現パロ地獄のオメガバ

現パロ地獄のオメガバ



イスカリ君はΩであとの登場人物は全員α

ずっと薄暗い誰も幸せになれないタイプの話

うっすいけど性描写がある





 目の前が真っ白になって足元から世界が崩れていくような心地だった。

 実際には世界は崩れたりなんかしなかったし、茫然としていた意識も徐々に落ち着きを取り戻して、目の前に迫る現実と向き合うしかなかったのだが。どれだけショックなことがあっても残酷なまでに世界は変わらないし、空腹は訪れる。そんなものだ。

 それにしてもこれからのことを考えなくてはならない。一定の年齢になると検査が推奨(という名の義務)されるバース診断をなんの疑問もなく受け、どうせ大多数と同じようにβだろうと高を括っていたが、結果の項目に刻まれていた記号はΩのそれだった事が僕を悩ませていた。

 共に暮らす家族は皆αだ。番の有無までは聞いていないが、どちらにせよ一つ屋根の下で暮らすのは気が気でないだろう。

 テスカトリポカ。赤ん坊だった僕を育ててくれた義父。横暴に見えて真面目で律儀な偉大な人。

 トラロック。物静かで時に厳しい物言いをするけれど暖かい慈愛で見守ってくれる義姉。

 デイビット。あまり考えが読めないけれど、その実ただ善くあろうとする器用で不器用な義兄。

 みんな大好きだった。だからこそ一緒には居られないと思った。αがΩに対してそうなってしまうように、彼らが我を忘れて襲い掛かってくるなど考えたくもなかったし、彼らだってそんな事をしたくないだろう。

 足取りが重い。家に帰れば家族が居る。家族が居たならば、話さなくてはならない。それが憂鬱に感じる日が来るだなんて思ってもみなかったのに。

「ずいぶん暗い顔をしているね、イスカリ」

「……なんだコルテスか」

 不意に声を掛けてきた男は何が可笑しいのかいつもの軽薄な笑みを浮かべていた。

 ただの学校の先輩でしかないこの男は、何かにつけまとわりついてちょっかいを掛けてくる困った奴だ。今のこの落ち込んだ気分の時に見たい顔ではない。

「悩み事かい?では頼れる先輩に相談してみてはどうだろうか」

「そうか。ではアドバイス通り頼れる先輩を何人かリストアップしてみるとしよう」

「相変わらずつれないな……そんなにΩだったことがショックだった?」

 断りもなく肩に回された腕を振り払って、それに少しも怯まなかったコルテスが急に耳元に顔を寄せて囁くような潜めた声で信じられないような事を告げてきた。

「お前…!それをどこで!?」

 第二性は極めてプライバシー性の高い情報だ。当然扱いは慎重になる。当人ですら知ったばかりのそれを、何故コルテスが知っているのか。

「なんだ本当にそうだったのか」

「あ……、」

 あっさりとされた種明かしに目眩がした。こんな単純な方法に引っ掛かってしまうだなんて。

 よりにもよって一番知られたくない相手に真っ先にばらしてしまった愚かさに鼻の奥がツンと痛くなる。

「君は腹芸のできない子だな」

「うるさい、」

「そう泣かないでくれ。君に提案があるんだ」

「いらん、帰れ」

「私の番になってほしい」

「………………は?」

 見上げたコルテスの顔は初めて見るような真剣な表情で、これがあの軽薄な振る舞いをする男と同一人物なのかと疑うほどだった。

「ビジネス番って聞いたことはあるかい?お互いの利益だけで繋がる番だ。Ωは発情期に、αはそれに当てられないために。愛ではなく契約で繋がるというわけさ」

「だがそれは、」

「そう。Ωにαを縛れない以上偏った契約だ。だが愛なんていつ冷めるともしれないものよりは余程信頼できると思うけどね、私は」

 Ωにαは縛れない。それは通常の番だって同じことだ。だが、本当にこんな簡単に決めてしまっていいのだろうか?

「どうかな?発情の勢いで誰とも知れない相手だとか、性欲を持ち込みたくない相手と番うよりはマシだろう?」

 そう言われて家族三人の顔が思い浮かぶ。もし万一の事が起こったとして、番を続けても解消しても今までと同じ関係ではいられないだろう。それは末恐ろしい予感だった。

「大切なことだ。よく考えて答えを出してくれ。だができれば、発情期が来る前にね」

 コルテスがごく自然な手付きで首筋を一撫でして去っていく。金髪を揺らす後ろ姿が完全に見えなくなるまでその場に立ち尽くしたまま動けずにいた。

 それでも重い足を引き摺りなんとか辿り着いた自宅の前まで来てまだ僕は躊躇している。迷って、悩んで、考えているうちに、ドアの方が勝手に開いた。両手に大荷物を抱えたデイビットがきょとんとした顔で僕を見下ろしている。

「遅かったな」

「まあ、少し……その荷物は?」

 億劫そうに肩でドアを支えているのを見かねて手伝ってやりながら、誤魔化しついでに尋ねた。

 なんだかいつもと比べて浮かれた雰囲気のような気がする。

「鍋パだ」

「鍋パ」

「うちにはでかい鍋があるからな。俺は鍋担当だ」

「そうか……」

 普段は表情の変化に乏しい人だが、今日はよほど楽しみなのだろう。足取りも軽やかにデイビットは僕の横を通り過ぎて行く。きっと友人達と充実した時間を過ごすことだろう。

「おかえりなさいイスカリ。今日は遅かったの、ね」

「ボーッと突っ立ってどうした?」

「いえ、……ただいま帰りました」

 皆暖かく迎えてくれるけれど、この家族の中に血の繋がりは一つもない。お互いがそうありたいという気持ちだけで僕達は繋がっている。

 だからこそ困らせたり傷付けたりはしたくなかった。




 結局家族には何も言い出せないまま、コルテスに承諾の旨を告げた。彼が言った「嬉しいよ」という言葉が嘘か本当かは分からない。けれど本当であればいいと思う。

 それからは発情期の訪れに怯える日々が

始まった。何かの間違いかもしれないのだから来るなと思いながら、いっそ早くトドメを刺して欲しいとも思う。

 だから朝から妙な倦怠感で重い体が、下腹部にじんと広がる熱が、恐怖と同時に安堵をもたらした。

 体の奥は熱いのに指先は凍えたように冷たい。だからもつれる指で何度も間違えそうになりながらコルテスに電話を掛けた。

 迎えに行くから打ち合わせ通りに。そんな短いやり取りだけで僕にとっては一世一代の計画が始動する。

 普通に登校するフリをして、学校には病欠の連絡を入れる。どうせバレやしないとコルテスは言っていたが本当に大丈夫なのだろうか。

 そして指定された場所で待っていると、近くに何やら高そうな車が停められた。運転席に居るのはコルテスだ。

「車を持っていたのか」

「親のお下がりだけどね」

 16歳から免許が取れる事は知っていたが実際に同じくらいの年頃で運転している様を見ればさすがに驚く。

 指先で示されるままに助手席に座ってシートベルトを締める。慣れない位置だということを差し引いてもなんだか落ち着かない。

「どうかした?」

「女の匂いがする」

 隣でコルテスが盛大に噎せていたが、そんなことよりも自分の口からそんな言葉が発せられた事が衝撃だった。

 僕にとって最も身近な女性は義姉だ。彼女は香りにも気を遣っているらしく、いつもシャンプーや香水の爽やかな香りを纏っている。それをいい香りだと感じた事はあっても不快に思った事は一度もない。

 この助手席に微かに残る香りだって同じように人工的なそれだろう。それを女の匂い、だなんて。どうしてそんな品のない言い方をしてしまったのか。

「その、芳香剤だと思うんだけどね、ごめん苦手だった?」

「いや、すまない。今のは不躾だった」

「驚いただけだから気にしないでくれ」

 そうして時間を潰し、家に誰も居ないタイミングを見計らって纏めていた荷物を担いだ。それからサークルのみんなとキャンプで星を見るから今日は帰らないとメッセージを作成して夕方頃に届くよう予約しておく。

 幼い頃から星を見上げるのが好きだった。いつもそうしていたら誕生日に望遠鏡を買って貰って、それが一番の宝物になった。今の学校に入学してからは天文サークルに入って、夜遅くに活動することは珍しくなかった。

 それを今、嘘に使っている。

 部屋に残っていては疑われるからと望遠鏡をコルテスの車に積み込んだ時は、これから好きでもない男とセックスをするために幼い頃からの思い出を嘘の材料にしているという罪悪感で吐きそうになった。

「……どこまで行くんだ?」

 助手席で流れる景色を眺めながらコルテスに尋ねる。どうしても運転する彼を見れそうにない。

「少し遠いよ。知り合いに会うのは嫌だろう」

「……そうだな」

 それきりお互い無言のまま、車は知らない街の知らないモーテルに入って行く。片手にレジ袋を下げたコルテスに手を引かれながら歩いて、微かに震える指先がこの男も緊張しているのだと伝えていた。

 コルテスに連れられて入った部屋は、思ったよりは何の変哲もない部屋だった。普通のホテルとそう大差ない。

「もっとケバケバしいと思ってた?」

「なっ、」

「そういう所もあるけどね、いきなりは連れていかないよ」

 それは、まさか次回を想定しているのだろうか。

 などとぐるぐる考えているうちに、レジ袋から違うサイズの箱を二つ取り出して渡される。

「これは?」

「簡単に言うと妊娠しにくくなる薬。そっちは妊娠検査キット。ゴムは用意したけど確実ではないからね」

 生々しすぎて目をそらしていた部分を急に突き付けられて頭がガツンと揺れた。それが必要になるとうっすら察していながらも、コルテスに押し付けていたのだと思い知る。

「それと、これだけは約束して。もし子供ができてたら必ず私に言ってくれ。君は一人で塞ぎ込みがちだから気掛かりでね」

「……分かった、約束する」

「ありがとう」

 ほんの数歳年上なだけなのに、僕に比べてずいぶんと筋肉質な腕に抱きとめられる。それだけで体の奥深く、今まで一度も意識したことのない部分がうねって自己主張を始めていた。

 抱擁を解かないまま驚くほど丁寧にベッドに寝かされ、指先が好き勝手に髪や肌を擽る。それが心地よくて、擦り寄った男の胸元で息を一吸いするだけで頭に靄が掛かっていく。

「Ωの発情はαを求めての生理現象だ。私がこうして呼び水になれればいいんだが……どう?」

「コルテス……、」

「なんだい?」

「っ……、コルテス、コルテス……、」

「……うん、嬉しいから沢山呼んでくれ。今から君を抱く男の名だ」

 服の裾から男の手が侵入してくる。裸の背をなぞりながらシャツを脱がされ、冷えた空気に身を震わせるよりも早く男が割り込んで来た。

 溶けた碧の眼に見下される。いつもの余裕綽々の顔はどうした。愛ではなく契約で繋がると言ったのはお前だろう。だったらせめて、それらしい顔をしていてくれ。とっくに体はぐずぐずなのに迷いそうになる。

 だから目を閉じ、顎を上げ、全身から力を抜く。くれてやると決めたのだから、さっさと奪い取ってしまえ。なんだか生贄めいているなと他人事のような感想が思い浮かんだ。

「はは、ずるいなソレ。まあ体だけでもくれると言うならありがたく貰うが」

 昂った体を暴かれるのは気持ちが良かった。恐怖も罪悪感も全部快楽に塗り潰されて見えなくなる。このままずっと繋がって溺れていたい。

 コルテスにうなじを食い千切らんばかりに歯を立てられた瞬間はその刺激だけで達した。そのまま揺さぶられるものだから意識が飛びそうになって、また無理な快楽で引き戻される。

 裸の胸に抱かれて眠りに落ちながら、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。




 ほとんど一日中交わった後は泥のように眠り、モーテルを後にする。

 家まで送るという提案を固辞して途中で下ろしてもらい、使いもしなかったキャンプ用品を背負って歩く。

 僕だって火照って気怠い体で歩きたくなんかない。けれど家族にコルテスの車から降りるところを見られた時になんと言えばいいのか思い付かなかったからだ。

「ただいま帰りました」

 家の中はシンと静まり返っている。誰も居ないのだろうか。

「おかえりなさい、キャンプは楽しかった?」

 スゥと全身から血の気が引く。スリッパの音を鳴らして階段から降りてくる義姉は寛いだ格好をしていた。自室でゆっくりと過ごしていたのだろう。

「はい、とても。ですがさすがに少し疲れたので夕方まで仮眠を取ることにします」

「待ちなさい」

 突如として声を尖らせた義姉が眉を釣り上げて掴み掛かってくる。あっさりと体を折り畳まれた痛みに呻いているうちに襟を力任せに引っ張られ、剥き出しのうなじを義姉の指が撫でていった。そこにはまだ真新しい歯型がくっきりと残っているはずだ。

「どういうことなの?イスカリ、ちゃんと説明しなさい」

「こ、れは、」

 ゆるんだ拘束から抜け出しても胸の中心がズキズキと痛みだす。青褪めた義姉の、震える声音が恐ろしい。

「お願い、ちゃんと答えて。あなたは……Ωなの?この首の傷痕は、じゃあ、」

「……確かに僕はΩです。でも、番を得ましたから。姉様達を発情期のフェロモンで惑わせるような愚行は、」

 乾いた破裂音がした瞬間視界が大きく揺れた。遅れて左の頬がだんだんと熱くなって痛みを訴えだす。そうか、叩かれたのか、僕は。

「馬鹿なことを言わないで!私たちがそんなことであなたを嫌いになる訳がないじゃない……!」

 義姉は黒い瞳いっぱいに涙を溜めていた。あんなにも優しいひとを、泣かせてしまった。

 正しいと信じてやった行動だったけれど、僕は何かを間違えたのだろう。きっとそれで彼女をひどく傷付けてしまった。

「ごめんなさい」

 自然とそう口にしていた。

 義姉はとうとう泣き崩れて、僕はどうしたらいいのか分からずその場から一歩も動けずにいる。良かれと思ってやった事でまた義姉を傷付けてしまうかと思うと怖くて何もできなかった。

 視界の端に望遠鏡が転がっている。きっとあれを覗く日は二度と訪れない。





■イスカリ

Ω

生真面目で融通の利かない思春期少年。学校での成績も優秀だと思うよ。

自分に向けられる好意に対して破格の鈍さを誇る。誇るなそんなもん。

これでいいはずだと判断して金髪の男を受け入れたばかりに大変な事態を引き起こすというどっかで見たムーブをしている。でも脅されたのでも力ずくで無理矢理されたのでもなく全部自分で選んで決めたことだからね。

かつて自分とよく似たモテクソマという血縁者が居たことは知っている。


■コルテス

α

陽キャの皮を被った高湿度男。実はボンボン。

幼い頃に出会った人に似てるな?と思ったことがイスカリにちょっかい出すようになったきっかけ。イスカリには見せないようにしていたけど彼がΩだと知ってからはめちゃくちゃ焦ってた。

できる男なので薬局に行った時に湿布と氷嚢を買っている。その推察力は別の所に生かせ。

イスカリを見ているとぼんやりモテクソマを思い出す。


■テスカトリポカ

貫禄のα。絶対αだという確信がある。

イスカリ、デイビットの養父でトラロックの義兄。イスカリのことは乳幼児から育てているが、その頃から容姿が変わっていない。

イスカリのことはΩかもなあと思っていたら爆速で番を作ってさすがに頭を抱えた。最終的には当人の決断だと口出ししなくなる。

モテクソマとは多分上司部下とかそんな感じ。

イスカリを見ているとうっすらモテクソマを思い出す。


■トラロック

α

テスカトリポカの義妹。しかしテスカの養い子二人には姉扱いをさせる難しいお年頃。

イスカリがΩであることはなんとなく感付いていて、相談されたらちゃんと答えてあげなくちゃ…と構えていたらまさかのアンブッシュにキレた。イスカリはビンタだったけど相手の方は拳も辞さない。

イスカリを見ているとなんとなくモテクソマを思い出す。


■デイビット

推定α。でもαβΩのいずれでもないかもしれない。だってデイビットだし…。

仲の良い四人で居るとよく問題児×4扱いされるが問題児なのは藤丸とカドックとキリシュタリアだけだと思っている。鍋パは楽しかった。

イスカリがΩであるとほぼ確信していた。でもバースがなんであれ家族じゃなくなる訳でもないのでスルー。

モテクソマ…?知らん…誰それ?


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