【甘美なる善意】

【甘美なる善意】


(……妙ね。何なのこれは?)

ゲヘナ風紀委員の部屋にて空崎ヒナは、報告書を見て首を傾げた。

報告書の内容を要約すると『治安のよかった場所が悪くなり、逆に治安の悪かった場所が平穏』といった感じだ。


ゲヘナは【自由と混沌】を好むが全員がそうであるとは限らない。少なくとも、“平穏“を好む生徒も一定数はいる。そして、この報告書ではその“平穏“を望む生徒達が“混沌“を引き起こしているというのだ。


(……そして、一つ気になるのが。『最近オープンしたスイーツ店』そこは元々は治安が悪かった場所。……何か関係があるのかも知れないわね)


「委員長?」


声をかけられ顔をあげるとアコが私のテーブルにコーヒーカップを置いた。

コーヒーの香りが鼻をくすぐる。


「あまり根を詰めすぎるのも良くはありません。コーヒーでも飲んで少しリラックスしてください」

「ありがとう、アコ。いただくわ」


礼を言って、カップを手に口をつけた。













────甘い。




















甘い!美味しい!何なのこれは!!

さっきまで感じていた倦怠感や疲れ、眠気が嘘の様に吹き飛び。身体の奥から活力が湧いてくる!


それに、身体も軽い!まるで空を飛んでいるかの様なふわふわした感覚も心地よい。

全身を包み込む多幸感に思わず顔が緩みそうにな───危ない。今は仕事中、だらしのない姿を部下には見せられない。


ぐっと堪え、コーヒーを飲みながら仕事を続ける。

何時もよりも、仕事が捗ってる。これなら普段よりも早く帰ることが出来そうだ。

さて、あともう一息頑張ろうとコーヒーカップを手に取り。




───その中身が空な事に気がついた。




「……あっ」

途端に、切ない気持ちが沸き上がる。

まるで、大切にしていたぬいぐるみを取り上げられたかの様な悲しさ。


視線を上げると、真剣な表情で書類を片付けるアコの姿があった。

邪魔するわけにはいかない……しかし……でも……。




「ねぇ……アコ」

「ッ!?はい!何でしょうかヒナ委員長!」



耐えきれずに声をかけるとアコは驚いた様に顔を上げた。

そっと空になったカップを差し出す。


「……その、コーヒーのお代わりを貰えないかしら?」

「!?…ッ~~~♪はい!喜んで!!」


私の言葉にアコは嬉しそうに返事をした。


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