理事の独白②
(何故だ、何故こうなった‥。)
当たれば人体など一撃で両断する右腕のブレードは小町小吉に少し体をずらしただけで回避され、カウンターの左の正拳を頭部に受け怯んだ所に更に頭部に回し蹴りを喰らい、目算数百キロはあるであろう理事が宙を舞う。
周囲で小町小吉と便利屋を包囲した兵隊共は既に全員倒された。
(奴の、スズメバチの能力を知ってたから‥。毒針を通さない重装甲を選び、何故か銃弾が当たらない小町小吉を仕留める為に白兵戦用のブレードも用意した。)
既に理事の体を覆っていた重装甲は剥がされ何発も毒針と大顎による斬撃を叩き込まれ相手が生身の生物であれば既に複数回死んでいるほどのダメージを受けていた。
しかし、フラフラと立ち上がり、なおも小吉を刺殺さんとすべく突きを放つが躱され、伸びた腕と突きの勢いを利用され綺麗な背負い投げが決まる。
倒れた理事が起き上がる前に、理事の右腕を踏み抜きマニュピレーターを破壊してブレードを使用不可にする。
(専用にチューンされた機械と手術を受けているとはいえ生身。疲れぬ機体と疲れる身体。
キヴォトスの外で散々暴れられ、大損害を与えられたのだ奴の戦闘データは揃っている、負ける筈がないのだ。
それなのに何故当たらないッ!、何故防げないッ!)
理事と戦闘する以前から対策委員会と共に戦闘し続けている筈の眼前の仇敵はここが砂漠であると言うのに未だ息すら切らさず、汗すら流していない。
こちらを見下ろし「どうした、もう終わりか?」と言わんばかりの目線を向ける。
「舐めやがってぇぇぇ!!!」
激昂し、まだ無事な左拳を振りかぶり、振り下ろす。当たればバグズ手術で得られる強化アミロースの甲皮など容易く砕く一撃は
———届かなかった。
拳が振り下ろされるよりも疾く、理事のガラ空きの胴体にドンドンドン!と毒針が四発、ほぼ同時に叩き込まれ、今までのダメージの蓄積が遂に限界を迎える。
バキバキと音を立てながら装甲が砕け散り、理事の身体が大地に倒れる
(ちくしょう‥。何故だ‥。な‥ぜ‥、奴に勝て‥な、い‥?)
最後に自問自答を繰り返しながら理事の意識は消えていった。