伊織がドロテアの魔術で地面に縫い付けられている。
外は怒号やら叫声やら爆発音で大騒ぎだが、広範囲の破壊でもない限り住民には気付かれないだろう。
サーヴァントの興が乗って魔術を持っていかれ精魂尽き果てる前に、この目の前で転がっている男を犯さなければならない。
(…何故?どうやって?)
わからない。自分は本当に、これがやりたかったのか?
「───…」
話声が聞こえた方に顔を起こすと、ドロテアが伊織に耳を近付けていた。
「…彼はなんて?」
「…『構わない』って。殺す気じゃないのはわかってるって。お人好し…私の魔術は強固だけど、少しは抵抗しなさいよ…」
ああ、こんな時にまで、人を気遣うのか、彼は。
ドロテアは彼を眠らせようかと提案する。しかし状況を概ね理解した伊織は拒否したようだ。ドロテアは強力な魔術師だが、外でアサシンが戯れとはいえ暴れている以上、これ以上魔術を行使する事はドロテアの負担になると判断したのだろう。
ならば疾く済ませるしかない。なるべく苦痛にならないように。
見動きが取れない伊織の代わりに正雪が伊織の袴を脱がしにかかる。
着物の合わせ目を開き、褌を、外し…男でも滅多に見るものではない、伊織の下肢が露わになった。
意を決して羽織を脱ぎ、袴を下ろし、帯を緩める。
生き人形の素体が露わになる。
体温が上がり、薄紅に染まった頬と…汗でじっとりと熟れた小豆のような乳首が、白い肌にとてもよく映えた。
そして下腹部には華奢な身体にそぐわない立派な男根が熱を持ってそそりたっていた。
こんな異常な状況でも自分は興奮しているのか、とどこか他人事の様に考えながら、伊織の脚を掴み秘部を暴く。
ふとドロテアが何かを思い出したのか、外套から小箱を取り出した。
「えっと…軟膏、使う?ウチで取り扱っている商品の見本品よ。流石に無いよりは、マシだと思うわ…」
───────────
身体を愛撫する暇はなく、少しでも入りやすいようにと指で腸壁に軟膏を塗りたくり、少しずつ拡げていった。
伊織はというと、行為の間僅かに動く首を使って着流しの襟を噛んで声を殺しているようだ。目を瞑り、正雪の裸体は見ないようにしていた。
指を引き抜き、赤く脈打つ肉棒を添える。正雪は己に言い聞かせる。時間をかける必要は無い。疾く済ませばいい。これはそう、必要な作業だ。たとえどこかで夢見た一瞬だとしても──
「…!あっ…」
正雪は思わず嬉声を上げてしまった。
全身を電流が迸ったかのような感覚に襲われたからだ。
「あっあっあああっ」
正雪は現実を受け入れられずにいた。
受け入れたら一瞬で己が壊れてしまいそうだったからだ。
有り得ない光景から少しずつ向き合わねばならなかった。
本来は持ち得ないはずの、自分の肉棒が、伊織の、中に、入っていく─!
「あっああっ!そんなっこんな、ハズでは…!!」
正雪は思わず腰を突き上げてしまった。
急いでしまえば傷付けてしまうかもしれないと緩やかに腰を進めるつもりが、我慢が効かなかった。
突然の衝撃で驚いたのか、正雪の肉棒を腸壁が締め付けてきた。
正雪は勢いそのままに肉棒を擦りあげていく。
「ああっ!す、すまないっ!もう少し、んっ、優しく…!」
優しく、したい。
声だけ聞けば、まるで男からの責め苦に堪えるおなごの喘ぎ声だ。
顔を見れば、髪を振り乱し、目を潤ませ、頬は紅く、口を震わせてだらしなく溢れそうな涎をすんでのところで呑み込んで、辛うじて呼吸をするおなごの痴体だ。
「あっあっあっああっ」
腰を打ち付ける度に、正雪の内股は濡れていった。
全身を駆け巡る快感が、正雪の乳房をふるふると弾ませた。
精錬された完璧な白い身体が、だらしなく乱れていく姿は情事に耽る女体そのものだ。
ただ一部、男根を生やし、男の秘部に埋めている事を除いて。
「あんっああ…あっ、どう、しよ…」
正雪は腰回りからゾワゾワと渦巻くような感覚を察知する。
終わりが近い。
このまま終わらせても良いのか?このまま、中に─?
正雪はちらりと、自分が腰を打ち付けている相手を見た。
輝かしく美しいままでいて欲しいと想っていた相手───伊織は、正雪の様子が変わった気配を察知したのか、薄く目を開けて正雪を見た。
「あ、あ、あああ…!!」
お互いの目がバチリと合った瞬間、正雪は最後の理性と共に瓦解した。
疾く終わらせる目的は果たしたのに、どこかで名残惜しみながら。