甘々セラピー√導入

甘々セラピー√導入


ブラックマーケット娼館摘発戦争から約一週間がたった。

ゲヘナ地区で指名手配されていた鬼方カヨコの死亡報告を皮切りに各学園で頻発していた生徒の死亡報告は、その実ブラックマーケットの売春組織による偽装であった。

最終的に我が校ミレニアムの才羽姉妹、C&Cメンバー、……そしてセミナーの早瀬ユウカの偽装死体の発見、そしてそれを解析したエンジニア部と先生の持ち込んできた生徒のいる風俗の情報から元凶を突き止めたのだ

当然皆怒り狂った。私だってそうだった。私たちのような研究とネットダイビングにとりつかれたろくでなしの面倒を見てくれたいわゆる母のような存在、ミレニアムの守護者たち、そして良き友達。…彼女らをあのような形で辱められたのだ。ミレニアム生として当然だろう。

大切な人たちを奪われ汚された各校も怒り心頭。最終的に先生主導のもと被害校全てによって組まれた新エデン条約機構によりブラックマーケットは一掃され、被害者はみな保護された


恥ずかしながら私は売春組織殲滅に関わらなかった。それ以外にやるべきこと、私のなすべきことに全力で取り組んだ。その過程で戦線不参加を咎められた私を守ってくれた先生には感謝の言葉しかない。

「精神状態と健康状態の相関」「神秘の実在とその性質の研究」「神秘と肉体状態の相関関係の研究とその評価」「ヘイローによる魂の存在の証明」

先輩の研究テーマを受け継ぎ発展させた私の研究、『神秘による傷病の治癒技術』

理論上はどのような状態であろうと生徒の肉体を治療できる技術だ。現代医学では不可能な認知症の治癒、末期がんの副作用なき完全な根絶も可能。使用するのはカプセル状の特殊な装置のみ。装置さえ生産できれば誰でも、意識さえあればどんな病気であろうが治療できる革新的な医療。

…ブラックマーケットの違法風俗からの救助だ。ミレニアムから流れた落伍生が技術を伝え、それが悍ましい使われ方をしているのも知っている。故にこそ私は被害者の完全な社会復帰のためにこの治療装置の最終調整・技術実証と量産を行ったのだ。

それが今日、実を結ぶ。



「おえええ!」

「吐くの何度目ですか先輩!発表前にえづくのは昔からですけど"技術実証"から嘔吐への閾値が下がったように感じるんですが!」

とはいえ発表は苦手だ。私は大勢の人の前に出るのが怖い。しかもメンバーは便利屋を始めワルキューレ、百花繚乱修行部、トリニティの正義実現委員会、救護騎士団。ゲヘナ風紀委員会、他にも錚々たる面子とクロノス共がぞろぞろと。粗相したら全学園の笑いものじゃん。怖い。後輩に発表投げて帰りたい


「"技術実証"のためにドクツルタケ食べたり致死量の放射線を全身に浴びたり被害者に施された「施術」を自分にした時の覚悟はどこ行ったんですか!あんなのに比べたら大勢の人の前で話すことぐらいわけないですって!」

「それとこれとは使う覚悟が違うのだよ!」

「時間来ましたよ。口は拭いましたから吐き気止め飲んでとっととやってくださいね。」


…発表だ。来てしまったものは仕方がない。全力で説明するとしよう


「…こんにちは。本日は皆様方各学園よりお越しいただきありがとうございます」

「ブラックマーケット売春組織の被害者治療の説明を行わせていただきます」

スライドを切り替え、治療装置を写す。ここからが本命だ。

「我々生徒には特有の"神秘"という要素が存在します。」

「生半可な毒物を摂取しても腹を下すだけで済み、対戦車砲を受けても致命傷を負わないのはこの神秘のおかげです」

「私の治療法はこの神秘を利用するものです。専用の機械により神秘の出力を活性化。新陳代謝と細胞分裂による肉体の更新と異物要素の除去を行うことで傷病を早期に治癒させます」

「神秘出力の活性化に際しては細胞内のテロメアの保護・規定長への延長が確認されており、余命も25歳代から平均的な女性のものに戻ると考えられます。連続性の保持に関してはパンフレットに添付した「ヘイローによる魂の証明」から問題ないと考えられます。」


大切な要素も説明しないと


「これにより被害者の肉体的治療が可能ですが、神秘を利用する以上治療の成功には患者が健全な精神状態にある必要があります」

「「精神状態と健康状態の相関」と「神秘と肉体状態の相関関係の研究とその評価」から高ストレス状態、うつ状態にあるときは神秘による肉体保護と治癒が減衰するという事例が見て取れます。よって治療の前段階として患者の精神的ケアを皆様方で行ってください。」

「ミレニアムの臨床心理士チームが精神状態のチェックを行います。基準を満たす精神状態になったらその証明のカルテをもって治療棟にお越しください」

「これで説明を終わります。では、質疑応答の時間に入ります」


正直言ってこれが一番苦手だ。頼むからあまり来ないで…意地悪な質問しないで…


"素人質問だけどいいかな"


こみあがってきたものを強引に飲み込み先生の質問を聞く。頭をフル回転させて一言一句聞き漏らさずに回答を練っていく


"この治療技術があるならヒマリのような体質の子をとっくに治してると考えたんだけど…そこはどうなの?"


良かった。まだ全然いける範囲だ。


「ヒマリさんの神秘は一般的な生徒と比較して特殊な性質を示しています」

「神秘の多くを演算に使用しており、また体を弱くする代わりにその演算能力をブーストする、という傾向にあります」

「神秘そのものには問題がないのでヒマリさんが病気を患ったと仮定した場合、その病気は治せますが低い体力はそのまま。という結果になります」

「対象治験として外的要因により車椅子の使用を余儀なくされていた生徒に対しても装置を使用しました。結果当該生徒には自身の足による歩行能力の回復が確認されました」


"わかった。ありがとう。"


「他に質問は有りますか」

「…ないならこれで質疑応答を終了します。本日はお忙しい中お越しいただきありがとうございました。」


舞台裏に戻っていく。安堵と達成感で、眠るように後輩にもたれかかった。

この治療法は本人の精神状態に大きく左右される。一人でも多くの被害者が治療できるようになるよう、私は祈りながら意識を閉ざした

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