猫はしっぽの付け根をトントンされると気持ちいいらしい
「というわけでやってみたい」
「いやいきなりなに?」
後ろから抱きしめられて、「フェリジット…いいか?」と囁かれて、ああ私、シュライグに抱かれちゃうんだ…と熱に浮かされたと思ったらこれである。
せっかく雰囲気あったのに!
なんでこう余計な一言があったり必要な言葉がなかったりするのだろう。
もー、ムードもへったくれもない…と抗議しようと振り向いた唇は、でも叶わずに彼の唇に塞がれた―――私の黙らせ方など既に把握されている。
くやしいな…距離を取って口喧嘩したら絶対に勝てるのに。
「ん…ぅ、ふ……」
軽く触れ合うだけだった口と口は、いつしかその内側から、舌と舌で絡み合っていた。
ちゅっ、じゅる、とお互いを貪る度に水音が耳をくすぐる。誘うように少し引くと、それに答えてシュライグが深く入り込んできた。
どうして彼に押し入られるのは、こんなに心地いいのだろう。中をまさぐられ、小鳥のようにつつかれて思わず震えてしまう。
シュライグの手は腰から尻へ。
大きくて暖かい手は、まだ許可を待つように添えられるだけ。
(もう、今更…。エッチならいいに決まってるのに)
いいよ、の代わりに強く吸い付いた。
しかし、触られたのは予想外の場所。……いや、前の会話から察するべきだった。
「ん…っ、ん…!」
口を塞がれたまま、熱く息を漏らしてしまう。
しっぽの付け根をとん、とんと軽く叩かれる。そのリズムに合わせて声が出てしまうのだ。
声だけではない。腰が動くのを抑えられない。
もっと、もっとといやらしくくねらせて突き出してしまう。
「ぷはっ…、シュライグ、そこはいいって言ってな、あっ」
「なるほど。知らなかった、こうなるのか」
楽しそうに言いやがる。逃れようとするも、背中から腰にかけてがっちり抱かれて、尻は彼の指にされるがままだ。結果的にやっぱりくねる形になる。なにより気持ちよくて逃げられない。
「はっ…ああ、だめ、そこ、弱いの」
「みたいだな。フェリジット、かわいい」
「も、う…覚えて…ひゃあっ!?」
今度は耳に熱い息をかけられた。もうやられたい放題だ。
びくびくと反応してしまうのに、力が抜けてしまう。もう好きにして、と体を預けた。
腰を抱いていた手は頭を支え、再び口付けされる。しっぽの付け根は手のひらで包まれ、強くさすられる。そしていつの間にか壁際に追いやられていたようで、回された腕ごと壁に押し付けられる。脚と脚の間には彼のももが割入り、服ごしに秘部を刺激された。耳に首筋に腹まで羽でくすぐられて。
「んっ…!んんぅ、んぁっ、はぁぁ…っ」
もうなにがなんだかわからない。気持ちいい。そこら中気持ちよすぎる。まだお互い服も脱いでいないのに、私はぐちゃぐちゃになっていた。
ふと、下腹に熱いものが触れる。
服ごしでもわかる。焦らされているのは私だけではないようだ。
「シュライグ…」
もう待てない。早く、もっと触れ合いたい。
彼の上の服に手をかける。
シュライグも、私を脱がせにかかった。
下着も取り払われ、谷間に汗の粒を浮かべた乳房が剥き出しになる。
ベッドに押し倒され、揉みしだかれ、頂をちゅうっ、と吸われた。そのまま舌先でころころと転がされ、パンツの中にも手が侵入する。電気ショックでもくわえられたみたいにのたうってしまう。優しかった指の動きが強くなって、すっかり把握された弱い場所を擦る。もうされるがまま。喘ぎながら震えることしかできない。
当のシュライグはまだ半裸。上半身だけ脱がせられたが、下はそのままである。それでも薄暗闇に浮かぶ白い身体は彫刻みたいに美しい。
ずっと好きだった彼が今、自分だけを見ていて、自分の身体に興奮していて、こうして夢中で触れてくれている―――その事実でのぼせてしまいそうだ。だからもう余計な隔たりなんて無くして、肌だけで交わりたかった。
「はあ、ぁや、ん、シュ、シュライグも、脱いでほし、い…」
「っは、あとで…な」
まあそうだろうな、と思う。最近のシュライグは、行為のときは言うことを聞いてくれないのだ。
それでも限界が近かったのだろう。またひとしきり乳首を舐ったあと、その布も取り払われた。
そそり勃つ怒張。いつ見ても息を飲んでしまう。嫌悪感しか持てないもののはずだったのに、彼のものはきれいで、愛しいとしか思えない。
そっとキスを落とされる。
「フェリジット…いいな?」
来て、と頷いて、彼を受け入れた。
「ぅっ…あ、あ…っ」
その時はいつも少し苦しい。
初めてではないのに、痛みすら感じる。
メリメリメリ、と音が立っているのではないかと思う程の質量を、息を吐きながら受け止めた。
よほど苦しそうにしていたのか、最初の頃はシュライグの方から「すまない、やめよう」と提案されたものだ。―――その度に「私がほしいんだからやめないで」と言って聞かせた。
だからもう彼も引き返さない。ただ労るように、ちゅっ、ちゅと優しく口付けしてくれる。
ベッドの軋む音が響く。
ゆっくりだった抽挿は早く力強いものに。
パンッパンッと肉と肉がぶつかり合う音も加わる。
ちゅっ、じゅるっ、ちゅぱ、と少し激しくなったキスの音も、先程から控えめに主張していた。
口と口で。性器と性器で。私達は味わうようにお互いを貪っている。
「んっ、ふぅ、ぅ、んむ…っ、んんっ」
溺れそうだ。
でも離したくない。
酸素の奪い合いみたいに唾液を分け合う。
「ぷはっ…、あっ、シュ、ライグ…、もっと…」
胸と胸がくっついてはすれ違う。
体温が肌が唾液が汗さえも気持ちがいい。
「ちゅ、ん、好き…っ、シュライグ…」
「フェリジット…っ、フェリジット、好きだ…」
漫画的な表現なら、私の瞳にはハートマークが浮かんでいたことだろう。
「ここ、だな…っ」
「ひあっ、あ、あっ、そ…こ…っ」
もう痛みなどない。
彼がただ心地いい。
思わず下の口をキュッと強く締めてしまう。
「ふっ…っ、フェリジット、きつ、い」
「だ、だっ、て…っ、あ、ああっ…!」
ばちゅん!と深く抉られてはたまらない。
意思に反して、絞り出すように蠢く。
「…っ、まず、もう…!」
「ぅあ、きちゃっ…!」
下腹部が熱い。
シュライグが脈打つのを感じる。
そしてまた熱。―――流れ込んでくる。
シュライグが覆いかぶさって抱き合ったまま、私達はしばらく肩で息をしていた。
お互いの顔が見えない状態で、彼は私の髪を漉いてきた。
「はあ…すごくよかった、シュライグ」
私も彼の頭を撫でる。頭皮は汗ばんでいても、羽毛は相変わらずふわふわとつやつやだ。
今日はいい夢見れそうだと、とろんとしかけて―――
「いやまだだ」
続行宣言された。
「えっ」
「気持ちよすぎて、やりたいことができなかった…」
フェリジット…もう一度したい、と耳元で囁かれて断れる私ではない。
そうは言っても、まだ私の中に収まっているシュライグのモノはすっかり…比較的可愛らしくなっている。
「いいけど―――んっ」
またキス。
でもいつしても気持ちいい。
とろけるような口内を味わいあい、またおっぱいを揉まれて―――膣内のソレは、それだけで元気を取り戻していた。
そのまま抱き起こされて、いわゆる対面座位の形になる。
やりたいことというのはつまり。
「ひゃあっ!あっああ、そこだめってっ…んぁ、は、あっ」
しっぽの付け根を擦ったり叩いたり。
叩くにしても、最初とは明らかに違う。
パン!パン!という音の中には叩かれる音も混ざっている。
この体位もよくない。激しく揺さぶられる度に、ずちゅん、ずちゅんと最奥を抉られてしまう。
「フェリジット…、かわいいな、本当に…っ」
羽で乳首を器用にくすぐられて、また身体が勝手に跳ね上がった。胸だけじゃない。首筋も、脇腹もこしょこしょと…。
「ぅああっ!ふぅ、あっ、も、だめっ…おかしくなっちゃ…!ふぁぁ!」
耳まで咥えられる。なにも考えられない。
「いや、やぁ、ん、いく、シュライグ、イっちゃうよおっ!」
もう怖い。気持ちよすぎて怖い。理性や自分が吹き飛ばされそう。
シュライグにしがみつくと、そのまま強く抱きしめかえされた。腕で、翼で、すべて覆われてしまう。
イケよ、と囁いた声は、暴力的で優しかった。
私の声は聞こえない。叫んでいたのはわかる。上り詰めて何処かへ行きそうな身体は、彼がしっかりと抱きとめてくれていた。
で、喉がカラッカラである。
疲れたのだろう、シュライグはというと、ことが終わって軽いキスを交わして…間もなく寝息を立て始めた。
寝てる。
いや寝てやがる。
あの、ピロートークってご存知?
「………ほんっとマイペースなんだから」
―――シュライグに振り回されるのは正直言って楽しい。そして悔しいことに幸せを感じてしまう。…私はそういう気質なのかもしれない。
「でも、雰囲気くらいは大事にしてよねえ…このっ」
今回は最初から最後まで完全にやられっぱなしだった。
私とこういう関係になった当初は、あんただって可愛く喘いでたのに!
悔しいのでこうして反撃する。
恋人を差し置いてさっさと寝る方が悪いのだ。
「ふう…」
油性ペンでねこヒゲと…額に『肉』の字も書いてやった。
こうして再び彼の腕の中に収まる。
私も寝よう。
今日は愛しい人の寝顔を眺めながら―――『肉』と書かれたその寝顔を…。
「………。」
ふう…じゃないよ私なにやってんだ。
ヒゲ!肉!!油性ペンだぞ!!!
完全にぶち壊しだよ!!!
「………………ふっ。まあ…、ムードを壊すのは恋人に似ちゃったってことで」
明らかに私の方が悪質だったが、もう開き直って寝ることにする。
あまり目にすることのない、シュライグの慌てた姿を脳裏に描いて、彼の温もりとともに夢の中へ落ちていった。