猫天与編幕間:食呪編⑤

猫天与編幕間:食呪編⑤


「・・・ここまでこれば一安心であろう」


「クゥン・・・」


占犬はほっとしたのか息をついている、すると六月の不安そうな瞳が空鼠を覗いた。


「・・・空鼠はここからどうするの?」


「我は猫天与の所に戻り助太刀をする・・・なんとしてもあれはここで仕留めなくてはならぬ」


・・・しかしながらあれは毒兎達を吸収しかなりの力を得ておりはっきり言って勝てるかどうかは空鼠は分からなかった。


(・・・だとしても、やらねばならぬ)


倒せるか分からないでは無い、倒すのだ、今ここで空鼠達が負けたら六月達は瞬く間に殺されるであろう。







※※※





「・・・空鼠」


ー本当にこれでいいのか?


ーこのままおめおめと空鼠達に押し付けて自分は逃げて本当にいいのか?


(・・・だって・・・私に何ができるっていうの?)


『桜宮六月』はこの場においては本当に無力なただの人間にしか過ぎない。

そんな彼女が何をしようとそれは唯の無駄・・・なんなら邪魔にしかならないのだ。


ー理屈なんかどうだっていい


(・・・え?)


ー「お前」はそれで満足なのか?


(・・・・・・そんなの)


ああ、そうだ、決まっている・・・






満足なわけがない。

納得できる訳がない。

友達を奪った相手をそのままのさばらせておく事も・・・


(・・・何より、あんな奴に舐められたまま終わるなんて・・・)


ー腹が立ってしょうがない!!


「・・・空鼠」





※※※





六月は猫天与に触れて猫天与の鼓膜を再生させる。


「ヨウ・・・やろう、またあの時の合体を・・・!」


「あの時の合体だと・・・!?だがあれは・・・!!」


夢馬の事件が起こった後、またあの合体ができるのか試そうとしてみたが結局は合体する事が出来なかった。


「一か八かでもやるしか無いよ!それに・・・ここで逃げたら・・・多分私は一生自分を見て生きる事が出来ない!自分に誇れる生き方なんて絶対に出来なくなる!!」


「ー!!」


六月は猫天与に頭を下げる。


「だからお願いヨウ!・・・私と一緒に戦って!!」


「・・・六月」


猫天与の脳裏にあの夢での出来事が浮かび上がる。


(・・・本当にこいつは・・・俺の知らない所でどんどん強くなりやがってよ!)


ー桜宮六月から大量の呪力が猫天与に注がれ、

猫天与の肉体が溶ける。







※※※






「ヒャハハハハハハハハハハ!!!本気を出した私を前に下等生物風情がよく持ったと言うべきでしょうねぇ!!」


(・・・これまでか)


空鼠の口から赤い液体が溢れ出す。


「これにて・・・っ!?な、なんだあれは!?」


「・・・成功させたか!!」


白い球体が大きな土埃を巻き上げ愚潤と空鼠の間に割って入った。


『純愛相・・・極の番・・・!』


少年と少女が重なって声が球体から発せられ球体の形は獣人の姿へと変わっていく。


『一心相愛形態・・・究極業魔日食!!』


猫天与と六月改め・・・究極業魔日食がその姿を露わにした。


「な・・・な"んだその力"は"ぁ"!!!!」


『・・・この力が何か?』


日食はゆらりと姿勢をあげ鋭い視線を愚潤に向ける。


『テメェを地獄に送る力だよ、人間の残りカス野郎』


「ず・・・頭"に"乗"る"な"ぁぁぁぁぁ!!!」


愚潤は奇声を上げながら地面を蹴り上げ日食へと迫り怒涛のラッシュを仕掛ける。

だが日食は余裕の表情を保ちながら下半身を一切動かさず上半身だけを動かしてラッシュをその場から動かずに全て回避していた。


「こ、こんな馬鹿な・・・!?」


そして愚潤が左手のパンチを引っ込め右手のパンチを出そうとした瞬間に日食は愚潤に踏み込み腹に拳を突き出した。


「ご"ぼ"ぇ"っ"!?」


愚潤の表情が歪み口から血のような液体を吐き出す。

愚潤の身体は鱗によって防御されていたが日食の身体能力から繰り出される拳を防ぎきれなかったのだ。


「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」


愚潤は再びラッシュを仕掛けようと日食に飛び掛かるも・・・


『お・・・ちょうどよかった』


日食は突き出された両手を掴みかかりそのまま腕を重点にしながら軽く飛び上がり・・・


『オラァ!!』


「グア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」


腕を持ったまま蹴り飛ばして肉が捩じ切れる音と共に愚潤は吹き飛ばされた。


「お"の"れ"下"等"生"物"がぁ!!!!」


愚潤は受け身を取り転がりながら立ち上がる、だがすぐさま眼前に日食が現れお返しと言わんばかりのラッシュを喰らった。


「オラオラオラオラオラオラァ!!!」


「ぐっ"!!がっ"!!ぎっ"!!ぐっ"!!!!」


殴られた箇所は次々とへこんでいきでいき骨は皮膚を突き破り血のような液体も次々と滲み出る。


「あらよっ・・・と!!」


日食はグロッキー状態の愚潤を尻尾にて掴みあげて腹を殴り続けた。




※※※





「まずい・・・そろそろ1分経つぞ・・・」


空鼠は日食と愚潤の戦いを見ながら秒数を数えていた。

日食は凄まじい身体能力が手に入るがその間術式は使用不可能になり1〜2分しかその身体は保てず分離する。

そしてその後は動けないレベルで弱体化し二日間元に戻る事はない。


「・・・猫!六月!早くトドメを刺せ!!」


空鼠は大声をあげ時間制限の事は伏せながら暗にそろそろ時間が無い事を告げる。


ーしかしながら彼は・・・いや、猫天与と六月も認識をしていなかった。


日食の最大最悪の弱点を・・・


『・・・もうトドメを?まだ早いだろう?』


「・・・何!?」


日食の身体の間当然人格は猫天与と六月の混じった物となり・・・


「こいつは毒兎達を殺した・・・もっと苦めて殺すに決まってるだろ!」


残虐性も普段より遥かに現れる、それこそ正常な判断ができない域にまで・・・


「なっ・・・!?」


空鼠は絶句した、仮にここで合体が解けた場合占犬を避難させておいた以上もうこの場に戦う力がある者はいない。

・・・つまり今この状況は日食達は追い詰められているのでは無い、瀬戸際に立たされているのだ。


『それじゃあ・・・じっくりと殺ってやろうか!!』


そしてそれが命取りとなるのであった・・・







・・・本来ならば


「ぐ・・・おえええええええええええ!!!!」


愚潤は先程から抑えきれなかった吐き気がついに限界に達し体内のある物を二つ吐き出した。


「・・・っ!!しま・・・っ!!」


愚潤の焦る声と共に愚潤の頭部が竜の物に変化し千切れた蛇の腕が根本から無くなる。


ー吐き出されたのは毒兎と酒蛇だった


「ヒャ・・・ハ・・・」


「ぐ・・・う・・・」


『・・・へぇ、なるほどなぁ』


日食は尻尾を更に締め上げ両腕を構え・・・


「オラオラオラオラオラオラァ!!!!」


怒涛のラッシュを見舞った。


ー巨竜を吐き出して愚潤の頭部が人のような物に変わり羽が消える。


ー忍猪を吐き出して下半身が普通の物に変わる。


ー音鳥を吐き出して嘴型のメガホンと鶏の羽が消える


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!私の!!!俺の知性が消えていく!!嫌だぁ!!!」


愚潤の知性は変牛達を吸収して出来た物である、当然ながら変牛達が居なくなるとその知性は完全に失われる。


『アバよ愚潤ゥ!!』


そして日食の拳が愚潤の腹部に突き刺さり・・・




「嫌"だ"あ"あ"あ"あ"あ"あ".!!!!!!」



変牛が吐き出され愚潤は姿を保てなくなり緑色のスライムのような姿になる。

尻尾かずり落ちて逃げようとする愚潤に日食は拳を構え・・・


『完全に・・・消えやがれぇ!!!』


獣跳: 月陽桜



光線のように放たれた拳は愚潤の身体を一つの欠片残さず蒸発させた。







そしてそれと全く同時に日食の姿も猫のようなスライムと幼い少女に別れるのだった。

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