甘ったるい寝起き

甘ったるい寝起き


眩しくて、目が覚めた。

窓から差し込む陽光に、顔全体が照らされていたらしい。


避けるように寝返りをうって、眠気が吹っ飛んだ。

目に映ったのは、零距離のギークの顔。

聞こえる寝息に詰めていた息をほっと吐き出した。


お昼ご飯の後、なんだか眠くなって。

布団の上に横になって、そのまま寝て。

そして今に至る。


起き上がってみれば、掛布団がずり落ちた。

ギークがかけてくれたのだろうか、と思う。

それでなんとなく、彼がここで寝ている理由も分かった。


―そういえば、夢でギークに呼ばれていたような気がする。


耳に残る、笑い声。

風邪ひくよ、なんて。


もう一度横になって、ギークの顔を見つめた。

いつも優しい彼の顔は、寝顔まで優しかった。


手を伸ばして、頬に触れてみる。

微かに動いた睫に慌てて手を引っ込めた。

むにゃむにゃと寝言を呟いて、寝返りを打つ。


―よかった、起こしてなくて・・・・。


―けれど、顔が見えなくなってしまったわ・・・・。


背中を見つめながら、そう思う。

ちょっと考えて、ぴっとりとくっついてみた。

思ったよりも大きい背中に、何故かどうしようもない程の愛しさが沸く。

もっと、もっと触れていたい。


―こんな感情、今まで知らなかった。


―誰かを好きになる、こんな幸せな感情・・・。


―いろんなものを、私はこの人から貰っているわね。


おそるおそる腕をギークの腹に回しながら、考えた。

好きな時に、好きなことができる自由。

楽しい時に、思いっきり弾けさせる笑顔。

そして、一緒にいるだけで幸せになれる愛おしい感情。


後ろから抱きついた形になる。

頬をくっつけて、香りを吸い込む。

大好きで、愛しくて、どうしても言葉にしたくなった。


―寝てるんだし、気付かれない、はず。


とは言い聞かせたものの、口を開いては閉じを繰り返して。

一瞬だけ力を込めて、いざ。


「・・・愛してる、ギーク」


やっと言えた、そう安堵の息をついた時だった。


「・・・そういうのは起きてる時に言ってよ・・・」


「!?!?」


ばっと手を離して、慌てて後ろに下がった。

ごろり、と転がってこちらを向いたギークの顔はどこか赤くて。

いつから起きてたんだろう。

ぐるぐるの思考の中でそう思った、瞬間。


―ぐっ


引っ張られて、ぎゅうと抱きしめられる。

頭をギークの鎖骨あたりに押し付けるように。

多分、自分の顔が見られないように。


混乱、混乱。

どんどん湧き上がってくる混乱で私は動けなくなってしまった。


私を抱きしめるギークの腕は細いけれど。

女である私より力が弱いとはいえ、ああ、やっぱり男の人なんだな・・・・じゃなくて!

何が何だかわからなくて。

いつから彼は起きてたんだろう、とか。

今の私の言葉はきっとしっかり聞かれていたのだろう、とか。

その前に、私は、


「――ッ!?!?」


―我ながらなんて大胆な行動を・・・・ッ!?


ああ、もう、どうしよう。

混乱の極み、その時に聞こえたギークの声に全力で耳を傾ける。

それは、混乱を煽るだけだったけれど。


「・・・フゥリから甘えてくるなんて珍しいなって思ってたらさ、その・・・」


「あああ、あれは、そのっ、」


「・・・俺もだよ」


恥ずかしさでどうにかなりそうだったその時。

落ちてきた声は私を一瞬で落ち着かせるくらい穏やかで優しくて。

顔を上げれば、私に負けないくらい真っ赤な顔で。


「愛してる、ギーク」


「・・・!」


耳に落ちたその言葉は、一抹の恥ずかしさと沢山の幸せを連れてきた。

どうやら私は幸せに酔ってしまったらしい。

ギークの服の裾を掴んで、顔を近づけて。

目を閉じて、そっと唇を重ねて。


―ずっとこのままで。


―この人の傍に入れますように。


甘くて優しいこの口づけに。

そんな祈りを、願いを込めた―

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