生存IFロシナンテ プロローグ

生存IFロシナンテ プロローグ

書きたい意欲しかなかったけどおれの腕だと無理だったんだ…………


「この島一つが一つの病院か──見事だな」

ローの呟く声が、海列車の駅の喧噪に紛れる。駅の改札前には巨大な受付があり、病人やら見舞客やらでごった返して誰もローたちに目を向けるものはいない。人だけではなく、ミンク族や巨人族も混ざっているのは圧巻であった。

駅前の巨大な受付で振り分けられた患者は湾岸に乱立する大病院に吸い込まれていく。

春島らしい気候だが、ほんのりと消毒液の匂いが風に混じっていた。ロー率いるハートの海賊団がログを頼りにたどり着いたのは病院島とも呼ばれるエルガニア王国の聖メリダ島──の隣の島である。

隣島と海列車で繋がるこの島の名を聞いた途端にローは海列車に飛び乗り、古なじみの三人が慌てたように着いてきた。他のクルーはそれぞれ隣島でポーラータングを守りながら久々の陸を満喫していることだろう。

駅舎を出れば乱立する大病院の隙間に商店街が並んでいた。ローを追いかけてきたペンギンたちが感嘆の声をあげる。

「行きたいって言ってましたねここ」

「もしかして、このでっかい病院一つ一つ違う課?」

「うわ、本屋すげえ」

駅前の本屋に顔を突っ込んだシャチが悲鳴混じりの歓声をあげる。

「他の島だと見れねえ発禁本山ほどあるぜ」

シャチの声に思わずローの足が本屋に向く。一応とばかりに顔だけ振り返ってクルーに声をかけるのは忘れなかった。

「ペンギン、シャチ、ベポ。ログがたまるのは三日後だ」

──それまでは、好きにしろ。

そわそわと既に心が本屋に向いているローにペンギンたちがけらけらと笑う。

「アイアイ、キャプテン。宿はイッカクたちがあっちの島でとってくれてますから、最後の便を逃さないでくださいよ」

ペンギンが笑って見送る。

その了承代わりに軽く手を振り、ローはそそくさと本屋に足を踏み入れた。ふとショーウィンドウに映る三人を見れば、気の抜けた顔で商店街を見て回ろうと楽しげに話している。

それに、ローはわずかな安堵を覚えた。

ゾウからこちらクルーには激戦を強いてきた。ワノ国での負傷も回復し、もう誰も包帯を巻いていない。再会から暫くは緊張が解けないままだったクルーたちがようやく船長を信用しはじめている。ローがクルーたちに黙って死ぬ気だったことがようやく許されようとしている。

――休暇、だな。

ローは口元をわずかに緩めて本屋のドアをくぐり、本棚に無造作にならぶ稀覯本に思わず目を丸くした。




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