王下七武海“セイレーン”

王下七武海“セイレーン”


その日偉大なる航路のとある島で略奪行為が行われていた。


世界政府非加盟国であるその島には海軍による救いの手もなく、ただ蹂躙され、奪われるしかない。


「お頭!だいたい積み終えましたぜ!!」


「よっしゃあ!野郎共出航だ!適当な島で宴といこうじゃねえか!!」


偉大なる航路で最近目立ち始めた海賊団、その頭は一億にこそ届かないもののルーキーとしては破格の懸賞金がかかるほど海軍から危険視されていた。


そんな海賊達に目をつけられてしまった島はただ運がなかったとしか言いようがなく、この世界の日常としてただ海賊団の悪事の一つに数えられて終わる。


囚えられ、船倉で啜り泣く女子供もヒューマンショップに売られるか、慰みものになるか……その二つしか未来はない。


「頭!船みたいなのが見えますぜ!」


はずだった。


「海軍か!?」


「いや、違うみたいでさあ!海賊旗も見えません!」


「海軍でも海賊でもねえ船か!そりゃいい!野郎共もうひと働きだ!!あの船からも略奪しちまうぞ!!」


船長の号令に暴れ足りなかったと言わんばかりに船員達が雄叫びをあげ、海賊船は全速力でその船へと近付いていく。


「……なんだありゃ」


その船を見た海賊達が思ったのはまずそれだ。


丸い形をしたそれは帆がなく、マストすら見えない。


まるで大きな卵のようなそれは本当に船なのかさえ疑わしく思えてくる。


「とにかく寄せろ、ここまで変わった船なら中にはお宝が……」


「あれ?頭、なんか聞こえ……」


※※※※


「ひっく、ぐすっ……」


船倉は相変わらず捕まった人々の嘆きで満ちていた。


先程歌が聞こえてきて、きっと海賊達が盛り上がっているのだろうとますます空気は澱んでいく。


その時、啜り泣く声に紛れてドアの開く音がした。


誰かが連れて行かれるのか、何にしたってろくな事ではないだろう。


そう絶望した人々の前に


「助けに来たよ!!」


救いの手は差し伸べられた。


※※※※


「何が、起きてやがる!?」


海賊団の頭は今起きている事がまるで理解できないでいた。


急に船員達がバタバタと倒れ始めたのである。


息はある、しかし全く動かない部下達を叩き起こそうとした頭は、船が動き出すのを視界に捉え即座にこの事態はあの船の仕業だと結論づけた。


「無事なやつは大砲準備しろ!!あの船を今すぐ」


「か、頭、誰かいます!!」


部下の叫びに思わず船の方に向き直った頭は船の上部が開き、中に誰かがいるのを視認する。


まるで音楽のステージのような甲板に立つのは黒い服を着た女。


こちらを冷たく睨みつけ、歌声を響かせる女に頭はそれが誰かも知らないのに、その正体を口にしていた。


「セイレーン……」


既に勝敗は決している。


セイレーンの歌は、海賊への怒りをこめた逆光となって海賊達の未来を影で覆い尽くしていたのだから。


※※※※


「お、おい海賊船が戻ってきたぞ!?」


先程海賊達に襲撃された街の住民達は悪夢が舞い戻ってきた事に恐怖を抱く。


しかし港にとまった船の中から攫われた家族や恋人が降りてきた事で恐怖は困惑へと移り変わった。


「おとうさーん!」


「な、なんで…海賊達は!?」


「いつの間にかいなくなったの!真っ白い天使様が助けてくれたんだよ!」


「天使様……?」


※※※※


「はい、じゃあこの海賊達は引き渡すから懸賞金は後で持ってきて」


海軍支部に海賊を引き渡した女は財宝などを乗せたまま船を戻した街に思いを馳せる。


攫われた人達、奪われた金品などは返せたがきっと犠牲者は出たし街そのものも破壊されただろう。


「もらった懸賞金から修繕費用とか送って、後は……」


世界政府に認められた海賊への脅威たる海賊、政府の狗とも揶揄される抑止力。


王下七武海“セイレーン”ウタは犠牲者に捧げるかのように、目を閉じ、鎮魂歌を口ずさんでいた。

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