現パロ景♂晴5

現パロ景♂晴5


ギャラリーに来るのは初めてかもしれない。そう思いながら扉をくぐる。

ビルの中にあるそのギャラリーは、若手の芸術家を支援する意味も込めて定期的に個展を開いているそうだ。

今日は招待券を貰った個展に来ている。送り主は晴信の下の弟君。確か私より2つか3つ年下だったと思う。

(上の弟君は私より年上でしたっけ・・・?)

年の差がある兄弟だという事は覚えている。そして、その弟君たちを大切にしている事も。

(晴信自身はあまりお父君と仲が良くない・・・でも、弟君たちはそうでもなかったはず。まあ、私も姉以外とは疎遠ですが・・・)

お互い、家族に対しては思う所もあり、その手の話題は避けてきた。

(いけない・・・こんな事を考えるより、目の前の芸術を楽しみましょう。せっかく、招待して頂いたのですから)


展示されているのは人物画がメインで、精細な筆致で描かれたものが多い。

(うわー、細かいです。1枚描くのにどれくらい時間がかかるのでしょうか?)

「おや、長尾くん。ここにいましたか。本日はお越しくださりありがとうございます」

「・・・えっ?あっ、お久しぶりです。今日はお招き頂きありがとうございます」

声を掛けてきたのは上の弟君だった。

「いらしてたんですか?」

「信廉は招待客の方々への対応がありますので、一般の方への対応はこちらで引き受けようかと思いまして」

「なるほど、結構人が多いですもんね」

混雑していると言う程ではないが、人が少ないと感じる程でもない。

「あれでも一応、子供の頃からコンクールで賞を獲ったりしていましたからね。以前から見に来てくださっている方もいます。・・・・・・家の付き合い上、お呼びした方々もいらっしゃいますが・・・」

心底うんざりした顔で言うので、相変わらず大変なのだと思い知る。

「それは置いておいて、1人にしてしまってすみません」

「あー・・・「招待客として誰を呼んだかは大体予想がつく」とは言っていたので、覚悟はしていましたよ」

会場に入って幾らもしないうちに晴信は招待客の一部に捕まってしまった。相手が相手なだけに断り辛く、そのまま下の弟君と2人で対応中だ。

「流石は兄上・・・いえ、今はそういう事を言っている場合ではないですね。一通りぐるりと見て回りましょう。少し手伝ってほしい事もあるので・・・」

「?・・・私でお力になれるのでしたらお付き合いします」

何か考えている事があるようだ。せっかくの外出なのだから目一杯楽しみたい。そのためなら多少の労力はやぶさかでない。

たまに制作中の話なども聞きながら見て回る。ある意味、解説付きで展示を見ている様なものだろうか。


「では、手筈通りに」

「分かりました」

そう言って離れていくのを見送る。作戦は上手くいくだろうか?どきどきする。

話をしている集団の目線がこちらを向く。頭を下げると、驚いた空気が伝わってきた。

「すみませんが、私はこれで失礼します。・・・バックヤードにご案内すればいいんだな?」

「はい兄上、急にお願いして申し訳ありません。よろしくお願いします」

「いや、気にするな。しかし、代理の方を寄越されるくらいお忙しいとは・・・」

「ええ、本当に」

「上杉家にはだめもとで招待状をお送りしていたのですが・・・来て頂けただけでもありがたい事です」

「そう思う事にするか・・・おっと、あまりお待たせするのも悪い。じゃあな。信繫、信廉」

「後で私たちもご挨拶に伺いますね」

「本来なら僕が一番に対応しなくちゃいけないのに・・・お任せします、兄上」

晴信がこちらにやってくる。そのまま2人で裏口から会場を出てバックヤードの1室へ向かう。


「あ゛ー、面倒だった」

部屋に入るなりソファに沈み込むのを見ると、余程苦労する相手ばかりだったようだ。

「いい加減うちの事に首を突っ込もうとするな。どいつもこいつもおこぼれ目当ては相変わらずか・・・」

愚痴が止まらないのを見ながら、置いてあったお茶を入れる。

「お疲れ様です。お茶入れましたが・・・」

「飲む・・・」

少し冷ましながら飲んでいるのを確認して、自分も口をつける。美味しいですね、これ。

「・・・備え付けのじゃなくて、実家から持ってきたやつだな」

「そうなんですか?」

「あいつらなら茶葉の持ち込みくらいはするだろう、好みもあるし」

「なるほど」


とりとめのない事を話しながらお茶を飲む。

「ところで、『合図をしたら会釈して下さい』とだけ言われたので、ああなったのですが・・・」

作戦はシンプルだ。『自分が話をしに行くので後はタイミングを合わせてくれればいい』それだけ。

「それで急に上杉家の名前が出てきたのか・・・」

「確かにうちの本家ですが・・・そんなに効力ありました?」

「あの中ではかなり効く部類だな」

「そうですか・・・」

「実家の事にはほぼ関わってないもんな、お前」

「私、末っ子ですしね。晴信と初めて会った日もそうですよ。インフルエンザでダウンした相手の代わりでしたし」

「そうだったのか!?」

もの凄く驚いた顔をされる。そんな反応が返ってくるとは思わなかった。

「でも、そのおかげで晴信と出会う事が出来ましたし、それが今に繋がる訳ですから、誰かの代わりをするのも捨てたものではないですね」

「・・・あの頃の俺は、一体何をやって・・・」

「晴信?」

「・・・いや、なんでもない。こちらの都合に巻き込んで悪かった」

「そんなに気にしなくてもいいですよ?」

「・・・せっかくのデートなのに?」

「うえっ!?」

「そう思っていたのは、俺だけだったのか・・・」

傷ついた様子で言うので、申し訳ない気持ちになる。

「いやっ、ちがっ・・・デートで合ってます・・・」

理由はどうあれ、2人で時間を作って出掛けるのだからデートが正しい。

「今日の食事は、お前の奢りで手を打ってやろう」

「お好きな店をお選びください・・・」

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