現パロ晴森クリスマスVer.2

現パロ晴森クリスマスVer.2



ども、マンドリカルドっす。俺は今、大学の学部生のクリパに参加中っす。超帰りてェっす。とはいえクリスマスに独り身なのに同じ学部だからって誘われたクリパ断んのも空気読めねぇし、参加者の中に中学ン時から俺の事ダチだって言ってくれてる長可も居るから、まだマシっちゃマシなんすけど。ちなみにカイニスは大学同じだけど別の学部だからそっちのクリパ行ったらしいっす。まぁ、そんな感じで。長可が他の人らと話してたりすると俺は居場所がねぇんで隅っこで人様の邪魔しねぇようにボチボチ飲みながら陰キャは陰キャらしく人間観察してたんすけど、なんかちょっとおかしい事に気づきまして。

「……なんか長可、いつもよか酔うの早くね……?」

ぽつり、呟いたのとほぼ同時。機嫌よく大口を開けて笑っていた長可の身体が、ぐらりと傾く。慌てて駆け寄って支えると、ちょっと離れていた所からじゃ店の照明とか周囲からの反射とかで気付かなかったけど、思ってた以上に顔が赤いし、体温が高い。

「ちょ、大丈夫っすか?!」

「らいじょーぶ、らいじょーぶ」

呂律もだいぶ怪しい。これは確実に大丈夫じゃないヤツっすね!

「大丈夫なうちに、今日んとこは帰った方がいいっすよ、立てなくなったら俺らじゃどうしようもないんで!」

「あー……?」

「ほら、えーと、信長さんに恥かかせるわけにはいかないでしょ?配下が酔い潰れたとかでナメた輩が調子こいたら良くないし!」

「ン時にゃあ俺がぶちのめすだけだぜ!」

いつもより心做しか間延びして、支えた身体にもあまり力が入っていないから、どうにか帰らせたいんすけども。この人、人の話聞かないからどうしたもんか……

「あー……じゃあ今帰ってくれたら今度の休みに久しぶりに手合わせの相手するんで!確か明後日が予定空いてるって言ってたっすよね?昼からなら俺も空いてるから、道場にお邪魔するんで!それならどうっすか?!」

苦肉の策でそう提案すれば、ピクリと眉が動く。

「……男に二言はねぇよな?」

低い声。これは、ガチのやつ。早まったか?俺。イヤでもこのままじゃテンション振り切れて暴れ出すか寝落ちるかのどっちかだろうし、そうなったら誰にもどうにも出来ねぇし。この人に10kgのダンベル持たせたら三桁超えるくらいの重量してるわけだし、俺のタッパじゃ支えて立たすのもムリだし。長可がどんだけグデグデに酔ってても反応する事つったら、バトル、茶の湯関連、あと信長さんの事くらいしか思い付かねぇし。一応、もうひとつ心当たりはあるけど関係の割に結構風当たり強い対応するから多分無理だし。で、こん中で俺がどうにか出来そうなのがバトルくらいしかないし。中学ン頃……俺が若気の至りってヤツでヤンチャしてた頃を知ってる長可とカイニスにしか通用しねぇんだけど……俺らの周りってなんでこんなバトルマニア多いんすかね、俺は穏やかに生きたい……ここまでの思考一秒。

「ちゃんと約束するんで、切り上げて帰るっすか?」

「ならしゃーねぇな!」

そう言って大人しく……?スマホをいじりだしたのを見て、安堵のため息が出る。いや、俺的には全然安心出来ねぇんすけど。最近だいぶ大人しくなったつっても、この人未だに何がどういう切っ掛けでバトルスイッチ入るかわかんねぇし。あの人がこの人の事を『人に懐いたグリズリー』『育ちのいいアロサウルス』とか評するのもなんとなく分かるかもしれない。

「えー、森くん帰っちゃうの?」

「もうちょっとお話したかったのにぃ」

そういう同じ学部の女子たちは『そういう部分』を知らねぇからそういう事言えるんすよ。信長さんやご両親の躾の苦労が偲ばれるっす。この場合の『偲ぶ』は過去の出来事をしみじみと思い出す、尊敬の意味を含むの意味であって全員ご存命なんでそこだけはちゃんとしときたい。……いや俺誰に言い訳してんだイマジナリーフレンドってやつか?陰キャここに極まれりってか?もういいや。

「ちゃんと帰るんすよね?」

「オメーが約束したなら俺も帰る。もし反故にしたらとっ捕まえてぶちのめす」

「……そんな恐ろしい事しねぇっすよ」

「ならいい。迎えも呼んだし、すぐ来んだろ」

ずる、と壁に背を預けて少し眠たげにそう応えた長可はさっきよりは落ち着いた様子で、まぁ少なくともテンション振り切れて暴れる事はもうなさそうだった。そのまましばらく待っていると、バタバタと慌てたような足音がして、大人数用の宴会場の仕切りになっていた襖がスパァン!と大きな音を立てて開いた。

「っは、長可、迎えに来たぞ……」

その先で息を切らせていたのは、スラリとした体躯にド派手に真っ赤なコートを羽織った美丈夫。にわかにザワつく室内で、眠そうな長可が起き上がろうともせずに開口一番「遅せぇよ」と言うのが、やけにハッキリと室内に響いた。さっきの『もう一人の心当たり』で、長可の事をグリズリーとかアロサウルスとか評してた、その人。

「お前な……こっちは突然呼び出されて急いで来たんだぞ……ほら帰るならサッサと上着着て立て」

「ん……」

のっそりと長可が起き上がる間に突然現れたどう見ても歳上の派手な美丈夫……晴信さんは、呆然とする周囲の学生に「すまん、良かったら誰かタバコ一本くれないか?急いで来たもんで、忘れてきちまった」なんて人好きのする笑みで聞いて、喫煙者の一人が差し出した箱からタバコ一本貰って「スマンな」って笑って、タバコに火をつける……なんて流れるようなカリスマ陽キャムーヴカマしてる訳だが。長可と付き合いの長い俺は知っている。この二人、所謂恋人同士ってやつで、しかも既に数年付き合ってる。学部の奴らは誰も知らなかったんだろうけど、でも、今分かった事だろう。のそのそと酔いと眠気で動きの遅い長可がコートを着たり帰り支度をしているのを、晴信さんはタバコ吸いながら愛おしそうに見てるし、その顔は誰がどう見ても『そういう』視線以外のなにものでもなかったから。

「スマホも財布も……よし、ちゃんとあるな。他に忘れ物は無いな?ほら、肩貸してやるからしっかり立て 」

「ねみぃ……」

「車乗ったら寝てていいから」

そう言って吸い終わったタバコを灰皿に押し付けて揉み消し、自分より背の高い長可に肩を貸して支える晴信さんの声は、相変わらずあからさまに甘くて。ホンット、あの大怪獣を何年もそこまで心底愛せるトコは、ちょっと尊敬する。ダチとしては、まぁ好きじゃなきゃ俺だってこんな長くつるんでねぇけど。

「長可が迷惑をかけた。またカイニスも連れてうちに来るといい」

「や、俺は別に……」

こーやって、俺の事もちゃんと覚えてて挨拶してくれる気遣いとか、ホントすげー人だと思う。カリスマ陽キャのコミュ力、マジパねぇ。

「んー……」

そんなやり取りをしている間にも、長可は寄りかかった晴信さんの肩に顔をぐりぐりと甘えたように押し付けたりしてるワケで。当然、俺でも珍しいっつーか晴信さん相手に、よっぽど酔った時にしかそんなのしてるとこ見た事ないのに、クリパの参加者は見た事あるはずもなくて、ザワつきの種類が変わってくる。それはそう。誰でも驚くよなぁ……カイニスも初見の時はあまりにも驚き過ぎて固まってたっけか……

「はいはい、ほら行くぞ。しっかり歩け。もう少しだけだから、な?」

「さみぃ……ねみぃ……」

「車に乗ればすぐ暖かくなるし、寝てていいからもう少し頑張れ」

そんなイチャイチャしたやり取りをしながら、店の廊下を進んでいく二人が消えても、しばらくはポツポツとザワつく声が聞こえるだけで、さっきまでのクリパ!いぇーい!みたいな陽キャノリは消えていた。俺?元々陰キャなんで角隅に戻っただけっす。この空気壊すとか、無理。

「……い」

ぽつ、と。それまでとは違う様子の声がした。

「いや!今の誰?!メッチャクチャ派手なイケメン!!森くんとどういう関係?!」

「つかマンドリカルド知り合いなんか?!」

「いやいやポヤポヤした森くんとか初めて見た!何アレ可愛くない?!」

「なんか情報量多過ぎなんだけど!誰か紙とペン!整理しないとなんも分からん!!」

最初の一人をきっかけに、ワッと騒ぎ出す人達。質問攻めの俺。怖い。逃げたい。けど逃げ場がねぇ。

「ちょっと待て、先にトイレ行ってくる。途中で行きたくなって抜けるの嫌だし最初から話色々整理したいし。俺が戻ってくるまで話始めんなよ?!」

そう言って一人が抜けた後も、話を整理する為の紙とペンを用意したり、好き勝手な憶測が飛び交ったり。ホント、この勢い、怖い。逃げたい。けど、逃げ場が無い。……なんて怯えてたら、バタバタとまた廊下を走るような足音がして、スパァン!と襖が開く。あれ、デジャヴ。でもそこに立ってたのはさっきトイレに行くって言ってたヤツで、息を切らせたそいつの手には一枚のメモ。

「まっっってマジあのイケメン何者なんだ?!俺らの呑み代、シレッと払って帰ってる!!」

「は?!」

更に燃え上がるようにザワつく室内。メモには『煙草の礼に払っとく。自由なうちに人生を謳歌しとけ学生ども。メリークリスマス』と、確かに晴信さんの文字で書かれていた。うわー、気障ァ……

「こうなったら全部吐いてもらうわよ?!」

「密かに森くん狙ってたのに!!こんなの無理じゃんヤケ酒よ!!」

「つーことで、お前は逃がさねぇから覚悟しろよ!!」

「森に言ってた『手合わせ』とか『ノブナガさん』だっけか?の、話も詳しく話してもらうからな!!」

結果、詰め寄られる俺。怖い。逃げたい。でも逃げられない。多分コレ吐いたらそれ知った長可に殺されるヤツ。ただでさえ手合わせも半殺しレベルのやり合いになるの確定なのに。俺死んじゃう。長可狙ってたって女子には、まぁ。心の中で合掌。嗚呼、無常。名無。

「マンドリカルドー?!」

現実逃避していた思考を引き戻す、俺に覆い被さるようににじり寄ってくる人の影、影、影。

「ヒッ、ちょ、まっ」

慌てて後ずさろうにも、元々角隅に移動していたから、マジで逃げ場がぬぇー!!

「まーちーまーせーんー!!」

「ア゙ーーーーーーーッ!!」


聖夜に汚い俺の悲鳴が響いたのは、ホントにすんませんっした。いやでもコレ俺は悪くないっすよね?






おまけ(晴信視点)


帰宅して、ベッドに長可を放って、ようやく酒臭さからも重さからも解放され、息を吐く。この状態で風呂は危険だし、最悪このまま寝落ちても、服を脱がすくらいならどうにかできるし。帰路の車内で寝ていたからなのか、少しは目の覚めた長可がコートを脱ぎ捨ててベッドの下に放り投げたのを拾って、ハンガーにかけてやる。……風呂に入って俺も寝るか、と部屋を出ていこうとすれば、のそ、と起き上がる気配。

「……シねぇのかよ」

不満気というか、物足りないとでも言うような声。少し拗ねたような、甘えたような。そういうところが可愛いとは思うのだが、ぐ、と拳を握って衝動をこらえる。

「酔っ払いのガキを相手にする趣味もないんでな。お前は大人しく寝てろ」

フン、と鼻を鳴らして応えれば、ごろりとベッドに大人しく横になって、けれども腕をこちらに伸ばしてくる。

「クリスマスプレゼントは俺だ、つってもか?」

ニタリと笑う恋人に、ため息ひとつ。

「どこで覚えてくるんだ、そんな煽り方」

「ンな事より、どうすんだよ」

ほれほれと手をヒラヒラ揺らす長可に向かってもう一度ため息を吐く。

「……先に風呂に行かせろ。戻るまで起きてたら、考えてやる」

煽り返すように笑ってそう応えれば、漸く満足したのか、ベッドの上にポス、と長可の腕が落ちる。

「んじゃあ早く行ってこいよ」

「引き止めたのはお前だろう」

「細けェ事言ってんじゃねぇよ。早く行って、早く来い」

クツクツと、悪戯でもするように笑いあって、こんなじゃれ合いみたいなやり取りをして。今年も愛する者と過ごす夜を共にして。

鮮やかな夜は過ぎ行く。

コートのポケットには、小さなギフトボックス。中身は若草色の髪紐。髪留めを贈る意味は『一緒に居たい』という意思表示。そんな事、あいつが知るはずもないが、それでも。もし起きていたら今結んでやろうか。寝ていたらナイトテーブルの上に置いておこう。サンタクロースなんて信じる柄でも歳でも性格でもないが、それでも。愛しい恋人に、誰よりも幸せを贈るのは俺でいたいから。


そうして、雪の降りしきる聖夜は過ぎ行く。

熱く、甘い想いを更に灯して。

Report Page