猛者くん前日譚 修行編

猛者くん前日譚 修行編



ちび猛者「ダメですししょう、勝てません」

師匠「そりゃ普通に戦ったらそうなるな。じゃここで質問だ、なぜお前は俺に負けた?」

ちび猛者「座学のしゅぎょうですか?うーん…ぼくの努力が足りないからです」

師匠「違う、漠然としすぎだ。もっと掘り下げて考えろ」

ちび猛者「ほりさげるですか?うーーーん、ぼくの才能が足りないからです」

師匠「…………」

ちび猛者「正解ですか?」

師匠「…違う。子供には少し難しい質問だったか?…よし手を構えろ、最初はグー!ジャンケン!」

ちび猛者「ポン!……ししょう、なんですかそれ?」

師匠「これか?これはジャンケンの最終奥義、ピストルだ。出せば相手は負ける」

ちび猛者「そうなんですか?でもじゃんけんは3択なんじゃ」

師匠「ああそうだな『普通』のジャンケンだったらな、でも俺は『構えろ』って言っただけでなにジャンケンとは一言も言ってないぞ?」

ちび猛者「それは…」

師匠「ああそうだな、これはズルだ。俺が『お前に教えてない』ルールを勝手に強制し、そしてそれに乗ってきた『何も知らない』お前を至極当然のように負かした。…仮にこれがジャンケンじゃ無く本当の戦いだったらお前、どうなってたと思う?」

ちび猛者「!」

師匠「そういう事だ。お前は『俺がお前に教えた俺が知っている事』で俺に挑んでいる。俺のさっきのジャンケンと違ってこれまでただの一度も『俺の知らない』何かで俺に勝とうとしてない。本当に『考えて』俺に挑んでない。負けて当然だ」

ちび猛者「なるほど、だからししょうはぼくに昨日『もぎ戦をやる』と言ったんですね」

師匠「まあな、お前に備える時間をくれてやるつもりだったんだが…結局ネタバラシする羽目になっちまったな」

ちび猛者「うーーー、やはりぼくは努力が足りません、あたまも悪い」

師匠「そう自分を悪く言うな、足りない事を知ることそしてそれを自分で気付こうとするのも立派な修行だ。何よりお前は最後自分で気付けた、十分だよ。」

ちび猛者「ししょう…」

師匠「それに、こういう経験は今のうちに重ねる方が良い。お前が『まだ』俺より弱い間に重ねるに越した事はないからな…」


翌日


師匠「198、199、200、良しっ!魔力での圧縮移動練習は終わり!早朝の修練は以上だ!朝飯作ってくるから自主練か休んでろ」

ちび猛者「はぁ、はぁ、ハイ!」

師匠(ザッ)

ちび猛者(ししょうやっぱり早いな。同じやり方なのにどうしてぼくは遅いんだろう?)

ちび猛者(たぶんししょうの方がぼくより『あっしゅく』が強い、だからぼくより早い。だったら今のぼくはししょうより絶対遅いの?)

ちび猛者「『俺の知らない何か』、『本当に考えてない』。うーーーーん…」

ちび猛者(一回のあっしゅくでダメなら二回は?でもあっしゅくしてるのにもう一回あっしゅくなんて…あ!一回離してもう一回やれば良いんだ!これなら二回、いやもっとできるぞ!)

ちび猛者(ザッ!)「はぁ、はぁ、って早い!早くなってる!あ、でも動き出しが遅かったな、ちゃんと相手を見てやらないと動く前にやられちゃう。でもこれだ!これが『俺の知らない何か』って事なんだ!やったぞ!これなら勝てるかもしれない!みんなを助けられるかもしれない!よしっ練習だ!」


少年は知らない、己の天啓がもたらしたモノの意味を。

少年は知らない、彼がたった今、己が奥義への道筋を切り開いた事を。


少年はまだ知らない、この瞬間、その「出会い」は必然に成ったと言う事を。


そう、少年がソレに辿り着くのは今から少し経った頃だ。

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